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第一章 1話

タクト・ジュリアは輸送を主として働いている。世界がようやく統一しようとしている今、捨てられた街を本当に捨てられた街にするのは、また新たな問題を発生しかねない。

治安などが上げられるが、その中でも人間に必ず備わっている、精神汚染と言われるものだ。簡単に言ってしまえば、毎日ベッドで寝るのと毎日土の上で寝るのではストレス軽減度合は違う。捨てられた街は、何もアイギスのような一見治安が悪そうに見えて、実はちゃんとした街、ではない。人が人を信じない、悲しい街なんて数えるだけ無駄だ。戦争によって疑心暗鬼になった人間は人間を当然のように殺す。子供も女も男も老人も、だ。最初は相手を、だったのが、自分の所属している主義主張を疑い、やがて眼の色を変えた。

タクト自身、戦争に加担したわけではないが、そんな現実はもう見たくない。もう自分だけでいいのだ。そんな人の持ち合わせる、らしさ、をなくすのは、魔術の先を手に入れようとした、自分だけでいいのだ。

だから、タクトは世界を救済する。最初は一人だった。それが段々と増え、今では世界規模にまで膨れ上がった。

だが、それでも足りない。いつでも人員は募集しているものの、ある一定以上から増えない。それを気にしていたら、この仕事自体手につかなくなってしまう。

だから、言い出しっぺは人一倍、今日も世界平和のために働く。


アイギスまで、あと少し。この林を抜けたらすぐだ。

タクトが2人の部下に言ってから、1時間が過ぎた。坊主頭のアルデムが胸ポケットから煙草を取り出し、それに火を点ける。肺に有害物質を流し込み、鼻から吐き出しながらダラダラ話し始めた。


「タクトさーん、いつになったらつくんすかぁ? もう結構な距離歩きましたよぉ?」

「アルデム、疲れたと言いながら煙草を吸える元気があるんだからまだ歩けるよ」

「うへぇ、鬼畜過ぎて泣けますわー」


目頭を押さえ、アルデムは泣くふりをする。アルデムの言い分もわかる。

2日かけて、ノーデンバーグに輸送。アイギスへノンストップでここまで来ている。流石に夜は宿を取ってはいるが、気候やトラブルが相次ぎ、思うように足が進まず、気付けば4日が立っていた。タクトの予定では2日でたどり着く予定だった。


「アルデム、これは旅だ。文句を言うな」


ニット帽を被り、地響きを錯覚するような声で仏頂面のレックスは言った。


「不確定要素を楽しむのも、旅の醍醐味というものだ。それに今から行くアイギスはタクトさんの故郷でもある。きっとうまい飯を奢ってくれるだろう」

「レックス、ちゃっかり奢ってもらおうとしているね。まぁ、アイギスは物騒な街ではあるけど、ちゃんとしたルールがあるからそれに従っていれば、大丈夫。従わなければ、最低死ぬ」

「こっわ! アイギスこっわ!」

「いやいや、流石に死ぬってのは本当に違反を犯した人間だけだよ。最低限のルールを守れなかった奴は殺さなきゃ、街全体の危険度がそれ以上に上がるかもしれない。ルール守っていれば大丈夫、そこまで雁字搦めってほどでもないよ」


笑顔で恐ろしいことをサラッと言ってのけるノクト。もう慣れているのか、アルデムとレックスはけらけら笑いながら、歩を進める。


「アイギスには定期的に帰っているようですけど、なーんで帰ってるんですか? 女ですか?」

「ん? まぁそんなとこ」

「かぁー! 色男はどこ行ってもモテるからいいなぁ!?」


ていうか、とアルデムは続けた。


「帰れる故郷があるってのはいいすよねー、マジで。俺らなんかどこで生まれたなんか分からねぇし、気付いたらタクトさんに助けられたし。あんとき、タクトさんに助けてもらわなかったら、俺ら2人野垂れ死にしてましたよ、確実に!」

