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朝起きたら妹が魔王になってました  作者: 猫撫こえ
第2章「運命と存在」
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第28話「森の真実」

 竜車での移動を終え、ついに迷いの森の入り口前に着いた。そこは森という名前にはまるで似つかわしくない、まるで遺跡の入り口のようだった。


「ここが森か……頑張れ俺」


「じゃあ行きましょー。しゅっぱつしんこー」


「ちょ、待てって」


 少し腰が引けている俺とは対照的にずんずんと森の中を突き進んでいく三人娘。木で覆われ空は見えず、辺りは暗かったがところどころにある光った苔によって十分な視界は確保されていた。誰かが通っていたのか一本道ができていた。


「なあ、これって迷いの森なんだろ、なんか目印とかつけなくていいのか?」


「確かに……今までまっすぐ歩いてきたので来た道を戻ればまた扉の前に出るのです」


 回れ右をし、そのまままっすぐ歩く。当然のことながら俺が先頭になる。まあ、来た道戻るだけだし大丈夫だろう。


「ねえ、どれくらい歩いたの……? まだ扉に着かないの?」


「なるほど……だから迷いの森なのか」


 来た道を戻ってるはずなのにいくら歩いても入り口にたどり着かない。そしてもう一つ気になっていることがある。生き物が見当たらないのだ。それはおろか誰も抜け出せないのにもかかわらず死体も骨の一片すらも落ちていない。


「この森おかしいのです」


「うん、気づくの遅いな……ってん?」


「看板だっ!! お兄ちゃん、看板がある!」


 まるで初めて看板を見たかのようなリアクション。だが、この森を抜け出すための重要な手がかりだし、このリアクションは妥当だ。


「なになに……?」


【この先出口】


「お兄ちゃんこれ絶対罠だよ」

「私もそう思うのです」

「わ、私も!」


「フッ……甘いな、ここは迷いの森。動物どもにこんな高度な知能はない、そのうえ迷ってる人たちが俺たちのほかにもいるってことだ、つまりこの看板は先人たちがこれ以上迷う人を増やしたくないという優しさっっ!! そう! 俺たちに残したアンサーだっっ!!」


「お兄ちゃんって天才なの……?」


「フフフ、もっと褒めろ……」


 我ながら今日は冴えていると感じる。このまま行けば案外楽勝に抜けられそうだ。そう思うとなんだかこの状況が楽しくなってきた。


「おっこれ果物か?」


 ブチッ


「ん?」


 リンゴのような形をした果物を木からもぎ取ると、突然大量の赤い液体が流れだした。漂う匂いは鉄のようで、それはまるで……。


「これって……まさかな」


「燈矢、それ食べられるの?」


「いや、やめといたほうがいい。さあ、進もう」


 歩き続けていると少し開けた所に出た。地面には芝生が広がり、木で覆いつくされていて空は見えない。辺りを見回していると不意にポツリと頬に一粒の雫が落ちてきた。


「雨? いや、違う! 守護球バルゴ・スフィア!!」


 球状の防護壁が俺たちを包む。


「あ、カバンが魔法の外に出ちゃった」


「安心しろ、カバンくらい後で買ってやる」


 木に覆われているのに空から雨粒が落ちてくるなんておかしい。どう考えても木から分泌された何かだ。次第に勢いは増し、まるで滝のようだ。


「おいおい嘘だろ……」


 外に取り残されたユミスのカバンがみるみるうちに溶けていく。かなり強力な溶解液だ。


「一本道と赤い液体、今度は溶解液だと……ははっ、笑えない冗談だな。まさか知らぬ間に食われてたとは」


「えっ? どういうこと?」


「食道に血液、それと胃液。つまり予想でしかないが、この森はバカでかい生き物だったってこと。俺たちは食われたのさ。これじゃ森を抜けるもクソもないよな」


「それじゃあ今まで入った人たちは……」


「コイツの栄養になったってことだな。俺たちも悠長に話してる場合じゃないな、ここから抜け出そうにも俺は魔法の強度を上げるのに手一杯だ。ここから一歩も動けん」


「ここは私に任せるのです! 浮遊フロート!」


 ミクの魔法の力で魔法球ごと浮上する。


「重すぎて動けないのです……面目ないのです」


「浮いただけかよ!」


「私が! 移動ムーブ!」


 ユミスの魔法のおかげでやっと先に進むことができた。胃を抜けると、また先ほどと同じような一本道になった。


「今思ったんだが俺らってどうやって出るんだ? 俺の予想が正しければウ〇コに……」


「それはいやあああああっっっ!!!」


 無詠唱で鍵乃の手のひらから爆炎が飛び出した。


「グウウウウゥゥゥゥゥゥ……」


 うなり声のような轟音とともに強い揺れが起きた。痛がっているのだろう。


「コイツ内側から倒せるんじゃね?」


「鍵乃、あの大岩倒したやつやってみて」


「いいよ、灰燼覇グラン・ネロ


 さらっと唱えただけなのにこちらが吹き飛ばされそうなほどの強い衝撃が巻き起こる。揺れは勢いを増し立っているのも一苦労だ。


「あれ、ダメなのかな? じゃあ、しょうがないか。お兄ちゃん全力で私たちを守ってね。ミクちゃんとユミスちゃんはお兄ちゃんがこっち見ないように押さえてて」


「「了解!」」


「え? ま、守ればいいんだな、任せろ。アイギス! 煌々と輝く我が光よ、幾億の運命を護る翼となれ!!煌天翼レイ・リシェーラ!!!」


 盾を中心に光の翼が現れるその光は強く輝いていた。


「来て、ヴォエルナ。穢れなき炎よ、聖玲なる蒼き水よ、天より轟く雷よ、我がもとに集い、滅びの調べを奏でたまえ 獄燼覇ヴァン・オブリヴィア




 目を覚ますと、夜空と、鍵乃の顔が見えた。


 森の姿は消え、巨大なクレーターができていた。


「やりすぎだ。でもありがとな」


「えへへどういたしまして」


 鍵乃の力があればこの世界の攻略はヌルゲーなのだろう。ちょっとだけつまらないから後で控えめにするように言っとこう。


(手首にアザできちゃった……ヴォエルナのせいかな)


「どうかしたのか?」


「ううん、何でもないよ。それよりほら、ご飯にしよっ」


「そうだな、今日は疲れたし食って寝よ……野宿だけど」



 迷いの森を通過もとい討伐し、目指すは自然族の国【ネグラフィリア】。夜空に輝く星は一段と綺麗に見えた。

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