バレンタインをちゃんとやろうと思いました
♢19♢
「うわぁ……」
そうとしか言えない。そんなことがまさに今、目の前で起きました。何があったのかと言うとね。
お姫様に暴言を吐き、散々馬鹿にしたアンチの人たちがね、宙を舞ったんだ。
俺は、『──人間ってそんなに浮くの!?』って思った。
もう酷い目にあってる彼らだが、あれはアンチたちが悪い。だから仕方ない。
あれは流石に言い過ぎだ。俺も無神経な発言をするけどアレはない。そう思います。
貧乳とか女子に直接言ってはダメだよね。
思うだけにしておかなくちゃ。
そしてお姫様は気にしてたんだね……。
そして、今しがた宙を舞う思いをしたばかりなのに、アンチたちは起き上がり、お姫様に向かっていきます。今度は武器を取り出して。
これでも兵士たちは動きません。お姫様がいらないと合図しているし、実際に全然必要ないしね。
お姫様対アンチとの戦いが始まる! かつてないほどすぐ終わりそうですが、一応実況します。
──チャララララー、パパー、ドドドドッ──
アンチたちがあらわれた! しかし、アンチたちはラッカのダメージがぬけていない!
アンチたちはゴソゴソしてブキをとりだした。ブキをかまえ、オヒメサマをいかくする。
──しかし、オヒメサマはわらっている!
いかくは、まったくコウカがナイようだ。
オドシをわらわれ、アンチはテンパった。
テンパったアンチがブキをつかう! ナカマたちもしかけた!
──まだ、オヒメサマはわらっている!
アンチたちの『いっせいこうげき!』。
ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、ミス。
こうげきは、まったくあたらない!
──やっぱり、オヒメサマはわらっている。ちょっとこわい!
ヤケクソなアンチは『キタナイコトバ』をつかう。それにナカマたちものっかった!
アンチたちの『キタナイコトバ』の『いっせいこうげき!』ちょっと、おきかせできない!
「…………」
……オヒメサマのカオから、えみがキエル……。
オヒメサマのこうげき! ──バギッ!
オヒメサマのこうげき! ──ドグシャ!
オヒメサマのこうげき! ──チュドーン!
アンチたちは、ソラたかくテンにまう。
アンチたちは、みんしゅうのなかにおちた。
──みんしゅうのこうげき!
みんしゅうはナカマをよんだ!
みんしゅうはナカマをよんだ!
みんしゅうはナカマをよんだ!
みんしゅうはナカマをよんだ!
みんしゅうはナカマをよんだ!
みんしゅうは『カズノチカラ』で、アンチをふくろだだきにする。アンチたちはゴミのようになった。
──トゥルトゥルトゥル、トゥルットゥ──
※
「やめろーーっ! もうやめてやれ!」
民衆にボッコボコにされているアンチたちを救うべく、民衆をかき分け中心に向かう。
アンチが悪いがあんまりだった。これはひどい。
彼らはアンチだし、あまりフォローはしたくない。お姫様の信者たちこと、民衆を敵に回したくはないからね。
しかし……。
「──もうやめろ! 彼らはアンチだが、元を辿れば悪いのは俺だ! 俺が最初から、『バレンタイン最高! みんなで仲良くチョコレート食べよう!』って言わなかったのがいけなかったんだ。だから、もうやめてやってくれ……」
これでは、バレンタインどころではなくなってしまう。アンチを地面と同じ砂にするまで、民衆は収まらなかったかもしれない。
お姫様大好き信者たちはみんな、アンチに容赦なさそうだから。
「にいちゃん。お前……」
「こういう見るからにモテなそうな輩にこそ、バレンタインを広めなくてはいけないんだ! こいつらだって、多少なりとも興味があるからここに集まった。最初のバレンタインだからこそ、みんなに参加してほしいんだ!」
「にいちゃん。お前……」
「──うるせぇ、ちょっと黙ってろ! お前らをフォローしてんだから!」
「──えぇ!?」
アンチ風情が俺の台詞に割り込みやがってー。
この、まあまあな修羅場を乗り切るのは簡単ではないのに……。アンチ風情が邪魔しやがって。
「今年は女子からチョコは貰えない。しかし来年がある。まだ、バレンタインが始まってもいないんだ。その前から障害沙汰はちょっと……。流血沙汰もちょっと……。俺が責任者なんだからな! 俺はバレンタインに命をかけてるんだ!」
しくじったら俺の首が飛ぶんだよ。それも物理的にね。もう、かなりの額の金が動いているんだ。
例えば、材料調達の際の城の移動。あれは大変な額になるらしい。今日の宣言にだって金はかかっている。『できませんでした☆ テヘペロ☆』では済まないんだ……。
「だから、みんなで仲良くチョコレート食べよう? 大盛況で1人1つずつしかなくなってしまったが、チョコレートの試食だ。兵士くんたち。早く配って!」
集まった人が思った以上の人数だったので、1人1つになってしまった。諭吉さんをはたいてチョコレートを宣伝のために急遽用意したのだ。
「お前らも食べてみろよ。チョコレート。美味いぜ?」
「あぁ、オレらが悪かったよ」
「分かればいいんだ。一件落着だ」
この甘さは伝わるはずだ。ここにいる全員に。
「そうよね。誰かさんが最初から余計な発言をしなければ、揉めなくて済んだのよね。プロデューサーさんが悪いわよね」
上手くまとまったふうがあったのに、お姫様が割り込んできた。かなり不機嫌なご様子だ。
しかも、俺が悪いと言うし! 民衆にヤラレるから!
「……いや、直接口にしたこいつらが悪いだろう。俺は思ってはいても、あんなデリカシーのない発言はしないよ?」
「『思ってはいてもって』ことは……──あんたも思ってたんじゃないの!」
しまった、墓穴を掘った! 別に胸の話をする必要がなかった! そしてそのパンチは俺には避けられな、──バキッ!
「ぐはっ──、バカな、謝った意味がないだと……」
いくら加減されていようと、お姫様のパンチは無理だ。この服の防御力が高くても顔面では意味もない。
それなのに……この姫……殴った。ついに殴りやがった!
「この暴力姫! ついに顔面への暴力に訴えやがったな! 俺はただの人間なんだ。脳筋でもなければ、鍛えてもなければ、ドラゴンでもない! ふつーーーーに死ぬからな!?」
「自分の貧弱さを認めるとか、笑えるわね!」
「なんだとー」「──なによ!」
民衆が見ているし、アンチはなんだか変な顔をしているが、ここは引き下がれない! 暴力では解決しないんだと、このお姫様に教えてやらなくては!
人間なんて簡単に死んでしまうと教えなくては! きっと俺が死ぬ!
「……白夜さん。姫も。いいんですか? みんな見ていますが?」
そのニクスの言葉に俺たちは我に帰る。
「「……あっ」」
や、やってしまった……。
しかし、今更気がついても遅い。大分遅い。
お姫様なお姫様を演じてきた、お姫様の素が露呈した。して、しまった。
これは俺のせいじゃないよね? ……やっぱり俺のせい?




