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 なんか日曜日が終わってしまった……。

♢23♢


 今日は朝から異世界に来て、チョコレートを教え、チョコレートを考え、チョコレートを作り、俺は疲れていた。

 どうして朝早くからやって来たのかと言われれば、『日曜日くらい休みたい!』からだ。ここ数日での俺の疲労はかなりたまっていた。連日の激務によって疲れていたんだ。


 こんな時こそ、1日を2日にできる異世界の出番!

 こっちで1日チョコレート作って。自分のとこで1日丸々休んで。疲れを残していない状態で、俺は月曜日を迎えたかった……んだ。


 間違いなくクローゼットは閉まっていた。

 確認したから絶対だ。

 それなのに……。


「──どういうことだ! 戻ったら夜なんだけど!? 今日がチョコレート作りで、終わっちゃったんだけど!?」


 自室に戻ってみたら、窓から見える外が暗かった。

 初めは『そっか。日が昇る前に、俺は異世界に来ていたのか。知らなかった!』とか思ってみたが、そんなことはなかった。

 デジタルの時計が23時となっていたからだ。


「ちょっと、なにいってるのかわからない」


「今日、あれから何をしていた! どこに行って来たんだ! それとも嫌がらせか。クローゼットを開けておいたのか!」


「もうねるから、かえって」


 お姫様は昼から姿が見えなかった。

 調理場から俺を追ってきて、鬼ごっこだか、かくれんぼだかになって、再び調理場に戻った後から、お姫様は夕方まで姿が見えなかった。


 ……何があったのか? いつものやつだ……。

 俺のせいでお姫様が立腹なされ、城の中を追いかけられたんだ。自業自得です。分かってるから。


 問題はその後だ。てっきり、俺を探すのを諦めて、部屋にでもいたのかと思ったのだが、違ったらしい。

 それに嫌がらせと言いはしたが、お姫様はそんなことをするヤツじゃない。それに、嘘も苦手らしい……。


 先ほどから目は泳いでいるし、額にはダラダラと汗をかいている。

 この様子から察するに、どうやら俺には知られたくないことらしいな。


「分かった。ならば聞かない。日曜日は消えたが、過ぎたことを言っても仕方ない。さっき伝えた通り、明日は来ないから。明後日の早朝から来ます。いよいよバレンタインだ。何か問題があれば、セバスに言うんだぞ?」


「わかった」


「何かあればすぐに知らせろよ。ニクスに対応は伝えてあるが、万が一があるからな。おやすみ」


「おやすみ」


 俺も寝よう。1日中、慣れないお菓子作りに疲れました。このタイミングでの休息は大事だ。

 今日はもう風呂入って寝て、足りなかったら学校でも寝て。体力を回復させよう。

 仕方ないよね。だって、明後日はバレンタインの本場だしさ……。


 自室に戻り、クローゼットを閉めたところで、あることに気づいた。


 ──明後日がバレンタイン? 今日は11日だから、明後日は13日じゃなくて?


 部屋の電気をつけ、カレンダーを見るが、異世界二重生活の俺を、この俺は信用はできない!

 そもそも、今日が11日じゃないかもしれない。


 ──そうだ、携帯があった!


 必要ないから充電器に差しっぱなしだった、携帯を持ち液晶を開く。間違いなく11日と表示されてはいる。


 しかし……。


 信用できない俺を信用して寝ることなどできず、携帯を操作し、呼び出し音を聞く。

 数コールののち電話は繋がった。まだ起きていたらしい。


『……もしもし』


「今日は11日の日曜日だよね?」


『いきなりなんだ……。昨日が土曜日だったんだから、今日は日曜日に決まってんだろ。こんな時間に電話してきて、何事かと思ったわ!』


「こんばんは」


『最初に言えよ。なんなんだよ!』


 携帯の履歴。その1番上にあったルイに電話しました。

 やはり、日にちに間違いは無い。なら、おかしいのは向こうの……。


「──そうだった! 向こうは1日進んでるんだった!」


『もう、意味が分からないんだけど……。1日進んでるって、時差でもあるのか?』


「そうなんだ。時差があるのを忘れてた。悪かったな、勘違いでした」


 その時差も俺のせい。だいたい全部が俺のせい。主人公がだいたい全部悪いってヤバいよねー。

 そのうち、勇者とか現れて倒されそうで怖いわー。


『なんなんだよ……』


 日付に間違いがなかったということは、明後日は異世界のバレンタインだ。

 向こうは1日進んでる。すまない、たまに忘れるんだ。


 ほら、二重生活してると曜日感覚がなくなるじゃん。 ……えっ、異世界二重生活してるのは俺だけ?


