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 みんなチョコレートって作れる? 豆から。

♢7♢


 お姫様とお出かけした翌日。今日は月曜日です。

 なんか学校らしいから、仕方なく学校に行く。

 しかたなくだ。しょうがないからだ。


 本当はチョコレートについて情報収集したかったのだが、月曜からサボっては目立つ。

 俺の普段を考えると、それは避けねばならない。

 今後、サボらなくてはいけない状況がないとも言えないし。いざという時まで残しておくべきだ。


 ……何を? サボりチャンスだよ。知らないの?

 年に何回かは許される、学校をサボってもいい日のことだよ。そんなのない? そんなバカな!


 まあ、その話はもういいじゃないか。

 俺はちゃんと学校に来ているんだから。

 サボってない。授業にも出ている。何も問題ない。それでいいね?


 ──では、昨日の話から始める!


 最後に少しだけ、いい雰囲気だった気がする昨日。

 その最後の最後は置いてけぼりだったんだけどな……。


 まったく、上手いこと家族に見つからなかったからいいようなもんだよ。機嫌の悪いセバスは、ズカズカ家に入って行くし。お姫様もそれについていく。

 そして2人とも、そのままクローゼットに消えていった。で、終わりだ。


 ……終わりだって。他に語ることはないよ?


 1つ気になったのは、何でセバスはあんなに機嫌が悪かったんだ? 情緒不安定なんだろうか?

 もう、歳なのかもしれないな……。おじいちゃんだし。


 と、そんなことを考えながら今日1日、学校でチョコレートについて調べた。捗る捗る。もう驚くほど成果が出た。

 ──うん、授業はまったく聞いてない! だからなに? コホン……しかし、その結果判明したことがある。


 残念ながら俺じゃあチョコレートは、どーーにもならないということが判明した。


 板チョコを湯煎して。これは何とか俺でも分かる。

 だが、板チョコがなかったら? チョコレートすらなかったらどうする? 作れるかチョコレート?


 チョコを買い漁り、バレンタインをやるのは現実的ではない。そんな予算もない。

 予算が出るのは向こうの通貨であって円ではないんだ。


 ──なら、やっぱり作るしかない!


 ネットで、カカオ豆からチョコレートを作る。そんなページを発見した。

 当初は、『何だ、載ってるってことは簡単なんじゃん!』とか思ったのだが、実際はくそ難しいと書いてあった。素人は絶対にやらない方がいいと。


 結論。『無理じゃね?』となった。

 素人が沢山いたところで無理なものは無理!


 これにてバレンタインの野望は終わり……。









 ──なんて、俺は諦めがよくない!

 悪魔に執着を褒められるほどだからな! クックック……ハーハッハッハ!

 しかし、現実問題として、ネットの知識しかない俺には手がない。だから聞いてみようと思った。プロに。



 ※



 1日しっかりと学校で勉強し放課後となった。

 バイトはないのでさっさと帰宅。は、せずに自宅の横の和菓子屋へと足を運ぶ。


 ……何年ぶりだろうか。小学生以来か?


 以前は、自分で開けなければならなかった入り口のドアは、自動ドアに変わっていた。その自動ドアが開くと、来客を知らせる音が店内に鳴る。


 知らなかった。なんかハイテクだ。


「へい、らっしゃい。何にしやしょう?」


 ハイテク化しても、これは変わらないのか。

 ──何屋なんだよ! って思う。少なくとも和菓子屋ではない。


「……なんだ、零斗(れいと)じゃねーか。珍しいな。冷やしか?」


「客という可能性は、最初からないんだ……」


 誰だか分かった途端にこの対応。

 おっちゃんにとって、お客様は神様ではないらしい。いや、俺が客と思われてない?


