こだわり
今日も3人で部室に向かう。
あの日からずっとそうだ。
それにしてもだいぶ暑くなってきた。
これ以上暑くなったらエアコンのないあの部室には行けなくなるな。
窓を開けても風が通らないし。
部室に入ると、活動に入る前に頼みごとをする。
「真奈美、俺の読んでくれる?感想も聞かせて欲しいんだけど。」
「うん、いいよ。」
「私はその後?」
「いや、由衣はいい。」
「何でよ。」
由衣がすごく不満そうな顔をする。
「だって、お前に読ませたら無茶苦茶言われてやる気なくしそうだし。」
「そうなの?」
真奈美が意外そうだ。
「そうだよ。前に真奈美の漫画読んだだろ。あのときなんか」
「ダメ!」
大きな声で俺を遮る由衣。
「読み終わった直後に真奈美がいなくて、ほんとよかったよ。」
「そうだったの。でもそっちを聞きたかったな。正直な感想でしょ。」
「いや、聞かない方がいい。この前の美鈴どころじゃないから。」
「だったら聞かない。」
「もう、私抜きで話を進めないでよ。なんか、私、ひどい女になってない?」
「違ったっけ?」
「もういい。」
由衣が膨れる。
「私のがもうすぐできるから、由衣ちゃんに読んで欲しいな。」
「やめた方がいいと思うけどな。」
「まだ言うか!」
「どうだった?」
読み終えた真奈美に聞く。
「うん、文章が上手いね。中身は薄いけど。」
「え?」
思わず目が点になった。
ひょっとして、由衣より辛口?
由衣が大きな声で笑い出す。
「あ、ごめん。」
真奈美が謝るが、あまり心ががこもってない。
「他には?」
「うん。誤字脱字が多いね。文章のねじれもかなりある。何度も読み直した?人に読ませるんならそれは最低限のマナーだよ。段落も分けすぎ。反対に読みにくいよ。それに何と言っても評論なんだから、もっと自分の意見や感想を盛り込まないと。あらすじに多くをとりすぎ。批判ばかりだけど、少しは評価もあっていいんじゃない。これじゃメリハリがないよ。それに・・・。」
いつまで続くのか、これは。
由衣も笑ってる場合じゃないとばかりに真剣に聞き入っている。
最後に
「私、漫画に関することにだけは妥協したくないから。」
その締めのありがたい言葉でやっと終わった。
俺も終わった。
お褒めの言葉が一つだけで、あとはボロカスだ。
もう評論なんてやめようかな。
300年ほど早かったみたいだ。
こんなことなら由衣にしたらよかった。
今のあいつは褒めるという技も身に付けていることがわかったし。
もう何も怖いものはないので、由衣にも読んでもらった。
少しは優しくして欲しい。
「うん、たしかに中身がないね。それに何でこんなに誤字が多いんだろう。常識を疑うわ。カッコつけてそれらしい批判をしてる自己満足だけの文章だな。本当に中身がない。」
もういい。
もうやめてくれ。
頭がおかしくなりそうだ。
もうこの2人に読んでもらうなんて絶対にしないぞ。
美鈴の方がよっぽど優しいに決まってる
真奈美は「漫画にだけは」と言っていた通り、帰る前に別の話になると、いつもの明るくてかわいい真奈美に戻っていた。
ひどい目にあったが、自分がこだわりをもって打ち込んでいるものに対しては、決して譲ることはできないという姿勢はかっこいいなと思った。
俺も見習わないと。
由衣との帰りの話題はもっぱら真奈美のこと。
「今日の真奈美ちゃん、すごかったね。」
「ああ、あんな真奈美、初めてだ。」
「私も。で、どう?あんなにボコボコにされた感想は。」
どう見ても楽しんでいる。
「どの口が言ってる。」
「私はかなり気を遣ってマイルドに言ったつもりだけど。」
「よく言うよ。あれでも真奈美は文章が上手いって褒めてくれたよ。それに比べてお前って、一言も褒めてくれなかったぞ。批判ばかりで。」
「褒めて欲しかった?」
「そりゃ、誰だってそうだろ。しかも真奈美は内容が薄いって言ったけど、お前は内容がないって言った。しかも2回も。」
「ごめんごめん。次からは褒めてあげるから。」
「いいよもう。お前たちには二度と見せない。」
「で、どう、今日の真奈美ちゃんは?」
「たしかにあれはきつかったけど、自分の好きなものにこだわる真剣さが伝わってきた。」
「惚れ直した?」
どう答えようか。
正直に言おう。
「ああ、そうだな。惚れ直したな。」
「私の前でそんなこと言う?少しは気を遣いなさいよ。」
「由衣にそんなこと言われる日が来るとは。それにお前がそう聞いてきといて。」
「そうだっけ?」
「お前のストーリーはまだできないの?」
「うん。何度も練り直してて、この前また変わっちゃったし。」
「そうか。できたら読ませてよ。いっぱい感想聞かせてやるから。」
「あっ、仕返ししようとしてるな。」
「何で。おれは純粋にお前のストーリーをいいものにする手助けをしたいだけだよ。」
「じゃあ何でそんなに楽しそうなの?」
「えっ?」
そんなそぶりを見せてるつもりはないのに。
「真ちゃんは私を騙せないから。」
「俺は」
「もういいよ。見せてあげる。真ちゃんはひどいことなんて言えないから。それはわかってるから。」
そんなに俺を信用するなよ。
きっちりと仕返ししてやろうと思っていたのに。
もう褒めるしかなくなっただろ。
でもそれじゃあ由衣が成長しないな。
気になることは指摘しながら褒めてやろう。
前に由衣が真奈美にしたように。




