ルイちゃんのチョコレート講座! その4
やっと来た木曜日。俺は現在、本日のチョコレート講座の材料を買いにきています!
「おい、早くカゴ持ってこいよ。時間ないんだから」
今日は何故だか材料を買うのにルイも一緒です。『お前が買い間違いしそうだからじゃね?』と思ったキミは正しい。同じことをルイにも言われました!
そんなわけで待ち合わせというか、家から一緒に来ました。俺たち家が隣なもんで……。
しかし、材料を買おうにも近くのスーパーは朝早くからは開いておらず、コンビニには売ってないとのこと。なので俺がよく学校前に寄る、7時から開いてるスーパーにやってきている。
だが、ここは俺の学校の途中であって、ルイにとっては寄り道どころではない。ルイの学校は今いるここから、3駅先なのだ。時間はかなりピンチである。
乗り換えの電車の時間を計算し、スーパーから駅までの時間を計算し、ギリギリであると言っておこう。
……実はこの計算はすでに狂っていたりもする。
このプランは駅から、自転車で2人乗りをした場合で計算していた。
しかし、すっかり忘れてたんだけど、自転車はパンクしてたわ! 直さなくちゃ!
「──零斗! 時間ないって言ってんじゃん! 早くカゴ持ってこいって!」
説明が長くなりましたが、自転車がパンクしてたのでピンチなんです! ルイは急いで駅まで戻り、学校まで行かなきゃならないのです! ここでもたもたしてると遅刻です!
「──お前、話し聞いてんのか!?」
もう、昔からせっかちなんだから。大丈夫だって。諭吉さんのいる俺に不可能はないんだ。
すでにタクシーを手配した。駅までタクシーで行かせれば電車には間に合うでしょう。
「聞いてますよ。カート引いてけばいいんでしょ?」
「いらねーからな! カゴだけ持ってこい!」
そして、買い物は無事に最速で終了した。今日はなにやら粉を色々と購入しました。
お菓子用のアーモンドとかもあります。チョコレートと白い粉とアーモンドで、いったい何になるんでしょう? また、完成形が見えないな……。
「──じゃあ、私走ってくから!」
「まて、学校に行く前から疲れる必要はない!」
スーパーから出るなり走っていこうとする、ルイちゃんを呼び止める。喋っていると、電車に間に合わない感じだが問題ない。
「意味わかんないんだけど……」
「タクシー呼んだから駅まで乗っていけ!」
「いや、そんなわけに……」
「──こっち! 運転手さんこっち!」
「もう着いてる!?」
そりゃあ向こうも商売だからね。来いと言われれば急いで来るでしょう。
スーパーの前という分かりやすい場所だったので、スムーズにタクシーが見つかった。あとはどう乗せるかだが。
「買い物に付き合わせたのは俺だ。遅刻なんてさせたら、おばちゃんにぶっころされる。だから、乗ってって」
こう言えば、素直じゃないルイちゃんでも乗っていくでしょう。ただ、遅刻させた場合は、本当にぶっころされる可能性は大いにある……。
「じゃあ、駅までよろしくお願いはします。ルイ、また放課後な!」
運転手にお金を渡しルイを見送ります。ここからワンメーターで駅まで行くだろ。
お釣りはいらないぜ! 千円しか渡してないけどね。
さて、俺も学校に行きますか。歩いてね。
……スーパーの袋とかを学校でどうしているのか?
そんなの学校にある冷蔵庫を勝手に使っているに決まってんじゃん? バレなきゃいいんだ! バレなきゃ!
ルイはギリギリなんだろうが、俺は歩いて行ったとしてもだいぶ早い。授業までチョコレートの材料でも調べ直して、帰ったらプリントアウトしよう。
そろそろまとめて、ニクスに渡して、材料も確保して貰わねばならないからな。
※
はい、そんなこんなで第2回。ルイちゃんのチョコレート講座です!
今日はブラウニーチョコを作るらしいっす。
ブラウニーだろ? しってる。しってる。あれだよね、あれ。
「チョコレートを使ったお菓子だよね。美味しいよね! ブラウニー!」
「何作るにしても、全部にチョコレートは入ってるけどな? 本当は知らないだろ。ブラウニー」
「そ、そんなことナイヨ? 一番好きよ。ブラウニー」
ブラウニーなんて本当は知りません。ブラウニーって何? 誰? 今日も完成系が見えない。
きっと、この先いくつお菓子を作ったとしても、チョコレートを使うお菓子としか俺には分からないだろう。それはみんな知ってるって? ……俺も知ってる。
「まぁ……いい。今日のは出来上がるとこうなる」
今日もルイによる自作のブラウニーの画像を見せられる。ステック型の。なんというか、シリアルバーみたいなチョコレートと言えば分かるかな?
それが可愛くデコレーションされている。こいつがブラウニーチョコらしい。
「チョコレートってこんなふうに固まるのか? トリュフチョコとは違うだろ?」
「やっぱ知らないのな。なら、知ったかぶりはやめろ! これからお前には、全部知らない程で話すから」
こんなすぐにバレるなら、正直に言えば良かったな。次からは、何も分からないと言うよ。
「今日のは簡単だから2種類作る。零斗、ナッツ入りね」
「ナッツ? ナッツ姫──」
「お前は今日もふざけていくのか?」
「すいませんでした。真面目にやります!」
※
ブラウニーチョコを作る。工程1。
意味は分からないが粉をふるう。
「どうして粉をわざわざふるうの? その方がカッコいいから?」
「そんな理由なわけねーだろ! ふるってダマをなくすんだよ。あと、空気を含ませると焼き上がりに差が出る」
「今日はチョコレートを焼く……。昨日の煮るでも衝撃的だったのに……」
「その焼くも間違ってるし、昨日も煮てないからな」
理由が分かったところで粉物を全種ふるいます。
薄力粉。ココアパウダー。砂糖。などなどふるいます。それと、何故だかホットケーキミックス……。
「このホットケーキミックスはなんなの? 1人だけ、どう見ても仲間外れじゃん。ホットケーキも作るの?」
「そっちはお前用だよ」
「……俺だけ雑じゃね?」
イジメだろうか? 俺だけ仲間外れの粉で作らされるとか。俺のは完成したらホットケーキになるんだろうか?