「なんだ、客か? ──何にしやしょう!」


「いや、買わないけど」


「結局、冷やしじゃねーか! 忙しいんだ。帰れ!」


 お客様が神様っぽくて良かった。だが、和菓子を買いにきたわけではないので買わない。そして、用事があってきたんだから帰らない。

 どう切り出すかと考えていたが、流石はおっちゃん。勝手に付け入る隙をさらしている。


「忙しいって、競馬新聞読むのに? おばちゃんに言っちゃおうかなー。おっちゃんは店番しないで遊んでたって」


「ぜってー、言うなよ?」


「分かった。その代わり、ちょっと聞きたいんだけど?」


 だったら最初からちゃんと店番したらいいのに。とは思うが言わない。

 あと、おばちゃんはそのくらいは分かっているってことも言わない。


「……俺にか?」


「ああ、和菓子のプロにだ。どうしても聞きたいことがあって、わざわざきたんだ」


「わざわざも何もウチは隣なんだが……。だが、プロってのは本当のことだな。何だ、言ってみろ」


「チョコレートって豆から作れる?」


 おっちゃんは俺の質問に、持っていた競馬新聞を置き、何故だか立ち上がって、店の前に誰もいないことを確認して、元の位置に戻った。


「──ふざけてんのか!? ここを何屋だと思ってんだ!」


 ──で、キレた。

 昔から、やかましいおっさんだ。本当に成長しない。これだからおっさんたちは……。


「和菓子屋だろ」


「分かってんだったら、チョコレートなんて言葉。どっから出てくんだ!」


「売ってんじゃん。チョコレートケーキ」


 そう、この店にはケーキも売っているのだ。

 和菓子屋とはなんなのか? とは言うまい。

 商売とは、いろいろ大変なんだと思うから。


「──んなもん、できてるヤツ使ってるに決まってんだろ! 和菓子屋がチョコレートなんぞ作るか!」


「やっぱ和菓子屋じゃダメか……」


 ここまであえて説明しなかったが、このおっちゃんは、お隣の和菓子屋の店主だ。

 もしかしてと思って、チョコレートのことを聞きにきたが、やっぱりダメだった。


「おばちゃんは?」


「配達でいねぇぞ。だから、サボってたんだからな」


 以前は配達をおっちゃんがやってけど、こんなんだから、配達はおばちゃんに代わったらしい。

 確かに、こんなんが配達に来たら俺は嫌だ。


「威張んなよ……」


 おばちゃんはいないのか。

 おっちゃんは使えないと判明したが、おばちゃんにはまだ可能性があったのに。

 いないのではしょうがない。出直すか……。


「なぁ……」


「なに?」


「…………………………」


 おっちゃんは何かを、言うか言わないかを悩んでいるようだ。そして長い間を空けて言った。


「何で、ルイに聞かねぇ?」


「聞けたら、きいてますー。それが無理だから、おっちゃんに質問したんだよ」


「機会があればと思ってたんだ。ちょうどいい。どうしたんだ。お前ら?」


 いつかは言われると思っていた。

 思ってはいたが、いざとなると答えに困る。


「仲良しが、どうしたら口すら聞かなくなんだ? おかげでウチじゃ、お前の話は禁句だ。話題に出れば一人娘の機嫌はひたすら悪くなる。口にした日には、俺までとばっちりだ……」


「わからない。あいつが何に怒ってるのかが、分からない」


 いつからだったか、幼馴染とは口すら聞かなくなった。俺は、そのきっかけがわからない。

 何かに怒っているのは何となく理解してた。

 けど、そんなのは日常茶飯事で、いつもの延長線上のことだと、そのうち元どおりになると思ってた。


 だけど、元どおりにはならず、次第に会話することも少なくなり、今じゃすれ違っても挨拶すらしない。

 仲良しだったのは昔のこと。今じゃ何を考えているのかも、何に怒っていたのかも分からないというわけだ。


「どうせ、お前が悪いんだ。謝ってルイに聞けよ」


 将来の夢はお菓子屋さん。その夢を叶えつつある幼馴染。ちゃんと、そのための進路を決めて進学した。

 行ける学校で、それなりにいいところを選んだ俺とは違う。


「いい事を教えてやる。最後には男が折れなきゃなんねーんだ。世界はそういうふうになってる……」


 何て心に響く言葉なんだろうか。まさに、おっちゃんだから言える言葉。

 日頃からおばちゃんに叱られてる。このおっちゃんならではの言葉だ。


「俺に『死ね』と言うんだな? おっちゃんよ……」


「あぁ、そうだ。2回も3回も死にやしない。死ぬにしても1回だけだ」


「知らないのかもしれないけど、命はひとつしかないんだよ?」


「いつまでも喧嘩してんなってことだ」


 1回は死ぬ。絶対にだ。仮に復活できたとしたら2回目も死ぬ。

 残機を無限アップしてない限りは、生き残れる気がしない。そのくらいに幼馴染さんは凶暴なんだ。


「──マジで!? 本当に? 冗談じゃなくて?」


「嫌ならいいぜ? 昨日、女と歩いてたって口を滑らすだけだ。きっと、いろいろと大変だろうな」


 ──なぜそれを!?

 誰にも気づかれてないと思ってたのに。よりによって、おっちゃんに知られているとは。

 これはマズい。口を封じないと拡散してしまう。


「絶対言うなよ! フリじゃないからな!」


「お前、次第だな」


「やります! お嬢さんはご在宅でしょうか!」


 万が一にもルイと顔を合わせたくないから、和菓子屋の正面から入ってきたのだ。

 家側から入るとなると、インターホンを鳴らしたらルイが出てくる可能性が高いからだ。


「まだ帰ってきてねぇ。伝えとくから、明日おんなじ時間に来い。死ぬ覚悟を決めてこい」


 おっちゃんに脅され、長々と喋ってしまったお詫びにチョコレートケーキを買って和菓子屋を出た。

 このケーキはお姫様に食わせよう。まだ、甘いものは摂取しなくても大丈夫だから。


 そして、次回のタイトルが『白夜(はくや) 零斗(れいと)、和菓子屋デ死ス』じゃないことを祈るばかりだ。


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