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竜の翼ははためかない6 〜飛翔するは悠久の空〜  作者: 藤原水希
第二章 おおうなばらをすべり、おおぞらをとぶ
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チャプター6

〜北方地域 上空〜



 エルリッヒの角が、白く発光し始めた。それは、雷の力を行使する前の合図。落雷をはじめとした雷の力を目の当たりにして、生きていたものはこれまでほとんどいない。ましてそれが戦っている相手であれば、なおさらだ。

(こんなところで時間を食うのは嫌だし、隠し種の攻撃なんかを出されても、面倒だし)

 そんな思いで少しばかり攻撃の手を絞めることにした。あらゆる攻撃パターンを鑑み、選択した雷の力だが、そこに深い意味はない。炎でも、氷の力でも、別に構わないのだ。だが、なんとなく、雷の力だった。

「お、おい。こいつの角、なんか光ってやがるぜ?」

「だな。発光性の角か。切り取って持ち帰れば、喜ばれるかもしれんな。けど、急に雲行きが怪しくなってきたな、こりゃ、嵐が来るぞ」

 事実、それまで爽やかに晴れ渡っていたというのに、急に黒雲が立ち込めていた。人間よりも鋭敏な感覚を持つガーゴイル、気温や気圧の低下を、全身で感じ取っていた。

 それが自然現象なのか、はたまた作為的な天候の操作なのか、二匹には判断できないでいたが、少なくとも、角の発光と無関係ではなさそうだと、結論付けていた。

「あの角の発光、気になるな。雲行きと無関係とも思えないし、何か仕掛けてくる前に、一気に畳み掛けちまうぞ」

「そうだな。俺たちの方が、上位の存在だってことを、思い知らせてやる! 弾けろ、火の玉!」

『!』

 示し合わせたように、二匹のガーゴイルは手のひらから火球を撃ち出してきた。そして、エルリッヒもまた、そのうちの一匹目掛けて落雷を放っていた。

 互いに、避けることも防御することも叶わなかった。

「ぎゃあああああ!!!!」

「ぐわっ!! か、雷……だと?」

 すぐそばでの落雷。轟音と閃光が同時に襲う。次の瞬間、仲間は黒焦げになり、大地に落下していた。直撃を受け、無事では済まなかったらしい。これが、角の発光の理由かと、そして、雲行きが怪しくなった理由かと、思い知る。まさか、雷の力を行使できるドラゴンがいたとは。

 攻撃に使用した際の効果範囲が狭いのか、元々単体を狙ったものだったのかはわからないが、自分一人生き残ることになった。仲間を二匹も失い、それが、幸か不幸かの判断も今はできないが。

 だが、唯一の救いは、自分たちの放った火の玉もまた、直撃していたということだ。相応に大きな爆煙が上がっている。こんな規格外の生物がいたのでは、魔族の支配にとって障害でしかない。野生生物は、人間に利することはなくとも、自分たちに敵対することはある。ましてドラゴンは太古からの神話の生き物とも言われ、魔族や人間と同等の知能を持つと言われてきた。そんな相手に、少なからぬ手傷を負わせることができたのなら、無駄ではなかろう。

 そう、思った。爆煙が、晴れるまでは。

(ふむ、こんなもんか。魔法としては下等だったのか、体のつくりがすごいのか。ま、どっちでもいいか。人間だったら黒焦げになっててもおかしくはないし、人間の時の私だって、あんなのを食らったら服や髪は燃えちゃうよ。今だって、少しずれてたら、荷物が真っ黒になってるとこだったし……)

 爆煙の中、のんきに状況を見聞していた。魔法については詳しくないので見聞はできなかったが、エルリッヒにとって、それはダメージになるほどの威力を持ち合わせてはいなかった。

 そもそも、竜族は炎を吐くことのできる種族であり、鱗も、甲殻も、そして外殻よりは弱いはずの口内といえど、炎には滅法強い。だからこそ、ゲートムントの鎧のように、鱗や甲殻が素材として利用されることがあるのだ。

(とにかく、こんな魔法を連発されたら、人間や街はひとたまりもないし、空も飛べるんじゃ、攻撃手段も限られるだろうし、一匹たりとも逃す手はないね!)