「逆だから。ホットケーキミックスには、お前が今ふるってる粉が全部入ってんだよ。ココア以外ね」
「じゃあ、全部ホットケーキミックスでいいじゃん」
「素人と一緒っていうのはちょっと……」
プロは雑魚と同じじゃ我慢できないんだって!
確かに、映える写真のはすごかったですけど!
「早く終わらせろよ。いつまで粉に時間かけんだよ」
「えっ、早! もう終わってる!?」
ルイは俺が粉をふるう間にチョコレートを湯せんしていました。この工程はチョコ関係に絶対に必要らしいです。
刻んで温める。それだけでも雑魚には難しいのに。これがプロとの差か……俺は雑魚と認めるしかない。
「何で板チョコ残ってんのに、他のチョコレート買ってんのかって思ったら。それ、混ぜんのね」
湯煎されるのを見るまで、違う板チョコはおやつ用かと思ってた。お姫様じゃないんだから違うか。
「1種類じゃ味変わんないからな」
「なるほど。それと、先生こっちも終わりました!」
粉物をふるってみた感想は、粉をふるうとめっちゃ細かくサラサラになるね!
この変わりようを見てしまうと、最初はマジでダマだったなと思う。
工程2。ナッツを焼く。違う! ローストする!
焼くとどう違うのかは分かりませんが、ローストすると言うらしいよ?
フライパンでナッツを弱火で炒めます。焦げないように常にナッツたちを動かして。いいよと言われるまで……。
「ねぇ、ちょっと。まだ炒めんの?」
「まだ! 色変わるまでだ。火、強くすんなよ。焦げるからな。焦がしたら焦がしたやつ、全部食わせるからな」
この間、ルイは卵に砂糖を入れてかき混ぜています。きっと自分のやつですね。
だって、ホットケーキミックスに砂糖入ってるもん!
「こっち見てないで、フライパン見てろって!」
「作り方も見とかないといけないだろ!」
「材料だけちゃんとしてたら、ブラウニーは粉とチョコレート混ぜるだけだから! 見逃して困るところなんてない!」
「ええっ!? 今日のはまとめるとそれだけなの!」
そのまま工程3。チョコレートに粉を入れ混ぜる。本当にこれだけだった……。
せっかくローストしたナッツは放置して、湯煎したチョコレートに粉類をぶちこみます。
俺はホットケーキミックスだけどね? ああ、だけど卵と砂糖混ぜたやつはこっちにも入ってました。
「混ざって生地になったらオーブンで焼く。零斗、オーブンを使う場合も焼くって言うの。分かる?」
「……分かるよ。本当だよ?」
オーブンシートに生地を流し込みトントンします。トントンだよ? トントン! 空気を抜く意味があるらしいよ。トントン。
俺の方の生地にはナッツを入れ、オーブンで20分くらい。ルイの方の生地は順番待ちすることもなく、和菓子屋の方で焼くらしい。
ルイはすぐ戻ってきたし、おっちゃんが見ている係でしょう。
〜ブラウニーが焼けるまで〜
「焼けたら冷ましてデコる。いや、零斗の方は切ってからデコるか」
「初心者への配慮っすね。あざっす!」
「いや、単にお前が下手くそそうだからだけど」
……らしいよ。
「ところで明日の放課後は暇か?」
「あぁ、バイトはしばらく休むことにしたから暇だ。なんかあるのか?」
そうなんだよ。金、土、日曜日はバイトだったんだが、バレンタイン作戦終了まで理由をつけて休むことにしました。
知り合いの店だし、その辺の融通は利くのです。
「カカオマスを買いに行こうかと思って。ココアバターもか。どっちも製菓材料店に行かないと買えないから」
第3段階目というわけだ。材料をスーパーで買えないとなると、いよいよという感じがしてくるな。
チョコレートから派生したお菓子をこうして作っているが、本当はチョコレートそのものを作らないといけないわけだからね。逆行しているんだよ。
「そうか。俺の予定は大丈夫だが、そっちは大丈夫なのか? 連日、俺に付き合ってて」
「嫌ならやめてるよ。それに、自分でお菓子作ってんのと大して変わんないから」
「じゃあ明日な。ところで製菓材料店はどこにあるんだ? そんなん聞いたこともないんだけど」
「学校の近くにある。集合は駅前な」
それは俺は存在すら知らないはずだ。ルイの学校のある方になんていかないもの。
何の用も必要性もないし。いくつか学校があるとしか知らないっす。
「明日、材料を買ってきておいて、土日使ってカカオマスからチョコレートをやることにする」
「えっ、材料あってもそんなかかんのか?」
「チョコレートにするだけなら1日で足りるけど。お菓子にしなくていいのか?」
そうか、どうするかな……。
チョコレートの状態で提出して、これを作るとした方がいいか? お菓子にしてしまってもいいが、時間の問題もあるし。
「うーん、チョコレートの状態でキープで」
「なら、日曜は休みだな。月曜日にはカカオ豆が入るらしいから、豆から作んのは月曜以降だ」
ギリギリだな。やっぱり材料の確保は最優先だ。
決して忘れてたわけじゃないよ? 体験してからって思ってたんだよ? 本当だよ?




