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集中砲火

ついに補習が始まってしまった。

午前中の4時間だけで土日は休みとは言うもの、お盆の前まで続く。

そしてお盆が明けたらすぐに再開される。

始業式の1週間前まで。

補習とは名ばかりで、教科書を進めていく普通の授業で、宿題もきっちりと出される。

それでなくても夏休みの宿題だけでヒーヒー言ってるのに、血も涙もない教師集団だ。

そして、午後はクラスの文化祭の準備。

最終下校時刻までやるので、部活動はその後だ。

夏休みの間だけ、同好会も下校延長が認められている。

そして、エアコンが付いている特別教室が、活動を希望する同好会に割り当てられるので、部としての活動ができる。

我が漫研には視聴覚教室が与えられた。


初日の今日は、全員集合が掛かっている。

副部長から今後のスケジュールや展示の内容が書かれた紙が配られる。

みんなの手に渡ったら、部長の話が始まる。

「・・・となります。以上が今後のスケジュールです。次に展示のことに移りますが、今年のテーマはみなさんもご存じのように、夏休み前に話し合って決めた『感動を伝えたい』です。今までに皆さんが読んで感動した作品、ぜひとも多くの人にその感動を味わってもらいたいと思う作品を1つ選んで紹介してもらいます。他の人のとかぶってもかまいません。模造紙に文字やイラストなどで、自由に表現して感動を伝えてください。毎年、私たちの展示を楽しみにして来てくださる方々がたくさんいます。その期待に応えられるように『やるときはやる漫研』の伝統を守って、今年も精一杯頑張りましょう。」

何人かから

「はい。」

という返事が返された。

おれは感動屋だからこういうのに弱い。

涙が出そうになった。

おそらく部長は原稿を作って、何度も練習したんだろうな。


俺は何にしようか。

テーマのことは知っていたし、忘れていたわけではないのだが、まだ考えていない。

なので、作品を決めるところから始めることになる。

みんなは決めているのだろうか?

真奈美は?

「うん、決めてるよ。感動した作品はいっぱいあるけど、ダンチで一番のがあるから。」

由衣は?

「私も。これ抜きじゃあ漫画は語れないっていうのが私にはあるんだ。」

3人娘にも聞いてみる。

萌は?

「これしかないっていうのがある。今まで買って揃えたコミックスってそれだけだもん。」

咲良は?

「私も決めてるよ。これでいっぱい感動させて見てくれた人を泣かせてみせるよ。」

美鈴も?

「当り前じゃない。テーマが決まった瞬間にこれだってビビーンってきたもん。・・・ひょっとして真ちゃん、まだ決めてないとか?さすがにそれはないよね。」

ウソを言ってもすぐばれるから、本当のことを言う。

「決まってない。」

まさか、そこからみんなからの集中砲火を浴びることになるとは。

「えっ、ウソ、何で!今日から活動ってわかってたよね。何やってたの、今まで。」

漫画に関することだけには妥協できない真奈美が口火を切ると、みんなも言っていいんだとばかりに言いたい放題になる。

「あんなに前に決めたのに信じられない。ほんと計画性がないな。いつまでもこれじゃダメだよ。」

と由衣。

「部長があんなに頑張ってるのに、応えようってが気ないんだ。いい加減にしてよ!」

部長の話の後に一番大きな声で返事をした萌が怒りをあらわにしている。

「そもそもやる気あるの?ないならないって言ってよね。そのつもりで相手するから。」

咲良が突き放すように言う。

「呆れた。開いた口がふさがらないわ。漫研の部員だって自覚あるの?どう見てもないよね。」

美鈴が冷たく言い放つ。


そこまで言わなくても。

俺、そんなに悪いことをしたのか?

まだ何の形にもなってないってところじゃ、みんなも同じだろうに。

ふてくされて開き直る。

まずは反省しないといけない場面でそれが態度に出ていたんだろう。


「じゃ、あの人はほっといて、私たちでやろう。」

萌がチラッと俺を見てみんなに声を掛けると、示し合わせたようにみんなが机を動かして丸くなるように配置をする。

ぴったりくっつけて、俺が入れる隙間はない。

模造紙に見立てたコピー用紙にレイアウトの線を書き入れ始めた。


環の外に1人取り残された俺。

仕方なく、近くの席に座ってみんなと同じことを始める。

「順番が違うんだけどな。」

俺が見える向きの美鈴が独り言のように呟く。

隣の咲良もうなずいている。

そうだった。

まだ作品を決めてないのにこんなことしたって・・・。

自分で何も考えずに動いているのにやっと気づいて恥ずかしくなる。


まずは紹介したい作品を決めないと。

何にしようか。

由衣の部屋で読んだのは選べない。

意外に、みんなが知らないような古い作品もいいかもしれない。

実は、母の弟の叔父さんが引っ越すときに、荷物になるし、もう読まないだろうからと、たくさんコミックスをくれた。

俺が生まれる前に刊行されたものも少なくない。

どれも味のある作品で、読みながら何度も泣いた。

泣きたい気持ちのときに読むとっておきのもある。

「花の慶次」、「天地を喰らう」、「柔道部物語」、「パイナップルアーミー」、「花田少年史」、「俺の空 刑事編」。

この中から選ぼう。

どれにしようか。

どれも推したいし捨てがたいから困ってしまう。

でも1つに決めないと。

さんざん悩んでやっと決まった。

「よし、これで行こう!」

自分の世界に入り込んでいたものだから、つい大きな声を出してしまった。

あっ、しまった。

前を見る。

みんなの視線が集まる。

やっちまった。

少し間があいて、みんながくすっと笑う。

真奈美と萌がアイコンタクトを取って机を離してくれた。

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