恋人
目覚まし時計のアラームが鳴った。
よかった、掛けといて
掛けなかったら、昼前まで寝てたかも。
昨日は本当に興奮してなかなか眠れなかった。
何度も時計を見たが、3時半までは覚えている。
さすがに眠い。
真奈美が指定した時間は9時20分。
場所は映画館近くのコンビニの前。
映画の上映時間は9時45分だ。
待ち合わせの時間の20分前にコンビニに着いた。
入口の周りにいる人は意外に多い。
立っている人、座っている人、タバコを吸っている人も。
俺はタバコの煙が嫌いだ。
5分も経たないうちに真奈美が来た。
ギンガムチェックのワンピースで。
高校に入って、由衣以外の女の子の私服姿を初めて見た。
すごく似合っている。
かわいいなって素直に思った。
「ごめん、待った?」
「いや、俺も今来たところ。」
ドラマのワンシーンのような定番の会話。
「そういえば、何の映画を見るかって聞いてなかったな。」
「そうだったね。ごめん。」
真奈美にはあまり「ごめん」は言って欲しくない。
「高校生の男子と女子の話。それ以上言ったら、ネタバレになるから言わない。」
「そう。だいたい女の子が病気とか死んじゃうっていったパターンが多いよね。」
「確かにそういったの多いけど、今日のはそんなんじゃじゃないよ。」
「楽しいのがいいな。」
「それだけじゃ退屈するよ。」
確かにそうだな。
映画を見終えて席を立つ。
よかった。
笑わせるところはしっかり笑わせてくれれて、泣かせるところはこれでもかっていうくらいに泣かせてくれて。
「どうだった?」
出口のあたりで真奈美に聞かれた。
「よかった。見てよかったよ。」
まだ感動冷めやらないから、それだけしか言えない。
「よかった。真ちゃんにそんなに言ってもらえて。」
時間は11時半過ぎ。
その後のことは話していない。
選択肢は2つ。
これで解散か昼食を一緒に食べるかのどちらかだ。
「どうする?」
2つの選択肢を真奈美に提示する。
「新ちゃんはどっちがいい?」
逆質問される。
「どっちでもいい。」
ずるいな、俺。
「どっちでもいいなら、ご飯食べない?私、朝が早かったからお腹ペコペコなんだよね。」
屈託のない笑顔でそんなことをいう真奈美がかわいい。
よかった、そっちを選んでくれて。
近くのファミレスに入る。
俺も真奈美も一番安い日替わりランチを注文する。
「明日から何して過ごすの?」
真奈美が面白そうに聞いてくる。
「さあ、俺にもわからない。真奈美は?」
「明後日は神戸のおばあちゃんのところへ家族で行く。それ以外は予定はないよ。」
「そう。」
それじゃあ、またどこかへ行くかと言いそうになって慌てて口を閉じた。
昨日真奈美が言ったのも冗談だったし。
真奈美が真顔になる。
「由衣ちゃんのことだけど、本当にただの幼馴染だよね?」
急に由衣のことになって慌てるが、なんとか平静を装う。
「うん。そうだって何度も言っただろ。」
「それ、信じていいよね?」
「どういう意味?」
「真ちゃん、由衣ちゃんのことが好きなのかなって思うことよくあるから。」
確かにそれはあるかも。
見ててわかるって部長にも言われた。
俺ってそんなに由衣を思う気持ちが外に出てたのかな。
「由衣はただの幼馴染だ。」
はっきりと言う。
だって、今日の真奈美とのデートも由衣の方が乗り気だったんだから。
少し間が空く。
「私の気持ち、気付いてくれてた?」
顔が赤くなっていく。
その瞬間に、前に部室で好きな子がいるのかと聞かれたときのことを思い出した。
そのときと同じくらい赤い。
そうか。
そうだったのか。
ワンチャンってそういう意味だったのか。
いくら恋愛経験がないからと言って、そんなことにも気付かないなんて、俺って本当に鈍感だな。
情けなくなる。
「ごめん。前の、今気付いた。」
その言葉の意味を真奈美はわかっている。
「そうだよ。好きな人にしかそんなこと聞かないよ。普通に答えられて、私、どうしようかって思ったよ。きっと私は圏外なんだろうなって。」
さらっと「好きな人」なんて言われてドキッとした。
「悪かったな、俺、馬鹿だから。」
「うん。でもそんなところも好き。」
はっきり言われた。
真奈美だけに言わせ続けるのは男らしくない。
「俺も真奈美のこと、かわいいなってずっと思ってた。初めて話したときから。」
「えっ?ほんと?」
これは事実だ。
恋愛感情なしのただの友達だったときからも。
でも今は違う。
告げよう、俺の思いを。
「俺と付き合ってくれないか?真奈美のことが好きだ。」
感極まってファミレスで告ってしまった。
他の客には聞こえていない。
というより、俺たちに関心なんてない。
「はい。」
あの真奈美がそれだけ言うのが精一杯だった。
その後はずっとうつむいたまま。
今、新しい日々が始まった。
真奈美と恋人の関係の日々が。
お互いに何もない日は一緒にどこかに出掛けるかもしれない。
それは普通のことだろ。
だって俺と真奈美は恋人なんだから。
でも、あー。
由衣に聞かれるのが面倒だ。
真奈美のこと、言わなきゃよかった。




