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 ただ、菓子材料を買いに行く。だけだったのに。どうしてこうなった。んだろう。

 どこまでが友達で、どこからが恋人。

 どこまでが幼馴染で、どこからが異性。

 どうやら俺は、その分かれ道に迷い込んだらしい。


 しかし、不思議なことじゃないはずだ。ずっと一緒だったけど、兄妹ではないし姉妹でもない。

 だけど、そんなふうに意識したことなんかなかったんだ。その女の子は気がついたらいて、気がついたらいなくなってた。それだけだ。


 それでも、同じだけの時間を過ごしてきた。

 離れていた間にも、同じだけの時間があった。

 でも、想いまで同じとは限らない。俺は、さっきまでなら言えたことが、おそらくもう言えない。


『俺のこと。どう思ってるんだ?』


 こんな台詞も冗談まじりでよければ言えただろう。

 だが今となっては、そんなことを言ったら死ぬ。恥ずかしさとかで死ぬ。恥死(はじ)ぬ。


 俺は何故だか、幼馴染を急に意識するようになってしまった。きっと、そういう病気なんだと思う……。思おう。その方がいい。そうに違いない!


「あはははっ──……く、苦しい。本当にあんまり笑わせんなよ!」


 そして、それをうっかり口に出してしまったばかりに、幼馴染様にずっと笑われています。

 ファストフード店を出て、駅に行き、帰りの電車に乗り、帰り道をここまで歩いてくるまで『ずーーっと!』です。


 彼女も、最初は笑いを我慢していたんでしょう。ファストフード店では、かなり人目もあったからな!

 だが、ルイは店を出だ辺りから笑いを噛み殺してた。電車に乗ってからは、『ずーーっと!』からかわれてる。駅に着いて、家までの道でも変わらずに。


「──もういいだろ! なんだ、俺はそんなに滑稽か!」


「今更すぎるだろ」


「ずっと、滑稽なやつだと思っていたと……」


「違う違う、私のことだよ。今まで何だと思ってたんだよ?」


 お隣さん。幼馴染。すぐ手が出る女の子。こんなところかな?

 しかし、最後のやつは言えないよね。どうなるのか結果が分かるからね。とはいえ、答えは決まっている。


「ルイはルイだろ」


「そうだよ。ずっとそうだ。それなのに今更だろ? 零斗(れいと)、おかしなものでも食べたんじゃない?」


「食べてない! ……そんなに変か。そんなに笑うのか……」


 俺は真面目に悩んでるのに、そんなに笑わなくてもいいと思う。俺の繊細なガラスのような心が傷ついてしまう。割れて砕けて、お亡くなりになってしまう。

 物理的にだけでなく、精神的にもいじめないでもらいたい。泣いちゃいそう……。


「悪かったよ。でも、こんなことがあるとは思わなかった。零斗はもっと図太いんだと思ってた。意外と純情だったんだな」


「そうか、俺は純情な男の子だったのか。自分でも知らなかった。邪念の塊だと思ってた」


 あるいは、悪魔に気に入られるくらいにヤバいヤツなんだと思っていた。

 だが、これは純情って言うらしい。そう聞くと可愛くなる気がする。


「また、明日な。遅れんなよ?」


「善処します」


「心配なら、朝起こしに行ってやろうか?」


「──やめて! 安眠できなくなるからやめてください。本当にお願いしますから!」


「わかったよ。ちゃんと来いよ? 遅れたら起こしに行くからな。じゃあな」


 目覚めてルイが目の前にいたら、心臓が止まるかもしれない。そしてやはり、お亡くなりになってしまう。

 なんなんだ、ルイのやつは。これ見よがしにからかいやがってー。


「……こんなにルイにいじられるとは。初めてだ……」



 ※



 翌日。この表現しにくい気持ちを整理するために、異世界にやってきた。早朝に来たから、こっちも早朝だ。

 何故かは知らないが1日ずれてるんだー。不思議だねー。


 ミルクちゃん発案の、『いきなり! バレンタイン宣伝作戦!』は、本日のチョコレート生成前に片付けることになった。

 何より時間がほしい。気を紛らわせたい。それには宣伝作戦はうってつけだ。


 しかし、早朝だというのに、お姫様は部屋にいない。寝てたら悪いからノックしたのに無駄だった。

 お姫様は朝が早い。規則正しい生活をしているためだろう。


「で、主役はどこにいったんだ?」


 昨夜。宣伝のことを伝えはしたが、もう出掛けたということもないだろう。プロデューサーである俺がいないし、具体的なプランはこれから考えるんだからな。


「城の中を探すか」


 お姫様の部屋を出て、すっかり慣れた城内を歩いていく。朝早いからか人の気配がない。

 いつもはそんなことないんだけどな。


「なんか人いないんだけど……」


 進めど誰とも会わず、階段のところまで来てしまった。さて、上に行くのか。下に行くのか。

 ああ、そういえば! 今思い出したんだが、城内にプロデューサーとなった俺の部屋も存在する。


 今のところ部屋があることに、あまり意味はないけどな。何するにしても、お姫様の部屋の方が広いし、お姫様も文句言わないし、帰るにも便利だし。


「「ワァァァァァァァァァァァーーーーッ!」」


「──何事!?」


 急に下の方から響く大きな声。焦って階段を下りていき、声の出ところを目指す。

 1階まで下りてしまったが、それでも人はいない。が、熱狂しているかのような声はし続けている。


 声がするのはこっちだ。正面ではなく裏の方か。

 そういや、城の裏には何があるんだ? 機会もなかったし、一度も行ってないな。


 熱狂の声の他に、人の話す声がするところまできた。というか、人山ができていて向こうの様子を伺うことができない。

 仕方がないので、近くの兵士を捕まえて話を聞いてみた。


「みんなして早朝から外で何やってんだ? ……えっ、それはどういう……。ふむふむ、なるほど、なるほど、へーーっ……マジか。マジか!?」


 そんな内容だった。おそるべし、お姫様としか言えない。本来なら盛り上がりはしないことのはずだが、早朝にもかかわらずお姫様の出現により、城のみんなが見に来る、一大イベントと化したらしい。

 俺は、『お姫様がいたら俺いらなくね?』そう思った。


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