高校生活が始まった
「しんちゃ~ん。」
玄関の前から大きな声が。
インターホンを押せばいいのに、ずっとこうだ。
もう何年になるんだろう、こんなので始まる学校生活。
そう、由衣が隣に来た次の日から始まったんだっけ。
俺が小学校3年生のときに、由衣の家族が隣に越してきた。
由衣も3年生。
近所に年の近い子どもがいないのもあって、俺たちはその日から友達になった。
いわゆる幼馴染ってやつに。
学校から帰ると、俺が由衣の家に行くか由衣が俺の家に来るかのどちらか。
そして、俺たちは何でも話せる関係になってしまった。
よくも悪くも。
昨日、高校の入学式があって、今日から本格的に高校生活が始まる。
昨日は互いの親もいたから、今まで通りでいた。
そして、ごく当たり前のように、今日も由衣が迎えに来た。
自転車通学ということ以外は中学までと何も変わらない朝。
でももう、今日からは昨日までとは違うんだって、由衣に教えてやらないと。
「お前な、俺たちもう高校生なんだから、もう別々に学校行こうや。」
「えっ、なんで?」
本気で意味が分からないといった由衣をかわいそうに思うが、もう現実をわかって欲しい。
「高校生ってな、男と女が仲良くしてたら、それって付き合ってるってことになるんだよ。一緒に登校するなんて、そうですって言ってるようなもんだ。本当は中学でもだけど。クラス替えで新しくできた友達には結構聞かれたよ。『由衣と付き合ってるのか?』って。由衣はそんなこと聞かれたことないか?」
「あるけど、そんなの気にならない。どうでもいい。」
「でも、高校ではそう思うの普通だから。お前も俺と付き合ってるなんて思われたら嫌だろ。明日からは、別々に行こう。」
「私と一緒に行くのが嫌になったの?」
涙が浮かんでいる。
これにはずっと俺は降参してきた。
だが今日は引けない。
「嫌とかじゃなくて。さっき、言っただろ。」
「嫌じゃないんなら何で?」
「だから・・・ああ、もう、わかれよ。お前な、もてるんだよ、かわいいって。中学のときからかなりの友達が言ってた。だから、俺にかまわないで欲しいんだ。いちいちただの幼馴染で、付き合ってるんじゃないって言うのも面倒だし。事実、それ以上でも以下でもないだろ、俺たち。ひょっとしたら、俺にも彼女ができるかもしれないのに、お前がしょっちゅうそばにいたら、疑われるだろ。俺は俺でやっていくから、由衣は由衣で楽しい高校生活を送ってくれよ。お前ならすぐに彼氏ができるよ。」
そう言った瞬間に、由衣の両の目から涙がこぼれ始めた。
「何でそんなこと言うの。彼氏なんかいらない。私は今までと同じでいたい。何かあった時には話を聞いて欲しいし、辛いときにはそばにいて欲しい。真ちゃん、ずっと私にそうしてくれたよね。」
確かにそうだ。
小学生のときから、どうしたらいいのかわからないながら、不器用に由衣に寄り添ってきた。
中学生になったらもう半分くらいおとななのに、由衣が辛いときに俺に助けを求めてくれたときにはすぐに駆け付けた。
そして、小学生のときと同じように、時にはベッドで体をくっつけて話したり、泣きじゃくるときにはそっと抱きしめたり。
でも、もうそういうのは終わりにしないと。
俺も由衣ももう子どもじゃないから。
それに由衣にとって俺は恋愛の対象じゃないことがわかっているから。
由衣は今までの関係でいたいようだが、俺にはそんな関係は辛すぎる。
俺はきっと、一人の女として由衣のことが好きなんだろうな。
他人事みたいに言うのは、それを認めるのが怖いから。
だから今までも、ずっと自分をごまかしてきた。
「わからない。何が違うの、今までと。」
由衣が俺に問い質すように言う。
「今までが普通じゃなかったんだ。だから、ただの幼馴染ならそういう普通の関係にならないと。」
「普通の関係って何?」
「普通の友達の関係。俺たち・・・それをかなり超えてた。」
「何が?真ちゃんが言ってることわからないよ。」
「わからないならいい。とにかく、今日から一人で行くから。」
「そんなのウソでしょ?」
「ごめん。」
由衣に背を向けて自転車をこぎ始める。
これでいいんだ、お互いのために。