 力強く羽ばたき、爆煙を吹き飛ばす。さて、無傷だと知ったらどんな顔をするだろうか。

「な、なんてやつだ! 確かに直撃だったはず! いくら炎を吐けるからって、そんなはずは!」

 言葉尻からは、ドラゴン相手に火球を撃ち出したことにはいささかの根拠が伺えたが、効いていないものは効いていないのだ。苦痛に歪んだような表情も無理はないが、エルリッヒの理屈から言わせてもらえば、「無駄の極み」でしかなかった。

『お遊びは、ここまでだよ!』

 魔法の直撃なんていう、一番の見せ場はあったんだ、そろそろ終わりにしてやろう。ガーゴイルには咆哮にしか聞こえない竜言語で叫ぶと、大きく息を吸い込んだ。そして、体内の発火器官に空気を行き渡らせ、思い切り大きな火球を吐いてやった。

(魔法っていうんだったら、これくらいの規模でやってみろ!)

 魔族の中でもそんなに高等ではないはずのガーゴイルには無茶な要求を思い浮かべながら、相手の体の二倍はあろうかという火球がその身を包んだ。

「がっ!」

 火球が直撃した瞬間、爆ぜたそれは太い火柱に変化して、ガーゴイルの体を焼き尽くした。もはや、断末魔の叫びすら一瞬で途切れてしまう。その苦痛を思えば、いかに人間の敵とはいえわずかに心が痛まないではなかったが、ここで見逃せば、必ず多くの人間を殺すだろう。人間として暮らす道を選んだ身には、到底選べない選択だった。

(自己満足かもしれないけど、私の生き方は人間社会優先だよ……)

 わずかに残った残骸のようなものが散っていくのを見送ると、周囲に仲間の気配がないのを確認し、再び北へと向かって飛翔した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 それから飛び続けること二日間、いい加減空腹が切実になってきた頃、ようやく目的地にたどり着いた。大陸の北限にある、竜族の巣だ。

「久しぶりだな……ここも」

 およそ三百余年ぶりに帰ってきたというのに、一切変わらぬ景色が広がっていた。分厚くはった灰色の雲、そびえ立つ岩山、眼下には荒波。これぞ北限といった趣の土地に、竜族は居を構えているのだ。

「我ながら、よく覚えてるもんだ」

 誰にも見つからないよう、ギリギリのところで人間の姿に変わり、身だしなみを整える。家族たちは馬鹿にするかもしれないが、この姿は紛れもなく自分の姿であり、人間に肩入れする前から所有している、もっと言ってしまえば、親からもらった、神から与えられた体だ。

 急峻な岩山を登っていくと、その中腹に大きな洞窟が広がっている。そここそが竜王族の住処であり、竜社会の中枢だ。こんな岩山を難なく登れるのは、エルリッヒが人間の姿をとっていても常人離れした身体能力を持っているからに他ならない。行程に万全を期すならば、元の姿で飛んでいくべきなのだ。そうしないのは、目立ちたくないからに他ならない。

 人里離れ、滅多に人間の立ち入らない土地だから、その存在自体が目立つのは事実だが、人間の姿は小さく、ドラゴンたちにとって天敵でも食料でもないため、無視されることが多い。

 一方、本来の姿は並のドラゴンよりも大きい上に、知っている限り唯一無二の体色をしており、この土地では目立つことこの上ない。まして、自分のことを知っているものもいるだろう。騒ぎになっても、困るのだ。

「この洞窟、昔はもっと狭く感じたんだけどな。人間の姿だと、こんなに大きく見えるんだなぁ」

 久方ぶりの実家に、郷愁もひとしきりだった。いつ、家族と出くわすかもわからないというのに。

『こんなところに来訪者?』

 案の定、奥の方から声がし、こちらに向かって近づいてくる足音がする。

「お姉様……」

 まだ対面してもいないというのに、瞬時にして、エルリッヒの表情が強張った。




〜つづく〜

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