部長
今日は珍しく、由衣が先に帰った。
お母さんに頼まれた買い物があるとか。
部活、どうしようかな。
毎日行かなくてもいいと真奈美から聞いているし、漫画の評論なら家でもできるし。
真奈美は行かないと言っていた。
じゃ、今日は帰るか。
でも、部室に寄ってから帰ろう。
まだ他の部員とまともに話したことがないから、もしも話せるならいい機会だ。
いつものようにノックして入る。
部長がいた。
部長だけが。
長谷井香月さん。
長い髪のスレンダーで綺麗な人。
「飯島君、毎日来てるんだって?」
「はい、俺、いや僕、暇人なので。」
「同じ部活の部員だし、うちは上下関係が厳しくないから、俺でいいよ、全然。」
何かひっかかるものがあるが、スルーするしかない。
実は漫研のグループLINEがあって、何かあったらその日のネタがアップされて共有されていた。
真奈美がしっかりと、俺が言った漫研の上下関係のくだりと、そう部長が言ったということを上げていたようだ。
「そうですか。」
と答える俺は、まさに知らぬが仏だった。
それまで立ち話だったが、部長に促されて座る。
部長も近くのイスに座る。
「飯島君、うちのグループLINE入ってないの?」
「漫研のグループLINEですか。そんなのあるんですか?」
「そう言えば、入部した日に言い忘れてたね。普通はその日に入ってもらうんだけど。ごめんごめん。」
部長がスマホを操作して、俺をグループLINEに入れてくれた。
「由衣ちゃんにも教えてあげてね。」
「はい。」
「で、あなたたちって付き合ってるの?」
またその話だ。
入学以来、毎日、誰かに否定と説明をしている。
「付き合っていません。家が隣なだけです。」
もう、これ、いい加減にして欲しい。
「そう。でも由衣ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「えっ!」
思わず大きな声が出てしまった。
こんな展開初めてだ。
「飯島君って、わかりやすいね。入部した日だけ見ててもそれわかったよ。これでも飯島君より2年長く生きてるんだから。でも、あの子はその気はないみたいだね。それってキツイね。」
その通りだから否定できない。
でも肯定もしたくない。
「まぁ、私が口出しすることじゃないし。」
「はぁ。」
返事に困る。
「あなたがそれでいいんだったらね。」
いいわけない。
でも、どうにかなることではないことはずっと前からわかっている。
またもや返事に困る。
「はぁ。」
「いいんだ、それで。」
挑発的に部長が仕掛けてくる。
つい、カッとなってしまった。
「いいわけないでしょ。でも、どうすることもできないいんです。もう何年もこのままだし。」
言った後に、もう遅いが冷静になる。
何で初めて話をするような人に、こんなことを言ってしまったのだろう。
部長が立ち上がる。
俺の方に近寄ってくる。
そして俺の前に立つ。
部長と目が合った瞬間に、部長の目から涙が伝う。
「辛いね。私もそんなことあったからわかるよ。」
そっと俺を抱きしめる。
俺の顔に部長の胸が。
「辛いよね。」
しばらく俺は動けないでいた。
部長が離す。
「でもね、諦めないでいたら何かが起こるかもしれないよ。私は諦めちゃったから、今でもまだ後悔してる。・・・がんばりな。あんたにはまだ未来がある。」
部長が別人のようになった。
「じゃあまた!」
右手をあげて部長が帰った。
しばらく思考が停止していたが、少しずつ頭が動き始める。
今の、現実のことだったのか?
顔に残る感触で、現実のことだったことがわかる。
どっちが本当の部長なんだろう。
次に会う部長はどっちなんだろう。
それにしても部長の胸、柔らかかったな。
あんなに細いのに、わからないものだ。
今日のことは部内での大きな事件だが、さすがにLINEには上げられない。




