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見上げた空の色は  作者: 縁側之猫
プロローグ
1/2

ぷろろーぐ

空を見上げたのは、いつ以来だろうか。

五月に入って見上げた空は快晴で、とても青かった。

春先の草木の匂いが心地よかった。


とまあここまでなら、良くある休日のひとコマで終わったはずなのだが・・・。

視線を正面に、そして左右に振ってみる。

左手にはずっと先に山とその裾に林が見える。

右手には草原が広がっており、奥には山らしきものが霞んで見える。

正面はというと、先の方に向かって舗装されてない土の道が続いている。


空を見上げた。


青くて、雲一つ無い快晴だ。


良い天気だな。


ゆったりと休日を田舎で堪能している訳ではなく、困惑していたと言うのが正確なのか。

記憶が無い訳ではない。

しかし、覚えている限りでは町を歩いていたはずなのだが。


そう、買い物の為に家を出て駅に向かって歩いていたはずなのだが気が付いたらこんな所に居た。

誰かに話しを聞こうにも人は見当たらず民家もない、標識もない。

一部記憶喪失なのかと疑ったが、だからって一人でこんな所に居る意味が解らない。

とまあ途方に暮れていたのだが、



((ウォオオオオオオオーーーーーン))



林の方から犬?の鳴き声が聞こえた。

視線を向けてみるが見当たらない。

不安になったせいか、ようやく思考が出来始めた。


野犬なら人間を襲う可能性もある、

このままここでぼーとしていても日が暮れるだけだ。

とりあえず誰かを見つけて何所に居るのかだけでもはっきりさせないと。


そこまで考えてから、まずは道なりに歩く事にした。

歩きながら風景から自分の居る場所を考えてみる。


道が舗装されておらず、一面の草原が広がる場所となると

日本国内では北海道位しか思い浮かばないのだが、

それにしても景観から考えるにここまで広い場所は無いのではないかと思う。


それでは、外国だろうか?

日本ほど狭い国土でなければ一面が大自然のままという場所もある気がする。

ただ、パスポートも持っていないはずの自分が国外に居ると言うのはどうだろうか?

記憶が一部損失しているのならその間になにかとんでもない事になったのではなかろうかと

そうも思ったが現実味は無さそうだ。


そんな事を考えてひたすら道なりに歩いていたが、流石に疲れが出て木陰で休憩を取る事にした。

飲み物を飲みたいと思ったが喉を潤すものは何もない。

道の先を見てみたがいまだ建築物は見当たらない。


畑なども見当たらないから人里から離れているんだろうか?

なら自分はどうやってそんな所まで来たのか?

徒歩で来たにしては最初疲労感が無かった。


車で置いて行かれたとしたらどうだろうか、

車輪の後を見分けられるほど地面はぬかるんでも居ないし特殊技能も無い。

結局は解らないと言う事か。





「・・・い・・。・・・・おい。」

いつの間にか寝ていたのだろう。

肩を揺さぶる感触と呼び声によって目を覚ました。


寝起きでぼやけた視界で肩に触れる人物を見る。


「ようやく、目が覚めたか。こんな所で寝てると危ないぞ。」


これ・・・が、声の主だろうか?


夢でも見ているのかとまじまじとその姿を見入る。

そこにいたのは猫だった。


毛並みからして日本でよく見かける三毛猫なんだろうが

大きさが異様であった。120センチはあるのではないだろうか。

とにかくスケールが狂っているのせいか、二本足で器用にたっているからなのか、

日ごろ見慣れた猫と比べてもものすごい違和感がある。


「大丈夫か?」


再度声をかけられて、間違いなくこの猫から声が出ているのだと確信する。

しかし、これはやはり夢か幻覚か。それとも未来から来たネコ型ロボットだとでも言うのだろうか?


「本当に大丈夫か?」


こちらが返答しないからなのか、そう聞かれてようやくはいと返事が返せた。


「ワシみたいなのを見るのは初めてかお前さんは」


戸惑いを隠せなかったようでそう尋ねられて頷いた。


「ワシをみてそれだけ驚くんだから、ここらの者じゃないだろ。それにその格好・・・オチモノかの?」


あごに手を当て、うんうんと納得したよ用に何度か頷く猫。


オチモノ?ゲーム用語を猫が使う訳もないだろうが・・・というか何で猫が喋る、そしてでかいんだ?


「その様子だと状況も判ってないだろうからとにかく町まで着いといで。道すがら説明もするから」


そういって後ろに控えた荷馬車を指してうながした。


初めて遭遇した人?だが親切なんだろうか、少しは疑った方がいいだろうか?

