第17話「腐った世界」
「アーヨクネタ、グッスリネムレタ」
ガッツリと目の下にクマをつけ、もともと悪い目付きがより一層悪くなる。
「確かにこの宿屋は心地よかったのです」
「とりあえず今日で城を攻略しないとな...」
写真の謎も、やたらと襲ってくる悪魔のこととか、シャスティとかいうやつにも聞きたいことが山ほどある。
もとはといえば、あの女に城まで来るように言われたから来てるわけだしな。
「お兄ちゃん、眠れなかったの?」
「お兄ちゃんは大丈夫だ。不甲斐ないが、戦闘中にも寝てたからな」
いずれにせよ、今日だって戦闘になる可能性はゼロじゃない。少しくらいなら盾で回復も出来るし、今日は眠らないような戦い方にしよう。
城は街の大通りをまっすぐ進んだところに門がある。門番が恐らくいるだろうし、どう切り抜けるべきか悩みどころだ。最悪、一瞬で戦闘に発展する。それだけは避けたい。
「ここっていつも賑わってるよな。やっぱり王都だからなんだろうけど」
街を歩くと多くの人に声をかけられる。美少女二人が嫌という程目立っている。一つ一つに愛想よく返事していたらきりがないし、そうとなればすることはただ一つ。
「鍵乃、ミク、走るぞ。めちゃくちゃ、もう、全力で」
ーーーーー
「ちょっ、お前ら、速いって…」
「お兄ちゃん遅いね」
「さすが燈矢くん、期待を裏切らないのです」
引きこもりの天敵、それは日の光と持久走だ。普段から体を動かしていないせいで筋肉は衰え、スタミナは初めからゼロの状態だ。
「タンマ…これ以上は、もう、死ぬ…」
「あと少しなのです。息を整えつつ、ゆっくり歩いていくのですよ」
そういいながら、割と早いスピードで飛んでいく。
「あー、そーゆーことしちゃうんだ。もうミクとは口聞いてあげないことにしましたー」
ものすごい速さでこちらに戻ってくる塊が見事なタックルをかます。
「ぐえっ」
「ご、ごめんなさいなのです…」
そんなこんなでなんとか門の前に着く。だが、様子がおかしいというか、静かすぎるし門も開けっ放しだ。危険視していた門番もいない。
「なんか、誘われてるみたいだな。シャスティが倒した…とか? いや、不意打ちで傷を負わされるかもしれないな。…二人とも、俺から離れないでくれ。守護」
防護壁を張り、万全の体制で城に入る。
「攻撃は…無いな」
「妙に静かだね。人の姿も見えないし」
「そもそも死神レーダーによると、ここに人の命は無いのです。でも…」
死神レーダーってなんだよ。昔神様レーダーってあったけど信ぴょう性に欠けてるレーダーだったし、かなり不安なんですけど。
「人がいないっておかしくね? だってここ腐ってもお城だぞ?」
「やぁ、待っていたよ」
突然背後から声がする。咄嗟に飛び退き、二人を後ろに隠す。
「シャスティ…心臓に悪いから止めてくれ」
「すまない。昨日から待っていたんだが、遅かったじゃないか。何かあったのかい?」
「ここに来る途中、悪魔に襲われた。もう浄化したがな」
その言葉にシャスティの顔が引きつる。
「悪魔か、それは災難だったな」
「そうだ、お前に聞きたいことが山ほどあ…」
「貴女、神ですよね」
俺の声を遮るようにしてミクがシャスティに話しかける。
「なんのことだか、私はただの人間だよ。ただ、少しこの世界に詳しいだけの…ね」
「いけ好かない神ですね」
「神だろうがなんだろうがどうだっていいんだよ、今からたくさん質問するぞ? いいな?」
「あぁ、構わないさ。好きなだけ聞いてくれ」
シャスティは長い白銀の髪をなびかせ、どこか決意したような表情を浮かべている。
「まず、ここにはなんで人がいないんだ? 王とか、騎士とか色々居ただろ?」
「王は役目を果たせなかった。自分のするべきことを為すことが出来なかった。この前言った通り、この世界では存在意義を失った者は消滅するようになっているからな」
聞く度にハテナが飛ぶ話だ。自分の存在意義なんてどこで見つければいいのか皆目検討がつかない。
「その存在意義ってなんだよ」
「王の、この城にいる者の存在意義は《魔王をこの場で殺させること》。君たちがこの城から逃げた瞬間に王は既に消えていた」
「結界が張ってあったのは逃がさないためでもあったし、自分の消滅を防ぐためでもあったのか」
「そもそもこの世界は全てシステム化されている。百年周期で何もかも元通りになるように創られている。」
「システム化って…何のためにそんなことをする必要があるんだ?」
「世界樹を守るため。いや、魔王を殺すためだ」
「ふざけた世界があるもんだな、人を殺すために創られた世界なんて、悪趣味にも程がある」
「じゃあ百年経ったら王も元通りなのか? 今生きている人達はどうなるんだ? 百年巻き戻るのか?」
「システム化されているのは魔王と勇者を殺すために動いている者だけだ。王は蘇るが、関係の無い者達は滞りなく一生を終える」
「都合が良すぎるだろ…理不尽に今まで何人も殺されてきたってことかよ」
「それは…っ」
シャスティが息を呑む。何故か切なそうに。
「すまない…神族が百年に一度生まれ変わるのは知っているか?」
「ミクから聞いたよ。また百年か、なにか関係が…ってその言い方だとあるんだろうな」
「あぁ、お前の…」
突然口ごもり、言いづらそうにして、目を細める。
「お前の後ろにいる死神は、システム化されている」