真奈美と由衣
「じゃ、行ってくるね。」
「悪いな。」
申し訳なくてそれしか言葉が出ない。
「ううん、全然。って言うか、私のためだから。」
この子はなんでこんなに優しいんだろう。
真奈美が部室の扉を開けたときには、すでに由衣がいた。
「待たせたかな?」
「いいや。」
真奈美が由衣の斜め前のイスに座る。
「真ちゃん、落ち込んでるよ。」
由衣は答えない。
「まいってるよ。」
やはり答えない。
「由衣ちゃんがひどいって。」
「えっ?」
「やっと反応してくれた。」
やられたという感じの由衣。
「私と真ちゃんは付き合ってる。でも、それは私と真ちゃんの話。由衣ちゃんには関係ない。」
「関係なくない。真奈美ちゃんが彼女になったんだから、私と今までのような関係ははダメ。」
「今までの関係って?」
「毎日一緒に学校に行ったり、真ちゃんの部屋で話したり私のうちに来たり、一緒にどこかに出掛けたり。」
「それ、どこがダメなの?」
「真ちゃんが前に、それは付き合ってるってことになるって言った。」
「はー?そんなの今じゃ中学生どころか小学生でも普通にやってるよ。別に付き合ってるとか関係なしに。時代錯誤も甚だしいな、それ。」
「そうなの?」
「そうよ。キスとかエッチとかしてるわけじゃなし。」
「そ、そんなのしたことないに決まってるでしょ。」
「何本気でパニクってんの。ただの幼馴染でしょ?ならいいじゃない。」
「うん。でも・・・。ちゃんとしないと。」
「ちゃんとって何?」
「今までは真ちゃんのそばには私しかいなかったからそれでもよかったけど、今は違うから。」
「私に気を遣ってるってことだよね。」
「気を遣ってるって言うより・・・私がもうそれはしちゃいけないって思ってる。」
「はぁ。」
ため息をつく真奈美。
「で、私、思ったんだよね。」
由衣の返事を待っている。
その続きに何かを感じる由衣。
怖くて返事ができない。
返事が返るまで待つ真奈美。
したくないけどしかたない。
「何を?」
「真ちゃんと別れようかなって。」
「えー!!」
何かあると思っていたが、その予想のはるかに上を行く返事。
「そんなにビックリしなくてもいいでしょ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ、何でよ。」
由衣が尋常でないほど慌てている。
「今までが楽しすぎたのかな。由衣ちゃんとも。それを壊してまで真ちゃんと付き合うって・・・言い方がひどいのはわかってるけど、その値打ちあるのかなって。」
由衣にはその意味がすぐにはわからない。
「別れたからって、元に戻れるかどうかはわからない。・・・もどれるわけないか。でも、今よりはましになるかも。今は最悪だから。だから、別れようかなって。」
「真ちゃんには言ってるの、それ。」
「まだ言ってない。けど、決めたからには早く言わなきゃね。」
「待ってよ。そんなの聞いたら真ちゃん・・・。」
「そうかもね。私にはもったいないほどの彼氏だったな。」
「だから、待ってよ。」
「あーあのころに戻りたいな。」
「あのころ?」
「そう。3人で部室でワイワイ言ってたころ。」
「ゴールデンウィークに入る前までの?」
「うん、そのころに。由衣ちゃんはそう思わない。」
「思うよ。」
深くうなずく。
「連休に入る前に、私がいらないことしたからこんなことになっちゃった。だから、責任取らないと。」
「真奈美ちゃんのせいじゃないよ、全然。私が悪いんだし。」
「由衣ちゃんこそ何にも悪くない。でね・・・私があのころに戻そうと思うんだけど。そうなったら全部解決するよね。」
「どういうこと?」
「だから、私が連休前に戻すってこと。」
「何言ってんのよ。そんなの無理だよ。」
魔法使いでもあるまいし。
「私にはできるよ。」
「できないよ、そんなことだれにも。」
「じゃあ、できたらあのとき私たちに戻ってくれる?」
できない話をいつまでも続けてもしょうがない。
「うん。」
とだけ答えて切り上げようとする由衣。
「由衣ちゃん。」
真奈美の笑顔が自信に満ちている。
「だいじょうぶ、私にまかせて。でもそれには由衣ちゃんの助けがいるの。」
昨日、あいつら部室でどんな話をしたんだ?
真奈美にLINEを送っても返事がないし。
どうなってるんだ。
由衣に聞けるはずがないし。
もやもやしながら出る準備をする。
そときインターホンが鳴った。




