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第14章 花江の死

 圭介は中学になると、友達と遊ぶこともなくなり、勉強と習い事に熱中するようになっていた。


――中学一年になったばかりの夏休みのこと。

 クミと圭介は花江の血縁に当たる民家に一間借りて逗留し、漁師町での生活を楽しんでいた。その海岸には『覗き岩』という、まるで人が覗いているような形の岩があり、海水浴場になっていた。夕日が沈むとき、大きくて真っ赤な火の玉が圭介の所に落ちてくるかと思うほど迫って見えた。



 海岸で楽しんで過ごしていた或る日。

 突然の知らせが飛脚により知らされた。花江が倒れたという……。

 クミと圭介が家に帰ってみると、出かける時には元気だった花江が物も言えないほど変わり果てた姿になって寝かされていた。


 町から幸江が飛んできて、寝ずの看病をしたが、その看病も虚しくその十日後、花江は静かに息を引き取った。幼くして死んだ子を合わせば10人の子を産み、亭主関白の夫に仕え、身の回りに起きる波乱万丈を泰然と受け入れて暮らした83年の生涯を静かに終えた。


 何が起きても動じず対応する母親に、かつてクミは尋ねたことがある。

「おっかさんは、どうしてそんなに落ち着いていられるの?」

「沢山の子供を抱えていちいち心配していたらわたしゃ命がないよ。もうどんな苦労にも馴れたよ」と花江は笑った。


 家を潰した長男。医者になり柱とも思えた次男の死。障害者の三男。何度も嫁入りを繰返した長女。幼くして亡くなった子供達。次々と押し寄せる苦労を乗り越えて泰然と暮らしていた花江。


 花江には沢山の孫がいたけれど、圭介のことを一番可愛がっていた。花江はいつも圭介の傍にいた。外孫がやってきて言ったことがある。

「僕らも孫だよね、おばあちゃん」

 圭介にとって花江は自分だけの『ばあば』だった。晩年はクミの人生に寄り添い、圭介の世話をし、ひっそりとあの世へ逝ってしまったばあば。圭介の心には、いつまでもいつまでもその面影は消えることはなかった。




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