むしろ夢か?夢なのか?


迷っているとさあさあと押されるように荷馬車に案内された。


「戸惑ってるとは思うけど、見てのとおりワシは君より小さい、いざとなったら逃げるのも簡単だ。だからまずは話だけでも聞いてたほうがいいよ。すべてを信じなくてもいいけど町に行ったほうがいいと思うしね」


言われた事に頷け、あても無かったので従うことにした。


猫はケイモスと名乗った。

ケイモスは馬の轡を器用に手に持ち、荷馬車を進めていく。

宣言したとおり、大雑把ながら説明をしてくれた。


「説明といってもワシも何から何まで事情通なわけでもないし、大多数の情報からそうだろうという推測もまじっているという事だけは最初に断らせておいて貰うよ」


その前置きに頷いた。


「まず最初に君は・・・日本人、でよかったかな?」


「そうですが・・・?」


日本語で喋っているし、風貌からして当たりをつける難しくはなさそうだが。


「じゃあ、ワシが日本猫・・・だというのは判るかな?」


自分を指差してケイモスは問いかける。


「毛並みなどから予想は付きますが」


一般的な猫とはどう見ても違うのだがとは、続けなかった。

折角の情報源だ、無用なトラブルは避けようと思った。


「その様子からすると、ワシの様な「猫」は居なかったのか・・・」


ふむ、と言ってケイモスは数秒考え込むように目を閉じた。


「何から話したらいいか、正直ワシも迷うのだが。端的に言うとここは日本じゃよ」


「日本・・・」


国内だと言うその言葉に安堵と腑に落ちない思いが巡った。

国内を隈なく旅をしたわけでもないからこんな場所が在るかどうか、断言は出来ないが。

それでもこんな猫が現実に居るはずはないからだ。

小説や漫画、アニメ、映画など空想の物語の中でならこんな猫はまだ良く見かけるほうだが…。


「別に騙している居るわけでも、ワシがキグルミなわけでもないよ。確かにここは日本と呼ばれている国なんだよ。ただし、今まで君が居た世界とは異なる日本・・・なんだけどね」


「それは、異世界と言う意味での?」


「そう、君の世界に小説や漫画、アニメなんてのがあるか判らないけれども。現実の世界とは『何か』が少しだけ、または大きく違う世界が存在しているという話は判るかな?」


「パラレルワールド、多重世界とかそんな所ですか?俺も小説や漫画なんかはよく見ましたからそういう話は見聞きする分には慣れてますが」


そりゃ助かるよとケイモスは安堵の息をついた。


「とにかくここは日本であって、ワシらの知ってる世界とは異なる日本なんだよ。そして、もともとこの世界に居ない筈の者が稀に降って沸いたように現れる事がある。ワシや君のようにね、それをここでは

『オチモノ』と呼ぶわけだ」


「ケイモスさんも?」


どちらかと言うとここが異世界だというなここの住人だろうと思ったのだが、


「そうワシも日本から来た口だが、そこでは人間だけでなく犬も猫も二足歩行で歩いて会話して、暮らしている世界なわけだが。オチモノの中でも珍しい世界らしくて対外信じてもらうのに一苦労するわけだが」


確かに今でも背中にチャックでもあるか、機械だとでも言われたほうが信じれる。


「そのあたりの違いもオチモノによってまちまちなんだけどね、とりあえず最初の大前提がそういうことだというのをまず頭において置いてくれないかな。」


「はぁ・・・」


話としては事実なのかもしれないが、信じるには状況が不明すぎる。


「はは、実感無いだろうけどね、そこはどうしようも無いからなんとなくでいいよ。さて次だが、これから行くのはそうしたオチモノが多く住んでいる町になるんだよ」


「俺達の他にもオチモノが?」


「大雑把に見ても30人以上はいると思うけど詳しくはね・・・」


「30人・・・、そんなに頻繁にここに人が来るというわけか」


日本での行方不明者の一部はここに来ていると言うことだろうか。


「ある意味隔離の意味もあってね。この国で見つかったオチモノは最初ここに送られる事になってるんだよ。オチモノがよく現れるからそこに町を作ったと言った方が正しいのかもしれないけれども。」