「はは、それは言い過ぎじゃないか? アルデムもレックスも元々から強かったよ。ただ、少しだけ俺の方に運があっただけのことだよ」

「まーたまたそんな謙遜しちゃってぇ? でも、なんかあったとき行ってくださいよ? 絶対死んでも、タクトさん守るんで! なぁレックス」

「あぁ」

「期待してるよ」


そのあと、街には美人はいるのだとか旨い飯はなんだだとか他愛もない話で盛り上がっているうちに、小屋のような建物と近くに周りの木より少し低い見張り台が見えてきた。

小屋のような建物は、壁はなく屋根を支える柱が四本、四方にあるだけで雨風をしのげる場所ではなかった。その小屋には4人。見張り台には2人の人影が見えた。


「タクトさん! あれ道中言ってた関所ですよね!? やったぜ、ようやく着く!」


アルデムが子供のようにはしゃぐ。

関所と言ったら、厳重な警備体制、高くそびえたつ壁を想像するだろうが、アイギスの関所はこじんまりしていた。

だが、大体の街の関所は大層な作りをしているわけではない。外部から害悪であるのを入らせないのもある。が、近隣の街同士が仲が良い、というわけでもない。例えば、先ほど出たノーデンバーグは魔術派の街だ。ノーデンバーグは、比較的大きな街で遊撃されても対抗する手段を持っているし、かなりの火力を用意しなければ陥落はしない。

しかし、近隣の街は小さいながらほぼ全部と言っていいほど、機械派で占めている。戦争が終わったとしても、魔術派、機械派を主張している街は少なくない。

もしかすると、近隣の街が結託して、ノーデンバーグに襲撃をかける可能性だってある。


それを食い止めるため、関所がある。

周囲に置き、異常が起きたら街に連絡する。

関所はダミーで、関所のある一定のラインを超えたら、侵入した敵を攻撃する。


と言った、街独自の方法がある。


アイギスの場合、関所を置き一定のラインを越えたら街に警報が鳴るシステムだ。

人がいるのも、抵抗するためにいる。


何にせよ、アイギスに着いたのだ。これで旨い飯にありつき、美人を抱き、安心して床に就ける。

気持ちが緩んだのか、アルデムは歓喜の雄たけびを上げ、レックスはそれを見て、やれやれと、しかし口元は笑っていた。


「よっしゃ、んじゃノクトさん早速行って」

「………」

「タクトさん?」

「………おかしい」

「なーにがおかしいんですか?」

「数が少ない」

「? どういうことですか?」


タクトがぽつりぽつりと言った内容はこうだ。

アイギスの関所は全部で30か所10人体制あり、東西南北に均等にちりばめられている。数が多いのは、盲点を限りなく少なくするために、元軍人のシスターが配置をつけさせた。

また、空からの奇襲や空からでないと見れない敵影を察知するために上空にも投影魔術を使用している。

今関所にいるのは、6人。4人足りない。


「なんかあったんすかね」


お調子者のアルデムも流石にタクトの不審がる顔につられて、手で顎を摩った。

レックスは、理解していないらしく、うんうん唸っている。


「ここにいても仕方ない、行こう。ただ、俺の合図がなくてもいつでも戦闘できる態勢でいてくれ」




「こんにちわーす!」


アルデムが火を点けていない煙草を口に加え、関所にいる男たちに元気よく挨拶した。

しかし、関所にいる男たちは返答せず、目でにらみつけるだけだった。


「なんすか、なんすか。そんなくらーい顔しちゃって! 俺たちここに用があってきたんすよ、ねタクトさん!」

「おぉタクトじゃねぇか」


タクトと面識がある、一人の男がタクトに向かって話しかけた。


「あぁ、お久しぶりです。最近アイギスはどうですかね?」

「シスターはすこぶる調子良くてなぁ。元気だし、アンダー姉妹も元気だよ」

「そうですか、それは何よりです。顔パスしてもいいですか?」

「おっと、そいつはできねぇ。さすがのタクトでも、決まりは決まりだ。通行書見せてくれ」

「レックス、渡してくれ」


レックスが懐から小型の電子デバイスを渡した。こういうとき、機械の力は強い。

この小型の電子デバイスは、通行書以外にも多岐にわたり、使用される。


「ところですみません」

「おうなんだ?」

「関所の人数が少ないんですがどうしたんですか?」

「時間帯によって変更になったって覚えてないのか?」

「あぁそうでした、思い出しました。それともう一つ」


「なんで、空にある投影魔術が一つもないんですか?」

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