第14話「指輪と盾」
今日は俺の能力、鍵乃を守るための力について深く調べようと思っている。
「よし、鍵乃はそこに座っててくれ。俺は今からここを離れる。苦しくなったらミクに伝えてくれ、ソッコー戻るから」
「わかった。なるべくゆっくりね」
「オウケイ、任せろ」
ゆっくりと鍵乃から離れる。今までこの広い家の中で鍵乃の具合が悪くなったことはない。家から出なければいけないのだろうか。
「鍵乃ー? 大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ! もうちょっと急いでいいよー」
「じゃあ家から出てみるぞ」
家から出て、そこそこ離れる。湖の辺りまで来た。家が遠い、デカイ声じゃなきゃ届かなそうだ。
「鍵乃おぉぉぉぉお!!!! 大丈夫かぁぁぁ!!!」
家の中からミクが飛んでくる。
「燈矢くん! 鍵乃ちゃんが!!」
「どうした!?」
「くしゃみしたのです!!!」
「なんだって!? っておい。具合が悪いわけじゃないんだろ?」
「全然まだまだ元気なのです。あと面倒なのでこれで話しましょう。通信」
(燈矢くん、聞こえますか?)
こいつ、直接脳内に…っ!? 一度は喋ってみたいワードトップテンに入ってるなこれ。まさか言う日が来るとは。
(あぁ、聞こえるぞ)
(ならそのまま走ってくださいなのです。鍵乃に異変があったらまた声をかけるのです)
湖の向こうまで走った。家との距離としては三百メートルくらいだろうか。
(鍵乃ちゃんが熱を出しました! 早く戻ってきてください!)
(今すぐ行く)
おそらく、効果圏内は俺を中心とした半径三百メートル以内だろう。思っていたよりも短い。せめて一キロくらいは欲しかった。
「鍵乃! 大丈夫か!?」
「もう全然大丈夫だよ。どのくらいだったの?」
「半径三百メートルくらいだ」
「めーとる…?」
ミクが変な顔をしている。なぜだろうか。
「効果についても分かったし、これからのことについて話そう。明日は城に行く。今回は武器も買ったし、ミクもいるしなんとかなるだろ」
写真の謎についても気になるし、俺たちの存在理由をあの女に聞かなきゃならない。消滅だけはゴメンだ。
「じゃあ、次は私の能力を試そうよ」
鍵乃の能力はこの辺で試せる代物なのだろうか。魔法初体験で山を消し飛ばした程の力だ、簡単には使えない。
「どうやって試すんだ?」
「えっと…この世界で一番強度の高いものかな」
「そんなのどこに… はっ!?」
高速で部屋の隅に縮こまる。鍵乃の視線が怖い。
「大丈夫だよ、ちゃんと加減するから」
「オレ、ツヨイ。シナナイ。ダイジョウブ。タブン」
だが、盾の力も正直謎だらけだし、いい機会かもしれない。
家の外に出て、お互い衝撃が届かない程度に離れる。
「行くよお兄ちゃん! 清らなる清浄の華よ、その身を現し、我に力を与えたまえ。 清流華」
ポンプ車の水なんて話にならないくらいの勢いで水の華が飛んでくる。風を切る音が聞こえている。少しでも触れたら肉が裂けるだろう。
「来い、アイギス!」
盾の名を呼ぶ。が、俺の前には盾は現れなかった。
「お兄ちゃん!?」
「クソッ、守護!!」
水の華は容赦なく守護結界を切り刻みに来る。量も少なかったからかギリギリ耐えきることが出来た。
「ふぅ…あぶなかった…」
「お、お兄ちゃん… 服着てよバカ!!!」
「いきなり脱ぐなんて、あ、頭おかしくなったのですか!?」
恐る恐る下を見ると俺は産まれた瞬間と同じ姿をしていた。
「はぁぁぁぁ!? なんでぇ!? 俺の服どこ行っちゃったのぉ!?」
足下をよく見ると服の欠片が一枚落ちていた。
「これって…俺の服?」
「何冷静に分析してるのよっ!」
「ユミスさん!?」
俺の背後には毛布を一枚用意してくれた女神、ユミス様が立っていた。
「これ、使って。というか、何してたの?」
「いやぁ…俺と鍵乃の能力を試していたら、俺の服がドスケベな鍵乃の魔法で吹き飛ばされちゃったんですよ」
「そんな変な魔法じゃないよっ!!!」
それにしてもなんで盾が出なかったんだろう。魔力が足りないのか? 本当は名前が違うとか?
「ん? これ…」
昨日貰った指輪の紋章が光っていた。体に魔力が満ちるのを感じる。今なら、いける。
「アイギス!!」
俺の前に、煌々と光り輝く盾が現れた。
「タイミング悪すぎだろお前」
「燈矢くん、指輪が…」
「指輪?」
目を向けると盾と指輪が一筋の光で繋がっていた。指輪と盾の間に木と龍の描かれた魔法陣が現れる。
この感覚。あの時と同じだ。頭に呪文が流れ込んでくる。勝手に口が言葉を紡ぐ。
「鍵乃! なんでもいいから撃ってくれ!!」
「えぇ!? えっと、龍撃!」
「精霊よ、我が元に集いその命を照らせ。その命は悠久の光となり、汚れを癒すだろう。闇夜に集う悲しみよ、憎しみよ。 精霊さん、頑張ってくれ。護れ!!! 天翼の晶壁!!!」
魔法が盾に触れた瞬間、鍵乃の魔法陣が崩れた。
「お兄ちゃん! すごい!! いきなりで手加減できなかったのに!」
「あの…言いにくいんだけど、もう一回その魔法撃ってみてくれ」
「え? いいけど…龍撃! ってあれ?」
「やっぱり…か…ぅあっ」
意識が遠のく。詠唱による魔力切れだろう。皆の…声が…
ーーーーー
「ん…っ、今何時だ…?」
「あ、起きた! お兄ちゃんが倒れてから五時間くらい経ったんじゃないかな」
「そりゃ良かった。 鍵乃、話したいことがある」
「え? いきなりどうしたの?」
俺の魔法は多分かなりのチート能力だろう。それを鍵乃に使ったのが間違いだった。
「俺も確証は持てないんだけど…さっきの魔法、多分二度と使えないと思う」
「どういうこと?」
「俺の…天翼の晶壁は触れた魔法を封印する的な能力なんだと思う」
我ながらチートだと思う。相手の最強魔法ですらただの恥ずかしい詠唱を残して消し去ることが出来るんだから。
魔法の能力は発動した瞬間、無意識のうちに伝わってくる気がする。
聖煌矢は悪魔族を詠唱込みで絶対浄化できる技だ。ベリアル戦では詠唱無しの発動だったから、浄化できなかったけど。
「それって、すっごく強い能力だと思うんだけど」
「お前の魔法、一個使えなくなっちゃったな。ごめん」
「ううん、あの魔法は低級魔法だし全然大丈夫だよ!」
鍵乃の言葉に耳を疑う。あの威力で低級だと?
「あれで、低級魔法?」
「手加減できなかったから、強く発動しちゃったみたい」
そっと鍵乃から離れる。下手したら低級魔法だけで殺されそうだ。
「もう! なんで離れるの!?」
「あ、いや、ちょっと…な」
「怖がらないでよぉ…っ!」
あ、泣きそう。
「ごめんごめん!」
だが、これで城攻略も少しだけ安心できる。指輪のお陰で盾の発動は余裕だし長時間発動させられる。
「さて、ご飯食べようぜ」
「うん!!」
この時、この世界の掟がいかに残酷なものであるのかを俺は知る由もなかった。