きらきらを落とした夜
冬になると、世界は少し静かになります。
音が雪に吸いこまれ、息が白くなり、夜の光がいつもより近く感じられる季節です。
このお話は、そんな冬の夜に落ちているかもしれない
小さな「きらきら」を探す物語です。
目に見える光だけではなく、
だれかを思う気持ちや、ほんの少しの勇気、
それらもまた、きらきらしているのだとしたら。
この物語が、あなたの冬のひとときに
小さな光を灯せますように。
冬の夜は、世界が少しだけ静かになる。
雪が音を吸いこみ、空気まで白くなるからだ。
小さな村のはずれに、古い街灯が一本だけ立っていた。
夜になると、その街灯はほのかに光り、まるで星が地面に降りてきたみたいに、きらきらと輝いていた。
村の子どもたちは、その街灯を「ほしのとう」と呼んでいた。
ある晩、少年のユイは気づいた。
いつもきらきらしている街灯が、その夜は少しだけ暗かったのだ。
「どうしたの?」
ユイが声をかけると、街灯は小さく揺れた。
「……きらきらを、落としてしまったんだよ」
街灯は、ため息みたいな音でそう言った。
「きらきら?」
「冬のあいだ、ぼくは空からきらきらを借りている。
雪にまぎれて落ちてくる、ひとつぶひとつぶの光さ。
でも今夜、強い風が吹いて……」
ユイは空を見上げた。
星はちゃんと瞬いている。でも、地面には光が足りない。
「じゃあ、探そう」
ユイはそう言って、マフラーを巻き直した。
雪の上には、足あとと一緒に、かすかな光の粒が点々と残っていた。
踏むと消えてしまいそうな、やさしい光。
ユイはそっと拾い集めた。
ポケットに入れるたび、胸のあたりが少しあたたかくなった。
途中で、泣いている女の子に出会った。
手袋を片方なくしてしまったらしい。
ユイは、集めたきらきらをひとつ、女の子の手に渡した。
すると、不思議なことに、雪の中から手袋が見つかった。
「ありがとう!」
女の子の笑顔が、またひとつ、きらきらになって空へ昇っていった。
村に戻るころ、ユイのポケットはほとんど空になっていた。
でも胸のあたたかさは、さっきよりも大きかった。
「ごめん、あんまり持ってこれなかった」
ユイが言うと、街灯はやさしく光った。
「いいんだよ」
街灯は言った。
「きらきらは、拾うものじゃない。
誰かを照らしたとき、生まれるものなんだ」
その瞬間、街灯は前よりも明るく輝いた。
白い夜の中で、いちばんあたたかい光だった。
それから冬のあいだ、街灯は一度も暗くならなかった。
村の人たちは知らない。
その光の中に、たくさんの小さな“やさしさ”が混ざっていることを。
雪は今日も、静かに降り続いている。
世界は、見えないところで、ちゃんときらきらしている。
きらきらは、特別なものではありません。
誰かを助けたとき、声をかけたとき、
そっと手を差し出したときに、生まれるものです。
この物語を書きながら、
「世界は思っているより、ずっと明るいのかもしれない」
そんなことを考えていました。
もしこのお話を読み終えたあと、
夜道の街灯や、窓に映る光が
少しだけ違って見えたなら。
それはきっと、
あなたの中にも、きらきらが灯った証です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