『そうだ。電話してきたならちょうどいい。分かってると思うけど、明日遅れんなよ? 学校終わったら速攻で来いよ』


「ああ、了解です。ところで、カカオ豆は手に入ったのか? ないとチョコレート作れないけど?」


『さっき見たよ。ちゃんとある』


「おお、おっちゃんにしてはやるな!」


 明日は最後のチョコレート講座か。最難関のカカオ豆からチョコレートを作るが行われる。

 というか、おっちゃんが昨日いなかったのはカカオ豆を手に入れに行っていたのかな。


零斗(れいと)、良かったな』


「……なんの話だ?」


『なんでもない。用がないなら切るぞ』


 ルイに『良かったな』なんて、言われることに心当たりがない。

 やっぱり、皆目見当がつかない。幼馴染様は難しい。


 カカオ豆が手に入ってってこと? いや、違うよな。チョコレート講座が最後だから? も、違うよな。


「ルイ、いったいなんの話──」


『──ブツッ── ツーツーツー』


 き、切られた。まだ話はあったのに……。

 まさか、怒っていたんだろうか? こんな夜に突然電話したから。


『ツーツーツー』


 き、気にしてもしょがない。

 もう1回、掛け直す勇気はない。どうせやっちまったんだと思うから……。


 それよりクローゼットだ!


 寝る前にもう一度向こうに行って、いろいろ確認しておこう。何か見落としがあるかもしれないから。


 ──ガチャ、ガチャ


 そう音がするだけでクローゼットが開かない!

 お姫様はすでに鍵をかけたらしい。


「……寝るって言ってたしな」


 ならば、あまり使いたくは無かったがこれを使おう。ちょうど携帯持ってるし。

 ダイヤルを回し、呼び出し音がして、本当に繋がる番号なのだと驚愕する。掛けたのはセバスに貰った番号だ。悪魔の携帯電話の番号。


 問題なく掛かるとか、本当に悪魔どうなっているんだろう……。こわい。


 ガチャ……ブツッ──


「──切られた! 今一瞬出たよな!?」


 押し間違いとか、単に切っただけとか考えられるので、再度電話を掛け直すが、プルプル音がするだけで出ない!


 なんだが、みんなに拒否られてる気がします。

 これはイジメだろうか?

 俺も風呂入って寝よう……。




♢23.5♢


 セバスの携帯電話というヤツが音を出す。これは掛かってきているというらしい。

 セバスに相手が誰なのか尋ねたら、相手はあいつだ……。


 あたしが、クローゼットに鍵をかけたのに気づいたのだろう。けど、しばらく鳴っていた電話の音が止む。

 また少しして、再び電話が掛かってくる音がする。


「……姫様。相手は小僧ではないようです」


 そうか。セバスにではなく、あたしに掛かってきた電話ということか。


「貸して。 ……最初に『もしもし』って言うのよね? どんな意味があるの?」


「言わずともよいと思います。要は挨拶のようなものですから」


 なるほどと納得し、覚えた通りに携帯電話を操作する。必要になったから急遽覚えた。

 だって、話したいことは沢山ある。会わずともそれができるというのは、やっぱりズルい。


「こんばんは。ルイ、どうかしたの?」


 電話の相手はルイだ。彼女との関係は……なんと言うのだろう? 友達でいいんだろうか?


 友達。そう呼べるのは、数えるくらいの人数しかいない。そんなものは必要ないと言われてきたから。

 だから、あたしはそう振る舞ってきた。


「大丈夫よ、そんなことないわ。今日はありがとう。昨日に続いて、付き合わせて申し訳なかったわ」


 ルイは、『気にしない。友達じゃんか』。この子はそんなことを言う。

 けど、言っみて恥ずかしかったのだろう。すぐにそれを誤魔化す。


「何で笑ってるのか? ……なんでかしらね。ふふっ、ねぇルイは──」


 言われた通りにしていればいいんだと思ってきた。それが求められているんだから。


 でも、窮屈だったし。嫌だった。


 誰にも本心など見せないできた。

 誰もが、あたしをお姫様として扱うから。

 そう、求められるままに演じてきた。


 だけど、それは粉々に壊れてしまった。


 あれで、もう駄目だと思ってたのに……。

 誰も何も変わらなかった。

 今のところ。自分の周りは。ではあるけど。


 それも、バレンタインが行われれば分かるだろう。

 あの醜態を見てなお、当日みんなが来てくれたなら……。


 ううん、来てくれる。


 世界が変わるというのなら、自分もそうしなくては。違う、そうしたい。

 何も演じることもなく、ありのままの自分で、あたしはいたい。


「最後に聞きたいのだけど……バレンタインにチョコレートを渡すにはどうしたらいいの?」


 とても勇気がいる。自分にも分かるのはそれくらいだ。それを、ずっと続けていた友達にアドバイスを貰おう。


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