犬
あれ以来、漫研の活動は由衣の部屋で行うことになった。
けがれた俺の部屋は嫌なのだろうな。
2人ともはっきりとは言わないが。
真奈美が来ないならマイちゃんのあのポスターをまた貼り直したいが、由衣に見られたら絶対に真奈美にチクられるだろうから我慢している。
真奈美も由衣もストーリーができあがって漫画を描き始めた。
2人のストーリーを少し前に読ませてもらったが、時間をかなり掛けただけあっていいものができていた。
真奈美のは、やはりよく事件が起こるが、前ほど忙しくないし怖くない。
設定がしっかりしていて、最後まで安心して読めた。
由衣のは異世界ファンタジーもの。
この分野はどちらかと言えば苦手で書籍で読んだことはないのだが、テンポよく話が展開されて読みやすかった。
伏線の回収もよく考えられていた。
俺は評論を書き続けている。
以前に真奈美に指摘された点を直しながら。
とにかく、何度も読み直している。
読むたびに、新しい何かに気付いたり何かが見つかったりする。
これをしなかったから内容が薄かったんだな。
内容がないと言ったやつもいたけど。
休憩するときや話をするときに、由衣がコーヒーや紅茶を毎日出してくれるので、悪いなってことで俺と真奈美で出し合って買ったインスタントコーヒーと紅茶のティーバッグを渡してある。
由衣はそんなのいいと言ったけど、毎日のことだししばらく続くから、遠慮しながら飲むのもなんだし。
今日は紅茶だ。
「もうすぐ夏休みだな。」
待ち遠しい。
「うん、そうよね。早く来ないかな。」
と由衣。
「でも補習でほとんど学校じゃない。」
不満そうな真奈美。
「そうそう、夏休みなのに休みじゃないよ。」
由衣も同調する。
「午後は、毎日クラス展示の準備だろうな。」
2学期に入ったらすぐに文化祭や体育祭がある。
「だね。結局一日学校にいることになるんだ。クラスの準備は楽しそうだけど。」
真奈美がいかにも楽しみと言った感じで微笑む。。
「クラスもだけど漫研もよね。文化祭の準備。」
と由衣。
「そうそう、展示を見に来てくれた人に渡す部誌を作るんだよね。年に1回発行するあれ。」
と真奈美。
「そうだな。夏休みの最後の週に印刷して綴じるからそのつもりでって先輩が言ってたな。原稿の締め切り日って結構早いよな。誤字や脱字をみんなでチェックするから。その日に間に合わなかった人のは載らないって、厳しいな。」
「そう。だから何が何でもその日までに原稿を仕上げないと。私、絵が遅いから間に合うかな。今から心配だよ。」
由衣の心配性が顔を覗けた。
「だいじょうぶ。背景とかなら手伝うから。」
真奈美が優しい。
「えーほんと、ありがとう。」
「俺も手伝うよ。」
「真ちゃんはいい。昔から絵はダメなの知ってるから。」
秒殺された。
「そう言えば自分で下手って言ってたけど、まだ真ちゃんの絵って見たことないな。」
「真奈美ちゃん、ほんとひどいよ、真ちゃんの絵。前に犬を描いたの見たことがあるけど、犬なのか猫なのか馬なのかわからなかったもん。」
「ひでーな、お前。どこからどう見ても犬だろうが。」
「どこがよ。牛って言われてもそうなのって言ったと思うよ。」
「そんなにひどいの?。」
真奈美が呆れている。
「うん。幼稚園児並み。」
もう無茶苦茶だ。
「でも一度は見てみたいな。その芸術作品。」
真奈美が興味深げに俺を見る。
「今、描いてもらったら。おもしろいよ。」
由衣が意地悪そうに言う。
「俺は描かない。」
「描けないの間違いでしょ。」
「描かない主義なんだ。」
「ウソ、描けないだけ。」
「ねぇ、ちょっとだけ描いてみてよ。」
真奈美が強引に紙を渡してくる。
「ね、真ちゃん、お願い。」
いつもにない甘えぶり。
断れない雰囲気になっている。
仕方がない。
「何を描こうか?」
「反対に何なら掛けるの?」
由衣の無礼ぶりにムッとする。
「何でも書けるに決まってる。」
「真奈美ちゃん、何かリクエストしてあげて。」
「じゃあ・・・」
しばらく考えて
「犬。」
「おーありがたい。俺の得意分野だな。」
さらさらっと書く。
「はい、犬。」
2人に見せる。
見た瞬間に言葉を失い、2人が顔を見合わせる。
と同時に大笑いが始まる。
まさにお腹を抱えての。
「ま、前より・・・どくなってる、何で。・・・は、前は動物ってわかったけど・・・これは、わからないよ。脚が4本だから・・・んとか・・・わかるけど。」
ベッドの上で笑い転げながらしゃべるからよく聞き取れない
「これは、これはすごいね。・・・こんなの初めて見た。・・・ほんと、すごい。」
真奈美もデリカシーのかけらもなく遠慮なく大笑いしている。
ひどいな、それって。
俺は決心した。
もう二度と人前で絵は描かない。