自分と同じ境遇の人がそれほど居ると言う事か。しかし、


「暮らしてるって事は帰る方法は無いんですか?」


「そうだね・・・、もしかしたら帰れた者も居るかもしれないんだけど、行方不明という形だから真偽のほどは判らないのが現状かな。なんせここには魔物が出るんだから」


「魔物!?」


魔物と聞いて思い浮かべたのはゼリー状の生き物だろうか、RPGではお決まりだがそんなものが居るなら命の危険があるのではないか。


「そう呼ばれてる生き物が居てね、襲われることもあるからそのまま行方不明な場合もあるのさ。だから君があそこで夜を明かしていたら危ない可能性があったんで声を掛けたわけ」


「それは・・・たすかりました」


遠鳴きを思い出し、鳥肌が立った。


「こちらこそ理性的な対応を取ってもらって助かったよ。こう見えても争い事は苦手でね、今も襲われたらどう逃げるか考えてる所さ」


笑いを含んだその言動は、本気なのかどうなのか。猫の表情は判りづらい。


「恩人にそんなことはしませんよ、ほっぽり出されたて途方に暮れるはこっちのほうなんですから」


実際問題、ケイモスからこの荷馬車を強奪したとしてだ・・・自分に動かせる自信もない。

そうしたら結局歩くだけだ。町とやらに着いても宛てがあるわけでもない、ケイモスにどんな思惑があるかは判らないが得策じゃないのは確かだろう。


それからは互いの世界の共通点の話やらこの国の事などを交えて話をして道を進んだ。

日が傾き、暗くなり始めたころに道の先に建物らしきものが見え始めたのだ。


「あれがオチモノ達の町だ」


日が傾いて見難い暗さだったが、なだらかに登った先にその町はあった。

石で積み上げたと思われる壁が広がり高さもそれなりにありそうだ。

城に壁ならわかるのだが町に壁がめぐらせてあるというのは違和感だった。

やはり外敵に対する守りなんだろうと思い気を引き締めた。


門の前まで進むと見張りだろうか、やりを手にした男が声を掛けてきた。


「長老、お帰りなさい」


長老?偉い人だったのだろうかとケイモスの顔を見たが


「あだ名だよ、ワシは年寄りくさいって事で長老とね」


確かに年を感じさせる喋り方なのかもしれないが、声は若いような気もする。

猫な時点で声の質なんてあてにならないんだろうが。


「こちらは新しいオチモノさんだ。帰り道で寝てたのを見つけたので連れてきました」


「また・・・ですか、これはいよいよ」


紹介された俺をみながら唸っている。


「それじゃ議会の方には明日引き合わせますから、伝えておいてもらえますか?」


「わかりました」


それじゃと手を振ってケイモスは馬車を町に入れた。


「ケイモスさん、議会って?」


門番とのやり取りの中で聞いた単語で気になったのでたずねた。


「この町の市政を担当してる集まりの事ですよ。まとめ役としていろいろやってますから、この町のお偉いさんといったとこですかね」


「引き合わすって事は、何か手続きがあるって事かな」


「そんなとこですよ」


あいまいな回答なんだな、騙されててそのまま監禁とかになるのだろうか。

良くない事態も想定しておかないとなと思いながら町並を見る。

通りに面した建物はあまり見慣れないもので高くても2階立てまでのようだ。

日本と言うわりに違う点が多そうなのと、科学水準は低そうだ。

街灯も見る限りなく明かりも蝋燭か油のを使ったものしかないので暗い。


「ケイモス、町を見て思ったんだが電気やガスって無いのかここは?」


「電気もガスも見たことは無いかな、話だけならガス灯が首都にはあるらしいけど」


「オチモノがいるのに、科学は発達しなかったのか」


「オチモノっていっても、人数的には少ないしね。それに技術者が来ることなんてめったに無いから生活水準はそれほど高くないと思うよ」


言われてみれば確かに、俺も電気の作り方なんて良くわからないしな。

理屈は学んだ事があるけど、だからどうだという感じだな。


「到着、ここがワシの店だよ」


そう紹介されたのは二階建ての建物だった。

さらに建物横から奥に入っていって中庭のような場所に出た。


「悪いけど荷物を運ぶの手伝ってくれんか?」


ひょいひょいと奥の建物を指差した。

了解と言って荷馬車に乗ってる袋を抱えた。

結構重いな・・・。

なんどか往復して荷物を片付けるとケイモスは馬を繋いでくるからとまた別の建物へ進んでいった。


暫くしてケイモスが戻ってくるとこっちだよと言って建物の中に案内してくれた。


「長老お帰り!!」


室内に入るとケイモスはいきなり抱きつかれ体中をなでまわされた。


フギャアーーーーーー


と尻尾を逆立てて叫びを上げている声は猫・・・だな。



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