材料調達。その2。カカオ豆。 ③
苦労はした。苦労はしたが、──材料は揃った!
ようやくチョコレートの材料である砂糖と、カカオ豆を手に入れた! 最後に『っぽいもの』と付けなくてはいけないのが気にはなるが、揃ったのだからいいさ。
だが、チョコレートの生成にはもう1つ、カカオバターなるものが必要であり、『カカオバターってなに?』そう思ったのだが、カカオバターはカカオ豆の油だったのだ。
つまりは、カカオ豆を加工する過程で手に入るものということだ。その加工も、ここまでものすごーーく活躍した俺に代わり、セバスとニクスがやってくれるらしい。
やってくれると自発的に言うんだ。悪魔たちに任せよう。
きっと彼らは分かってる。俺の頑張りを! プロデューサーの本来の役目を!
俺の近々の最重要な役目は、チョコレートの生成法の会得。それが行われるのは明後日なんだ。
俺は材料調達が終わったら休みがあるというわけだ!
だ
、
か
、
ら
、
「──諸君、良くやった! 無事に材料は手に入った! これも兵士諸君の尽力があったからだ。これでバレンタインは行われ、お姫様がチョコレートをくれる!」
城の男性陣(材料加工組以外)が勢揃いしています。材料調達の結果がどうにも気になっているんだね。
みんな、お姫様からチョコレートを貰いたいからですね。知ってる。
「これは諸君へのささやかな御礼だ。手に入ったドラゴン肉で宴といこう。見た目はアレだが毒い植物もかなり美味しい! そしてこれは私からの贈り物だ。是非とも肉に使ってくれたまへ!」
ドラゴン肉を切り分けてもらい、焼肉スタイルで提供できるように手配してもらった。それを城の庭部分に持ってきて、ドラゴンバーベキューとしてみた。
ちなみに俺からの贈り物というのは、焼肉には欠かせないものだ。あれだよ。そう、大量に焼肉のたれを持ち込みました。
そんなにどうしたのかって?
決まってんじゃん。諭吉さんを使ったんだよ。
「無礼講だ。酒も肉もある。楽しんでくれたまへ」
こういうの酒池肉林っていうんでしょう。1回やってみたかったんだ。
まあ、俺は酒は飲まないけどね。ジュースでいいよ。
「焼けや、飲めや、歌えや! 踊っても構わんぞ。芸があるならしてみせろ。宴だ!」
あと、ドラゴンの素材も足りるとのことでしたので、念願のドラゴン装備も発注しました。全身発注しました。
きっと、これからの戦闘に役立つことでしょう。
──そして、宴は始まった!
このようにして始まった宴。飲んで騒いでの宴。
バレンタインの前祝いと言ってもいいこの宴は、塩味のみだった肉に新たな味をもたらし、見るからに怪しい毒い植物が美味しいと知る、革命的なものになった。
「プロデューサーさん。ちょっとこっち来て」
その宴を開催し、焼肉のタレを持ち込み、毒植物の美味しさを発見した、本日最大の功績者である俺。
未だ盛り上がっている宴の中心にいた俺は、ニコニコして現れたお姫様によって、城の裏に引きずられていく。
「労をねぎらう。これは仕方ないと思うわ。そんな、労われてるみんなから聞いたんだけど……」
お姫様に壁に押し付けられ、顔の横に手が飛んできた。これは、まさしく壁ドンだ。
しかし、色気のある話にはならない。『あっ、逃げなくちゃ』そう思うからだ。
「──あんた、何て言ったの!? どうしてあたしが、チョコレートを配ることになってるの! 尾ひれどころか色々着色されてるし。逃げんな!」
俺の1億倍くらいの戦闘力のある、戦闘民族なのかもしれないお姫様から、単なる地球人である俺が逃げ切れるはずはなく、あっさり捕まり元の位置に戻され、アイアンクローされる。
「痛い、いたいいたいいたい。痛いっ!」
「まず、手作りチョコだし」
抗議は無視され、ジタバタは意味がなく、ギリギリと手に握力が加わっていく。
このままではリンゴのようにグシャっとなるのは明らかだ。痛い! 割れる、われる──
「話をしよう。話せば分かるって! 痛いから! 割れるから!?」
「日頃の感謝の気持ちを込めて」
「もう、ギブアップ……。だれかたすけて……」
「1人ずつ……す、好きです。って言うってなに?! どうしてそんなことになってんのよ! 何を思ってそんな嘘を言ったの!」
怒れるお姫様の力は緩むどころか、少しずつ強くなっていく。お姫様の底が見えない! このままでは死ぬ! この姫はドラゴンよりヤバい!
「ほっぺに……キ、キスするなんて話も聞いたわよ!」
「ぼくは、そんなこといってない。しらない」
「他にも……」
何かを言おうとして赤くなるお姫様。なにを聞いたのだろう……。というか、力が増しているんだけど? そろそろ死ぬんだけど?
「──とにかく! あたしは何もやらないからね!」
「そんな! みんなにぶっころされるよ!?」
「知らないわよ! 自分で責任を取りなさい!」
※
「──と、いうことがあったんだ。助けてミルクちゃん!」
お姫様から命を残したままどうにか逃げ出し、宴を捨てて、他の奴らにぶっころされないために、安全そうなコンビニに避難してきました。
ほとぼりが冷めるまでミルクちゃんに匿ってもらえることになったので、経緯を説明した次第です。
「……バレンタイン。姫様からキスがプレゼントされる。なんて素晴らしい催し……」
しかし、ミルクちゃんの様子がおかしい。
バレンタインはキスされるイベントではないし、そのせいでお姫様にアイアンクローされたと話したのに……。
「えっ、ミルクちゃん。ミルクちゃんはそういう人だったの?」
「プロデューサーさん。私も協力しますから! 絶対にやりましょう。バレンタイン!」
「いや、そういう人だったの?」
「そんな催しが存在しているなんて……。人間さんはなんて素晴らしい。なんとしても、姫さまからキスを貰わなくては!」
──お姫様は女子にも大人気! とはなんか違うよね。もちろん、それも違うとは言えないけどこの子のは、おっさんたちや兵士たちと同じ感じだよね?
しかし、そういうのも個人的にはアリだと思います!
「──素晴らしいと思います! 城下の人たちは私が集めますから、バレンタインの宣伝をやりましょう。ここで!」
自分の欲望のために行動するのかと思ったら、意外にもミルクちゃんはまともな事を言う。俺とは違うらしい。
だが、広報がまったく足りていないのは事実。
担当の二クスは材料の生成の方に回ってしまっているし。
バレンタインの宣伝を、良くも悪くも目立つ外装のコンビニでか。悪くはない。ミルクちゃんが人も集めてくれると言うのなら、お姫様を連れてくるだけでいいし。
「明日やりましょう! 時間がないなら早い方がいいです」
「えっ、明日? そんないきなり……」
「──やるんです! 明日やるんです! もう日にちがないんですよね? 悠長なこと言っていてはダメなんです。私もチョコレート貰いたい!」
あ、悪化したーー!?
お姫様をどう説得するか。もしくは、野郎たちをどう誤魔化すかを相談しにきたのに。
まさかのチョコレート貰いたいヤツが増えた。どうしよう。このままでは本当にぶっころされる。




