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1.冒険者登録

「4番の番号札をお持ちの方はいらっしゃいませんか!?」


 広いフロアの片隅で青年が大声を上げる。

 ここは魔王立冒険者組合の一階、冒険者登録課の窓口である。


「あっ、はーい!いますいます!」


 それに答えるように少女がベンチから立ち上がり、窓口に駆け寄った。


「お待たせしました。えっと…すいません。少しお待ちください。」


 青年は慣れない手付きで手元の資料といくつも付箋の貼られた本の間を目線が反復横跳びする。


「ああ、これか。エイラ・コレットさんですね。えっと、武術家で登録されたいと言うことでよろしいですか?」


 新人職員のロイドが顔を上げると薄い茶色の長い髪を高い位置で一つに結っている少女が大きな瞳をこちらに向けている。

 ロイドは思わずその瞳と整った顔立ちに動きを止めてしまったが、ギリギリ理性を保ち、業務に集中する。あっ、いい匂い…。


「あの〜。すいません。私の顔になんか付いてますか?」


 誰が見ても分かるような怪訝な顔でエイラはロイドを見下ろす。どうやら鼻の下が伸びているのは隠せなかったようだ。


「い、いえ!すいません!じゃあこちらに必要事項を…書いて頂いてますね。じゃあ、あっ、えっと、」


 ロイドは慌てて付箋のついた本をめくりながら心を落ち着かせて【武術家の登録方法】というページ探した。


「では、お待たせしました。エイラさんは武術家なのでこの測定機になんでもいいので技を繰り出してください。」


 ロイドは足元を探り、前面に赤いクッションのついた箱を取り出し、窓口の机の上に置いた。


「えっと…この赤いところに当てたらいいんですか?」


「そうですね。ここに当ててもらうと技の衝撃が魔力に変換されて数値化されますのでそれがエイラさんの現在の強さの目安になるみたいです。」


「なるみたい?……わかりました。」


 エイラの眉間のシワがさらに深くなっているような気がするが、一旦無視しておく。


「思いっきりやってくださいね!」


 とは言ったものの少し距離を取ったエイラは服の上からでもわかるほど華奢であり、それほどの数値は出ないだろうとロイドは考えていた。それよりも簡素でありながら動きを制限しないようにスリットの入った武術家の服装に目を奪われる。


「ふぅ……覇王天将撃!!!!」


 今振り返るとそれはロイドの知っている世界がまだまだ狭いということを神が教える為に彼女を寄越したのだと思う。いつだって神様は意地悪だ。


 その聞き慣れない言葉がロイドの耳に届くより先に激しい衝撃と閃光がそのフロア全体に広がった。

 ロイドは理解が追いつかず、説明を終えたあとの作り笑顔を保ち続けていたのだった。


“ピロローン”


 測定機の間の抜けたような音でロイドは我に返った。額からは一筋の汗が流れる。


「あのう。納得いかなかったんでもう一発いきますね!」


「ちょっと待っ…」


 ロイドの制止むなしく、放たれた覇王天翔撃という紛うことなき正拳は真っ直ぐ測定機に打ち込まれた。


「大丈夫です!もう十分です!」


「まだまだ!!」


 それから何度かフロアに轟音と閃光が入り混じった。


「はぁ…はぁ…まだまだ…」


「ストップ!!もう…もう充分です!!」


 満身創痍のエイラがまた技の構えを取ろうとした瞬間、ついにロイドは自分の身をもはや金属の塊となった測定機の前に投げうった。


「どいてください。でないとあなたまで肉塊にしてしまう…」


「目的変わってますよね!?ちょっと落ち着いてください!!」


 どう見てもエイラの目はさっき、ロイドが恋しそうになったものではなく、そこにあったのは獰猛な獣が獲物を仕留めるときの目つきであった。


「このままじゃあんた、冒険者になれませんよ!?」


 その言葉でようやく構えを解いたエイラは落ち着きを取り戻したのだった。


「もう。それならそうと早く言ってくださいよー。」


 何もないところに素早く拳を空打ちしている。もしや、まだやりたいのか?


「エイラさん!ちょっと後ろ見てみて?ほら!あんな屈強な成人男性たちが隅の方で震えてるよ!?あんなのなかなか見れないよ!?」


 ロイドの指さす方をエイラが見ると数人の男たちが青ざめた表情でこちらを怯えた眼差し見つめていた。


「やる?」


「この戦闘狂!!」


 エイラが小刻みに震える男たちを手招きしていると窓口の後の扉が開いた。


「たまに視察に来てみてば…ロイドくん。君は何か問題でも起こさないといけない呪いにかかっているのかね?」


「エルさん!ちょっと手伝ってくださいよー!!」


 そこには軍服姿の金髪の美女がやれやれといった表情で現場をうかがう姿があった。ただ、美女とは言ったものの金色の髪の両サイドから立派な二本の角が生え、背中には大きな翼を折りたたんでいる。強いて言うなら美悪魔といったところか…


「一体何事かというのだね。私は忙しいと…」


 エルは呆れ顔でロイドから無残な姿になった測定機に目を移した。


「これは一体誰がやったのだ?」


 その瞬間、ロイドの背中から滝のような汗が流れ落ちた。

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