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@@@《滅びの王国と記憶の継承者》  作者: 米糠


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9/57

@9 知識の塔

 


 *** ゼルヴァニア王国・首都エルデンブルク


 幾つもの街を抜けて、セリス達はやっとゼルヴァニア王国・首都エルデンブルクに辿り着いた。


 エルデンブルクの街は、石造りの建物が整然と並び、風格ある街並みを形作っている。ゼルヴァニア王国の首都にふさわしく、広場には行商人が店を広げ、獣人やエルフといった多種族の人々が行き交っていた。街の中央に「知識の塔」がそびえ立っているのが見えた。


 陽が傾き始めると、活気のあった街も徐々に静まり、昼間の喧騒が嘘のように消えていく。セリスたちは人の流れに逆らうようにして、街の中央にそびえる「知識の塔」へと向かった。


 ***  知識の塔・内部


 塔の中はひんやりとしており、古びた書物の香りが漂っている。壁一面に並ぶ書棚には、ゼルヴァニアの歴史や魔道に関する書物がぎっしりと詰まっていた。高い天井に取り付けられたランプが柔らかな光を灯し、淡い橙色が書架をぼんやりと照らしている。


「おぉ……ここは相変わらず壮観だな」

 ライルが感嘆の声を漏らす。


 セリスは一歩、また一歩と足を踏み入れた。まるで過去の記憶がこの場所に染み付いているかのように、どこか懐かしさを感じる。ここで自分の探している答えが見つかるのかもしれない──そう思うと、胸の奥がざわめいた。


「お探しの本は?」

 低く落ち着いた声が響いた。


 奥から現れたのは、知識の塔の管理者 エドガー だった。


「『王の書庫』について知りたいの」


 セリスが切り出すと、エドガーは静かに目を細めた。


 彼は壮年の学者らしく、灰色の髪を背中まで伸ばし、深い皺の刻まれた顔に知識の重みを宿している。長いローブを纏い、指先には無数のインクの染みがついていた。書物の山に囲まれた書斎の奥、薄暗い蝋燭の光の下で、彼はゆっくりと息をつく。


「それを求めるとはな」


 静かに呟きながら、エドガーは古びた本の山を一瞥した。室内には乾いた紙の匂いと、微かにインクの香りが漂っている。壁一面の書棚には、時間の重みに耐えかねたかのように歪んだ背表紙が並び、その中には歴史の奥深くに埋もれた真実が眠っている。


「『王の書庫』──それは、ただの図書館ではない」


 彼は机に手をつき、ゆっくりと語り始めた。


「そこは、エルセリア王家が代々受け継いできた歴史の記録庫だ。単なる書物の集積ではない。記憶を宿す場所、知識そのものが生きる場所だと伝えられている」


 エドガーの声は、深く静かに響く。セリスは息を詰めた。


「エルセリアの王たちは、ただ統治者であるだけではなかった。彼らは、この地の歴史を記憶し、過去の王たちの知恵を継承する者だった。その知識が記され、封じられていたのが『王の書庫』なのだ」


「……で、今も残っているの?」

 セリスは思わず前のめりになる。


 エドガーは彼女の視線を受け止めながら、ゆっくりと首を振った。


「いや……少なくとも、表向きには失われたことになっている。エルセリアが滅びたとき、帝国軍によって徹底的に破壊されたとされているからな。しかし、本当にすべてが消えたのかどうか……それは分からない」


「……?」


「ただ、一つ確かなことがある」


 エドガーは古びた羊皮紙を手に取り、そこに記された紋章を指差した。


「『王の書庫』は、エルセリア王家の秘密の一端を担う場所でもあった。王の血を引く者だけが、その封印を解くことができると言われている」


「王の血……」


 セリスの指先が、無意識のうちに自分の胸元へと伸びる。彼女の中に眠る「記憶の継承」の力、それが『王の書庫』とどう結びつくのか──。


「今なお、あの書庫がどこかに存在しているとするならば……その答えを導き出せるのは、王家の末裔しかいないのかもしれんな」


 エドガーは静かにそう言い、蝋燭の灯がゆらめく部屋の中で、まるで彼女の秘密を見通すように彼女を見つめていた。




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