出発前 ~朔夜~
もうこんな時間か…そろそろ帰ってくるころかな
最近帰り遅いんだよなぁ…仕事忙しいんだろうけど無理して体調崩さなきゃいいけどなぁ…
せめて家ではのんびりしてもらいまっしょってことで風呂の準備でもしますかっと。
風呂準備をしていると玄関の開く音
「ただいま~ お~い、朔夜 ちょっといいか?」
「なに~?重要な事?」
「まぁ…そうかな…こっちきて座れや」
「ほ~い」
なんだろ?重要な事って?風呂の準備を済ませ居間に向かう
「どしたの?珍しく真剣な顔して…」
「ん…ああ、ちょっとな…」
歯切れの悪い返事…なんか言い難そう…
「仕事クビになった?それとも好きな子に告ったら全力でふられたとか?」
「なんでそうなる?お前俺のことどんな風に見てるんだ…」
どうも違ったみたいだ。話しにくそうだから話し始めるきっかけでも…と思ったんだけど
なんだか重そうな話しっぽいなぁ…
「…なぁ朔夜…おまえ今の暮らし満足してるか?」
…いきなりなんちゅう質問…まじで重たい話しですか…
「そうだね…特にこれと言って不満はないよ?とうさん、かあさんはいないけど、朝にぃがいてくれるし、道場の師匠達も親切だし…いきなりどうしたの?」
「あぁ…あのな信じちゃもらえんだろうが実はな……」
兄貴が帰宅とちゅうに体験した事を話してくれた。
マジで?とは思うもが兄貴は俺に対して絶対嘘をつかない無い事を知っている。しかしいきなり突拍子も無い話を鵜呑みする事も…どうしたもんか…
「まぁ信じられんよな…俺でさえ真実なのかわからん…でもな嘘だって思って真実だった時に手遅れってのは嫌なんだよ…お前だけ残して居なくなるのは……」
両親が亡くなって以降、朝にぃは超がつくほど過保護だ…たった一人残った家族だからだろう。俺だって朝にぃの事を大切に思ってる。言ってた様に万が一朝起きたら居なくなってたなんて事になったら…
「…俺は…行ってみたいんだ…一緒に来て欲しい…でも、お前に一緒に来いとは強制できない…お前の人生を勝手に奪うなんて出来ないから…黙って俺だけ行って俺の存在を消してもらえばいいことなのが一番かも知れない…でもこの世界にたった一人お前を残して行くのは嫌なんだ…勝手だよな…卑怯なこと言ってるよな俺…」
そう言って兄貴は俯く…兄貴の言ってることは最もなことだろう。しかし両親が亡くなって兄貴と二人で過ごした時間が消えてしまう…元から無かった事になるのだから問題はないのだろう。それでいいのか?今まで兄貴と過ごした時間を無かったことにして……そう考えると自然と答えは出た…だって兄貴寂しがり屋だからさ…
「いいよ。一緒に行っても。現状、朝にぃ以外に身寄りもない訳だし、来月で大学も卒業するし、異世界に就職!ってのも楽しそうだしね?それに朝にぃ一人にするの不安だしさ…あぁでも師匠達寂しがるかなぁ…」
「いいのか?こっちにもう戻れないんだぞ?」
「いいってば。こっちにいた痕跡消してくれるんでしょ?だったら悲しい思いさせなくて済むじゃんね」
「ありがとうな…」
「やだなぁお礼なんて言わないでよ…どんなとこかなぁ…楽しみだね。そういえばなんか準備なんているのかな?持って行くものとかさぁ。よくあるこう言った話だと服とかあれば便利そうだよね?後本とかさ?」
「後さ朝にぃ風呂準備出来てるから入っちゃってよ。もしかしたらしばらく風呂なんて入れないかもよ?異世界いっちゃったらさ。う~ん…出るの待って後から入ってたら時間なくなっちゃうし俺も一緒に入ろかなぁ…久しぶりに背中流してやるよ」
この世界で最後になるかもしれない夜。
約束の時間までこれから始まるであろう新しい世界での生活に思いを馳せながら…