第21話「ダーティマリッジ」
「は?」
「「えええええっ!?」」
フーッフーッと息を荒げ、大声で飛び出た爆弾発言。いや、もうこれテロだよね。後ろで立っていた鍵乃とミクに至っては魂が抜けている。
「チョットコッチコイ」
「ふぇぇ!? わ、わかった」
ユミスを銅像の裏に連れていく。
「おい、なんてことしてくれたんだお前は」
「えっと…どうしよう?」
「どうしよう? じゃねぇよ。ホントにどうすんだコレ」
村人達は豊穣祭、復活祭なんてものをぶっ飛ばして、興奮気味に結婚式を企画している。
「お兄ちゃん。どういうこと?」
「燈矢くん。説明しないと××しますよ?」
なんだろう。なんだかミクの声が上手く聞こえない。心なしかピー音が聞こえる。
「俺に聞くんじゃなくて、ユミスに聞いてくれ」
「ユミスちゃん!」
「ユミス…?」
「「どういうこと!?」」
「えっと、私のせいで燈矢がみんなに怒鳴られるのが嫌で…」
「それとコレがどう繋がるんだ?」
「それっぽい理由考えたら、こうかなって」
「こうじゃねぇよ」
「うぅっ、ごめんなさい…」
「とりあえず、撤回しねぇと…ってうおお!?」
「あわわわっ!?」
突然屈強な男達が笑いながら俺とユミスを抱えて、歩き出した。どこに向かっているのか皆目見当もつかない。
「いやぁ〜まさかユミス様が燈矢君とそんな関係だったとは」
「まったくだ、おめでとう。燈矢君、ユミス様」
「祭りが結婚式になる報告だなんて、粋なことするねぇ」
詰んだ。完全に結婚式モードだ。この状況を打破できるほど今の俺は冴えていない。ユミスの方を見ると、申し訳なさそうに顔を両手で覆っている。
「はぁ… みんな、待ってくれ。さっきのは無しだ。一旦下ろして、俺の話を聞いてくれ」
屈強な男達は静まり、そっと地面に俺達を下ろした。
「明日まで。申し訳ないが、明日まで待ってくれ。でも、祭りの準備はしていて欲しい」
一日、ユミスと話し合ってみる必要がある。
「なるほど、恋人でいられる時間が惜しくなったのだな。そういうことであれば任せておけ」
色々間違ってるが、とりあえずはここから離れられそうだ。むしろ、この状況は利用できる。
「ユミス、少し…いや、たくさん話がある。着いてきてくれ」
「どこに行くの?」
「いいから、着いてきて」
リージュには林を抜けた先に、とても美しい湖がある。デートだと思わせておけば誰も気を使って近寄らないだろう。本音を言えば、ちょっとだけ行ってみたかったっていうのもある。
「ここならみんな気を使って来ないだろう」
「そうだね。それにしても綺麗だね、こうしてると、本当に恋人同士みたい…だね」
「なぁ、聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「答えられる範囲なら、好きなだけどうぞ」
「ユミス、好きだ。愛してる。」
「うぇっ!?」
顔が真っ赤に染まる。さっきの発言もそうだが、やっぱりこれはアレだろ。言っちゃうぞ? いくぞ、言うぞ。
「お前、俺のこと好きだろ」
言っちゃったぁ〜。自意識過剰発言だコレ。この漂うドS系主人公感ヤベェ〜。恥ずかしすぎて死にそう、てか埋まりたい、いやむしろ埋めてくれ。
「好きだよ。仕草も顔も性格もにおいも雰囲気も、全部好き」
「改めて言われると、かなり恥ずかしいな」
「うん、言ってる私も恥ずかしくて死にそう」
「そっか、じゃあこれから言うことは少し辛いかもしれないな」
「何?」
龍倒して世界救うとか、命を賭して戦うとか。本当に話したいのはこっちだ。
「俺は祭りが終わったら、世界救わなきゃならない」
「へ?」
「命がけでバカでかいドラゴン倒して、世界を救うんだよ」
上手に話せない。心配されたくなくて、好きでいてくれることが嬉しくて。
「てか、俺最近モテすぎじゃね? ユミスだけじゃなくミクも色々してくるしさ」
「ふっ、面白いね。だから好きなのかな」
「いやぁ、モテすぎるのも困りものだな」
「あのね、燈矢。私、いいお嫁さんになれると思うの。料理も出来るし、掃除も欠かさないし、その…夜だって…」
「うっ…」
確かに考えてみれば超絶優良物件なんだよな。可愛いし、優しいし、家事もできるし、おっぱい大きいし。あれ? ユミスって完璧じゃね?
「確かに、可愛いよな。おっぱい大きいし」
「一言多いよね」
「俺はさ、ユミスを危険な目に合わせたくないんだよ。これからは多分、ずっと死と隣り合わせになるような生活になるし」
「それって、鍵乃ちゃんとミクは着いていくの?」
「そうだな、鍵乃は俺から離れられないし、ミクは俺の使い魔だし」
これも酷い話だ。ミクは最悪置いていけるが、鍵乃には選択肢すら与えられない。
「私はダメなの?」
「えっ?」
「私は、燈矢と一緒に居られないの?」
「危ないし、ユミスをそんな目に遭わせるわけにはいかないよ」
「私、今結構傷ついてるよ」
ユミスが突然立ち上がる。その目には色んな気持ちが詰まった涙が溜まっていた。
「私、役に立たないかな? 足でまといかな?」
「そんなこと言ってない! ただ、ユミスには戦う理由がないし、わざわざ危ない目に遭う必要も無いだろ!」
「そうだね。でも、燈矢と一緒に居たい。それに、私ならなんでも治せるよ」
「確かに治癒能力はすごいけど…」
「だからね、私と結婚してください。お願いします」
ユミスを連れていけば、回復役もいて、頼もしいだろう。でもそれと結婚がなぜ繋がるんだ?
「結婚をする必要はあるのか?」
「神様は、契りを交わすと、本来の力を手に入れられるの」
「つまり、連れて行って欲しくて、そのための力が欲しいから、結婚して欲しいと」
「うん、でもそれは半分。もう半分は私の気持ち。燈矢を好きだっていう気持ちのわがまま」
「そっか、じゃあ結婚しよう」
「そう、だよね…ってえぇっ!?」
我ながら、今人として、男として最低のことをしている。世界で一番好きな人じゃない人と、結婚しようとしている。
「い、いいの?」
「うん、一緒に居よう。ずっと」
俺がそう言うと、ユミスは泣きそうな顔で俯いた。
「燈矢、無理してるよね。本当は結婚なんて、したくないんでしょ?」
「そんなことないよ。俺だって、ユミスのこと好きだし」
「鍵乃ちゃんのためだから、私と結婚するんでしょ」
全部バレバレで笑っちゃうほどに苦しい。最低な自分が嫌になる。
「ううん、いいの。私は嬉しいから」
「ごめん」
「じゃあ、目標変更だね! 旦那様をメロメロに惚れさせる! これが新しい目標!」
元気に笑って、大声で「旦那様を惚れさせる」とかいう矛盾を叫ぶ姿に、心が揺らいだ。
「はははっ、そりゃ楽しみだ。でも相手は手強いぞ? なんせ俺の妹なんだから」
「負けないよ、絶対に」
「あ、でもどうやってあいつらに説明するんだ?」
「私が言うよ。私が招いたことだし、宣戦布告にもなるからね」
湖を眺め、頬を染めるその姿は、とてつもなく可愛くて、情けなくなるくらいにかっこよかった。
ユミス人気ですね。可愛いですよね。僕も好きです。




