風邪
入学して、あっという間に一月が過ぎた。
だいぶ学校にも慣れて、クラスにも男女を問わず友達が増えた。
ただ、勉強が大変だ。
授業の進度は早いし宿題は多いし。
もうすぐゴールデンウィークだ。
待ち遠しい。
漫研部員にはカレンダー通りの休みが待っている。
でもしっかりと宿題が出そうだが。
漫研の先輩や1年生とも親しくなった。
由衣の真似をして、他の部員から「真ちゃん」と呼ばれるようになっている。
俺も他の部員を部の中で呼ばれている呼び方で呼んでいる。
3人の先輩は○○先輩だが、1年生はみんな下の名前で呼び捨てだ。
俺は入部前は、漫研部員はマニアックでオタクで少し暗いといったイメージを勝手にもっていたが、それがなかなか、みんなユニークで個性派揃いだ。
部長は謎が多いが、部長であるとともに唯一の3年生の自覚の下、何かあるときには的確な指示を出して部をまとめている。
真奈美以外にオリジナルの漫画を描いているのは部長だけだ。
でも、来月に新体制に引き継ぎをしたら引退するらしい。
寂しいが、受験生だし、しかたがない。
2年生の2人は、副部長の石橋志保さんと佐藤澪さん。
石橋さんはやたら明るくて、寒いギャグをよく飛ばしている。
いるだけで部室が明るくなるムードメーカだ。
佐藤さんは面倒見のいいお姉さんで、俺たち1年生の世話をよく焼いてくれる。
ちょとおせっかなところもあるけど。
2人はもっぱら漫画のパロディーを書いている。
お互いの作品を見せ合っては、褒め合って喜んでいるといった感じ。
順当に行くと、新部長は石橋さんで、副部長は佐藤さんになりそうだ。
少し心配だけど。
1年生は真奈美以外に、7組の石川咲良、2組の川上萌、6組の黒瀬美鈴。
彼女たちは同じ一年生だから、付き合いも長くなるはず。
折々と触れていきたい。
もう一人忘れていた。
言わずと知れた、1組の白川由衣のことを。
今さら語ることは何もない。
真奈美が以前に言っていたように、毎日来る部員はいない。
反対に毎日必ず部室に行く俺は珍しい存在に見られている。
中学で野球部に入っていた俺にとっては、「部に入る=毎日部に行く」が、ごく当たり前のことで、それが体にしみ込んでいるのだが、みんなはそうでないようだ。
2年の先輩なんて、週に2回来たらいいほうだ。
1年もだんだん来る日が少なくなってきている。
由衣は何もなければ俺を誘いに来るが、まれに来られない日があるので、皆勤は俺だけだ。
何の自慢にもならないが。
今日は、由衣は学校を休んでいる。
熱が高いらしい。
朝、インフルエンザかも、とLINEが入っていた。
今朝は久しぶりに一人で登校。
駐輪場に自転車を停めていたら、おや?という顔で俺を見るやつが何人かいる。
そうか、逆パターンもあるのか。
やつらにとっては、それだけ俺と由衣の登校は日常の風景のようになっているのかな。
それも困ったものだが。
昼前にインフルエンザではなかったとLINEが入った。
おそらく風邪だろう。
一安心だ。
見舞いに行きたいが、うつってはいけないからと断られるだろうな。
退屈してるんじゃないかな?
病気だからそれどころじゃないか。
放課後、部室に行ったが誰もいない。
寝てるかもと思いながらも、由衣にLINEを送ってみた。
「どう?まだ大変?」
すぐに既読がついた。
起きていたのか。
「だいぶよくなった。退屈だよ。今どこ?」
「部室。誰もいない。」
「活動するの?」
「どうしようかな。一応顔を出したから皆勤は保ててるし、帰ってもいいかな。」
「こだわってるんだね、皆勤に。」
「うん。それにだけはね。」
「それだけって。活動にもこだわってよ。」
「わかってる。一人じゃないよね?」
「うん。お母さんが仕事休んで家にいてくれてる。」
「なら安心だ。」
「何か食べたいものとかあったらおばさんに届けるけど。由衣の好きなコンビニのロールケーキとか。」
「ありがとう。特にないよ。食欲もそんなにないし。ご飯を食べたら何も食べられない。」
「おやつは別腹の由衣がそんなんこと言うくらいだから、よっぽどなんだな。」
「何それ?私が食いしん坊みたいじゃない。」
「違うの?」
「違わないかも。」
「やけに素直だな。それならいつも病気気味くらいがちょうどいいな。」
「それ、ひどいんですけど。」
「明日は行けそう?」
「行けると思う。もう熱は下がったから。からだが少しだるいだけ。」
「無理するなよ。休まなきゃいけないときは、しっかり休んで。」
「うん、ありがとう。」
翌朝、インターホンが鳴った。
よかった。
よくなったんだ。
また由衣と一緒に学校に行ける。
ん?
俺、何考えてるんだ。




