一つ目
朝の時間と言う物は、やたらに早く感じる物であると、俺は常日頃から考えていたりいなかったりする訳で、俺はまた、遅刻ギリギリの時間にパンすら銜えずに家を出る。これは仕方がない、俺は朝に弱い生き物だったりする訳だから、これは仕方がない訳である。
するとどうだろう。目の前にパンを銜えて、走っている女の子がいた。視界に入った訳だ。これはあれですよね。後ろから追いかけて体当たりの一発も食らわせられれば恋に発展するだろうか? よし。そうと決まれば実行に移すとしよう。しようではないか。
だがしかし、彼女は十字路にて、いきなり現れた男と衝突。ド派手に吹っ飛んできた訳である。まあ、そこでカッコよく彼女をお姫様抱っことか出来ていたならば、良かったですね。だけれど俺は目の前の出来事を、ただただ指を銜えて見ていました。俺は残念な気持ちになった。
「いたたたた」
女の子は目の前で如何にも可愛らしい様相で佇んていた訳だ。で、目の前でラブコメが始まろうとしていた訳だから、これはやっぱり俺のターンへ持ち込もうと行動に出る俺である。
「「大丈夫ですか?」」
ぶつかった男の方も「いてててて」とか言っているから、その隙に俺は先んじて女の子に手を差し伸べる。しかし残念ながらここで気付く。俺以外にも彼女に手を差し伸べている人物がいるという現実が見える。だがこのもう一つ差し伸べられたこの手、女性の手であることも、同時に把握した俺な訳で、取りあえず俺は、その差し出されている手をぎゅっと掴んでみた。
「きゃあ」
と、手を差し出していた女性から悲鳴が漏れる。あれ? どうしたんだろう。
「あの、手、離してもらえませんか?」
若干怒ったような声が目の前の口を引き攣らせた女性から放たれる。あれ? もしかして怒っているのでしょうか。何で起こっているのか見当もつかないけれど、取りあえず手を離す。
そのまま女性は足早にその場を離れたので、まあ、いいか。と佇む女性に目線を移し、
「で、大丈夫ですか?」
と声を掛ける。その声にびくりと身体を震わせた女の子はやはり可愛らしいと思った。
「立てる?」
俺は言いつつ彼女の手を取り、引き寄せる。そして抱き寄せる。
「あ、ありがとうございました」
彼女は現状が理解できないようで、慌てふためきながらお礼を言う。
「いえ。怪我はないですか?」
言いながら再び抱きしめる。ああ、俺はこの子の事が好きになったんだなぁと、思いながら空を見る。自分の気持ちが分かった以上、それは相手に伝えておこうと思った。
「貴女の事が好きです」
俺は何の迷いもなく言い切った。これは自分にとって初恋だったのだけれど、誰も信じてはくれなかった。何故だろう。不思議だ。
「ふあっああああ、し、失礼します」
顔を真っ赤にした少女は、走り去っていった。ああ、名前を聞きそびれてしまった。不覚だ。
まあ、制服は俺と同じ高校の物だったし、また会えるだろう。
彼女にもう一度会って告白する。
これが俺、「相合渦」のこれからの目標な訳である。
「で、俺の恋についての話なんだがトミー。彼女にはどうやったら会えると思う?」
俺の質問に学校の机の上で紅茶を嗜む男、「坂力富男」はふぅと一息ついて口を開く。
「私にできる事は、君が彼女とデートする場所をセッティングしてあげられる事だけだ。」
その言葉を聞き、俺は思いついた提案を口に出す。
「じゃあ俺彼女にラブレター書くよ。」
そして書き上げた手紙を、俺は放課後に下駄箱に入れた。
「貴方の事が好きです。付き合ってください。放課後屋上で待っています。」
という内容のラブレターを書いた。そして出したという訳だ。
それを聞いた坂力は、「宜しい、ならば手配しよう」と言って教室を出てから、ずっと何処かへ電話している。一体どうしたんだろうか。おそらく迎えでも呼んでいるんだろうきっと。
「よし、じゃあそろそろ屋上に行こう。」
そして俺は屋上へ向かって歩き出した。
ブロロロロロローーー
屋上に出ると、ヘリに乗った坂力が屋上にいた。
そして屋上には、「喫茶店」が出来ていた。坂力は金にものを言わせる。このように。
「じゃあ、私の出番はここまでのようだ」
そう言ってヘリでそのまま帰って行った。
「かっこいい……」
俺は彼のこういう所に憧れている。いつの日にか、俺もああいう男になる。
そして喫茶店内。この場に呼び出された結果来た人間。
その人数は最終的に(・・・・)六人いた。
どういう事かと尋ねられれば、答えるのは簡単だ。ラブレターを出すにも、相手の名前が分からない。ならば全校生徒七百五十八人。全ての下駄箱にラブレターを出せばいい。全ての下駄箱に出したのだから。その結果、人数が一人や五人多くても仕方がない事である。
現時点で喫茶店内にいたのは二人、だがしかし、どういうことだ? あの子がこの場にいないじゃあないか。あの子はどこにいるんでしょうか? 教えてください。
「おいお前。この手紙はどういう事だ。」
それどころじゃない、そんなことをどうでもいい。俺はあの子に告白しなければならないんだ。その為に今ここにいるんだ。