チームマンケン
補習がない夏休みの最後の週。
前々から聞いていたがこの週のいつかに部誌の印刷が行われる。
他の部や同好会もこの週に希望が集中するので、調整が大変みたいだ。
職員室の印刷室には顧問の先生の立ち合いがないと入れないから、先生との調整もある。
部長と先生とでスケジュールを整えてくれて、日が決まった
いくら活動費用がもらえない同好会と言えども、文化祭の活動だけは補助がもらえる。
それで紙や文具などの代金が賄えるからありがたい。
今年の部誌の表紙の色は薄いうぐいす色。
部長から提案があって、みんなも大賛成。
趣があって、我ら漫研にふさわしい色だ。
当日、割り当てられた時間に俺と萌の印刷チームで職員室前に集合。
なのに、まだ前の部が印刷している。
その部の顧問らしい先生が、うちの顧問に謝っている。
いや、いいですよなんて顧問は言ってるが、いいわけがない。
時間はきっちりと決まってるんだから。
結局15分ほどオーバーしてその部は引き上げていった。
やっと俺たちの出番だ。
そう、チームマンケンの。
最初の原稿をセットして「製版」のスイッチを押す。
製版が終わり、1枚出てくる。
チェックする。
うん、OKだ。
「印刷」のスイッチを押す。
2台の印刷機が唸りをあげる。
片面が擦り上がったらすぐに裏面に印刷。
擦り上がりが近づくと、俺が視聴覚教室に走る。
ここは職員室の一部なので生徒はスマホは使えないから。
「もうすぐ上がります!」
段ボール箱を持って運搬係の真奈美と咲良がやってくる。
素早く詰められ、視聴覚教室に運ばれる。
部長の指示のもと、2か所に分けられ作業が始まる。
ざっと見て、印刷の悪いのはハネて、どんどん二つ折りにして重ねていく。
手早くやらないといけないが質は落とせない。
きっちりと角を揃えて折っていく。
そうしているうちにも次々と仕上がった印刷物が運び込まれる。
そして、最後のページの分が運び込まれた。
ここからは全員で折る。
折り続ける。
俺たちの作品が形になっていく。
仲間といっしょに作り上げるってこんなに楽しんだ。
次第にみんなの気持ちが高揚していくのがわかる。
顔が上気している。
ランナーズハイのようになっている。
そうなったら、普段言えない心の声が素直に口からあふれる。
「去年もそうだったけど、このときって、ああ私漫研なんだって思うよ。こういうの好き。沙織たちがやめたとき私も迷ったけど、続けてよかった。」
部長が涙声で口火を切る。
「そうだね、志保。結局は好きだからやれるんだよね。志保がやめてたら私も絶対にやめてた。やめなくてよかった。」
副部長が続く。
「私、漫研に入って本当によかったって思ってます。」
萌が泣いている。
「先輩も友達もみんな本当に大好きです。」
「私も。私、部活は入るか入らないかで迷ったけど、入ってよかった。漫研にしてよかった。」
由衣も泣いている。
そして咲良が、美鈴が、真奈美が続く。
もちろん俺も。
「何か、去年の私たちみたいね。」
部長が副部長に微笑む。
「そうね、こんなだったね。」
折れども折れども終わらない。
目を離した隙に湧いて出てるんじゃないかと思うくらい。
でも、この時間が永遠でもいいな、なんて思う。
部長が言うには今年は去年よりページ数がだいぶ多いらしい。
やる気のある一年のおかげで嬉しいと言っていた。
ならば折り続けよう。
マシーンと化して。
これを読んで何かを感じてくれる人のために。
翌日。
作業が再開される。
午前中で折り上がった。
昼食を食べて少し休憩したら、次は綴じ合わせだ。
机にページ順に並べて置き、順番に取っていく。
全部取り終えたら、揃えて綴じる係に渡す。
何周も何周も回る。
紙はどんどん減っていく。
部誌はどんどん増えていく。
「私で最後です。」
美鈴がみんなに伝える。
取り終わった美鈴がトントンと揃えて、最後の一冊を部長に渡す。
部長が大きなホチキスにセットする。
それが綴じられるのをみんなが囲んで見ている。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
最後の一か所。
部長の手に副部長の手が添えられる。
その上にみんなの手が重なる。
「それじゃあいきますよ。みなさん、お疲れ様!」
「お疲れ様~!」
の返事とともにみんなの手で最後のホチキスが押される。
ガチャ。
その瞬間に、ワーとかキャーとか何か訳の分からないような声も上がった。
抱き合って喜ぶ3人娘たち。
できあがった。
俺たちの部誌が。
部長が1冊ごとに表紙の隅ににナンバーを書き入れていく。
とりあえず今はナンバー8まで。
そういえば、部室に残っていた部誌にも全部手書きのナンバーが入っていたな。
部長から俺たちひとりひとりに部誌が渡される。
貴重な一桁のナンバーが入った部誌が。
1年生からクラス順に渡される。
部長らしい配慮だな。
まずは1組の由衣から。
潤んだ目で深々と頭を下げて受け取る。
続いて萌。
もうだれに遠慮がいるものかとばかりに泣いている。
次は俺。
萌につられて泣きそうだが、なんとか受け取るまでは我慢できた。
続いて美鈴。
いつもクールな美鈴だが今日は目が赤い。
そして咲良。
「ありがとうございます。」
涙をぬぐいながら言葉を添えて受け取った。
最後は2年生の2人だ。
副部長から部長に、部長から副部長に。
「お疲れさま。」
「ありがとう、澪。」
「部長、一言。」
しばらく考えて部長が話し始める。
「文化祭までまだいぶありますが、正直言って、何か、もう全部やりきったって感じです。全員の協力で今年もとってもいい部誌ができました。すごく嬉しいです。あとは飾りつけの準備や当日の当番決めなどが残っていますが、これは明日からにしたいと思います。今日は早いですが、これで解散にします。ゆっくりと休んでください。明日からもまた全員で頑張りましょう。」
「はい。」
みんなの返事が重なった。




