雄牛頭の依存症
私の彼氏はおかしいと思う。俗にいうドSであるのだけれども、ある時豹変し強い依存症になる。私に。私に強く依存する。
心配しなくたって大丈夫ですよ、いなくなりませんから。私もあなたに十分依存症なんですから。
「相変わらずだらしない身体をした雌豚ですね、ハル子さん」
「貴方こそ、相変わらずカルシウムたっぷりな頭」
彼氏の頭は空っぽだ。脳味噌なしの雄牛の頭蓋骨。それに反して雄々しい身体をしているのにはちょっと違和感を覚える。ヘンじゃない、それ。そんなこと言ったら彼、死んじゃうだろうから言わないけれど。
彼は人間じゃない。まあ、これは別にヘンな事じゃない。身体がごついのはヘンテコリンだけれど。
彼は自分の身に合った職業を選んで、教会で牧師をしているらしい。つがいにお互いを幸せにするだとか大切にするだとか一生離さないだとか凡人には到底無理そうなことを無理やり誓い合わせる、あれだ。あんなバカバカしい儀式無くなればいいのにと思うけれど、そんなことになったら彼がニートになってしまうのでダメだ。
他にも薬草を調合して妙薬を作ったりしているらしい。本当、見た目に合ったことをしていて関心する。ボディービルダーもおすすめだと思うけれど。
そして私も自分の身の丈にあった仕事をしている。どこにでもいるOLっていう、実にありふれた人間だ、私は。
しかしこれが非常に厄介。なんせ男と接する。いや、むしろ男と接さない仕事なんて無いんだけれども。
男と歩いてる、飲み会の帰り、とにかく男と接しているのを見られた日にはもうおしまいだ。いいや、見られる以外でもだめだ。煙草の匂いだとかそういうものにも彼は異様に敏感である。私も彼も煙草なんて吸わないわけだし、勿論、私も彼も使ってない香水の匂いなんてした日には。
「ハル子さん?!?! 今日歩いていた男の人は誰ですか!??! あいつの住所氏名年齢電話番号を全部吐き出してください!! は? 知らない? そんなことも知らない男とあんな親しげに話していたんですか貴方は!? この淫乱雌豚が!! いいですか!? これからは僕以外の男と一切口聞かないでください!! 殺してやりますから!! ハル子さんと馴れ馴れしく話しやがったあの糞豚殺しますから!!!」
こんな長ったらしい機関銃攻撃を毎回、うん、ほぼ毎日喰らうわけだ。言う時の声はものすごく震えていて、多分人間でいう「もう泣きそう」状態なんだと思う。
でもそんな彼が私は凄く愛おしい。いつもはあんな生意気言ってて、強そうに見えて怖いのに、私が居ないとダメになっちゃう彼が凄く大好き。
「大丈夫ですよ、牛頭さん、私はどこにもいなくなりませんから」
彼の身体を強く抱きしめる。黒いローブからでも分かる筋骨隆々な身体にびっくりする。でも驚いてる暇もなく、彼がさらに私を抱きしめ返してきて、もう、苦しい。何度も何度も私の名前を泣きそうな声で呼ぶ彼はおかしい。でも、嬉しい。
私の彼氏はおかしいと思う。でも、そんな彼を愛する私はもっとおかしいと思う。