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@@@《滅びの王国と記憶の継承者》  作者: 米糠


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@54  帝都ヴァルガルドの闇

 


 @ 帝都ヴァルガルドの闇


 地下水路を抜けた先は、帝都ヴァルガルドの下層街。石畳の路地が入り組み、建物はどれも古びている。街灯の光は弱く、人影はまばらだった。


「……相変わらず、帝国の影が色濃いな」カイが低く呟く。


 この下層街は、帝都の貧困層や裏社会の者たちが集まる場所。帝国の監視も表向きは緩いが、裏では密偵や密告者が潜んでいる。


「ここからどうする?」ライルが尋ねる。


「まずは情報を集めないとね」とミアが言い、視線をカイに向けた。「あなたのコネ、使える?」


 カイは軽く笑った。


「もちろんさ。俺に任せとけ」


 彼は路地裏へと入り、馴染みの酒場へ向かうことにした。


 《黒猫亭》——それが、カイの情報源のひとつだった。


 酒場の扉を開けると、煙草の煙と酒の香りが漂う。


 客の大半は盗賊や流れ者。カウンターの奥には、黒髪の女主人がグラスを磨いていた。


「久しぶりだな、レイナ」


 カイが軽く手を挙げると、女主人レイナは目を細めた。


「……帝国の指名手配を受けてるあんたが、よくもまあノコノコ戻ってきたもんだね」


「そこを何とか頼むよ。ちょっと情報が欲しくてね」


「ふん……タダで、とは言わないでしょうね?」


 カイは懐から小袋を取り出し、カウンターに置く。中には貴金属が入っていた。


 レイナはそれを見て微笑む。


「悪くないわね……で、何が知りたいの?」


 カイは周囲を見回し、低い声で言った。


「——宰相ガルヴァン・ローゼンの動向を知りたい」


 その瞬間、酒場の空気が微かに変わった。


「……随分と危ないことを聞くじゃない」レイナが声を潜める。


「俺たちは、帝都で何か大きなことを起こそうとしてるんだ」とカイ。


 レイナは少し考え、やがて口を開いた。


「……最近、宰相は帝国城の地下にこもりがちだという噂があるわ」


「地下?」


「ええ。普通なら貴族との会合や軍議で忙しいはずなのに、ここしばらくは表にほとんど出てこない。それどころか、地下で何か儀式めいたことをしているとも……」


 セリスは思わず息をのんだ。


 (帝国城の地下……そこに、何かがある?)


 ミアも考え込む。


「魔法に関する何かかもしれないわね……まさか、『聖なる泉』で感じた魔力の波動と関係が?」


「可能性はある」とライルが頷く。「だが、帝国城への潜入は簡単じゃない」


「ふふ……それについては、手があるわよ」


 レイナは意味深に微笑み、1枚の紙を差し出した。


「——明日、帝国城で貴族の夜会が開かれるわ。そこに潜り込めば、中へ入る足がかりができるかもね」


 セリスは決意を込めた眼差しで紙を見つめた。


「……行くしかないわね」



 ***


 夜の帳が帝都ヴァルガルドを包み、貴族たちの屋敷には煌々とした灯りがともっていた。帝国城では、豪華な夜会が開かれようとしている。


 セリスたちの目標は、この夜会に潜り込み、帝国城の地下へ続く道を探ること。


「……まさか、こんな方法で城に入ることになるとはな」ライルが渋い顔をする。


「方法は選んでられないわよ」とミアが微笑む。「変装して貴族に紛れるのが、一番確実なのよ」


 カイが用意したのは、豪華なドレスと礼服。セリスは王家の血を引く少女ではなく、名もなき貴族令嬢として潜入する。


 カイとミアが貴族の付き人を装い、ライルとレオンは護衛騎士として同行。


「こういうのは得意なんだろ?」ライルがカイに目を向ける。


「当然さ。貴族の真似事は何度もやったことがある」カイは得意げに微笑む。「問題は、お嬢様がうまく振る舞えるかどうかだな?」


「……余計なお世話よ」セリスは軽く睨みつつも、内心少し緊張していた。



 *** 帝国城・貴族の夜会


 帝国城の大広間は、豪奢な装飾ときらびやかな衣装に身を包んだ貴族たちで溢れていた。


 セリスたちは、貴族の一団に紛れて城内へと足を踏み入れる。


「おや、見慣れないお嬢さんだね」


 突然、低く響く声がした。


 セリスが振り向くと、そこには黒衣の男が立っていた。


 セリスは息をのんだ。


 ルシアン・ヴォルフ——帝国の諜報機関『影の手』の幹部であり、数々の要人暗殺や謀略に関与してきたと噂される男。


 彼は漆黒の礼服をまとい、口元に薄い笑みを浮かべていた。灰色の瞳が鋭く光り、こちらを値踏みするように見つめている。


「おや、そんなに警戒しないでくれ。私はただ、新しい顔に興味を持っただけだ」


「……興味、ですか?」セリスは落ち着いた声を作りながら応じる。


 ルシアンはゆっくりと手を伸ばし、彼女の金の髪に触れようとした——


「お手を触れないでいただけますか?」


 セリスは一歩後ろへ下がり、冷ややかに言った。


 ルシアンの笑みが深まる。


「おや、これは失礼。君はどちらのご令嬢かな?」


 カイがすかさず割って入った。


「我々の主は遠方の貴族でして、今宵の宴には初めて招かれたのです。あまり表には出ぬ家柄でしてね」


「ほう、それはそれは……」ルシアンは目を細める。「君のような娘が目立たぬ家にいるのは、少し惜しい気もするが……」


 ルシアンの視線が、セリスの瞳をじっと捉えた。


 ——見抜かれるか?


 わずかに手が汗ばむ。


 だが、ルシアンはそれ以上は詮索せず、柔らかな笑みを浮かべた。


「また後ほど、お話しできることを願っているよ」


 そう言って、彼は群衆の中へと消えた。


 ミアが小声で言う。


「……危なかったわね」


「ええ……でも、まだ警戒されてる」セリスは息を整える。


 ルシアンはただの貴族ではない。彼は帝国宰相ガルヴァン・ローゼンの側近でもあり、帝国の影を司る者。


 (もし正体がばれたら、ここでの戦いは避けられない——)


 セリスは決意を新たにし、仲間たちと共に城の奥へと進んだ。


 夜会の喧騒から抜け出し、城の奥へと進むと、そこは人気のない回廊だった。


「ここに地下へ続く道があるはずだ」ライルが地図を確認する。


 その時、闇の中から、音もなく黒い影が現れた。


「……待っていたよ、王の末裔」


 ルシアン・ヴォルフが再び立ちふさがる。


「ここで終わりにしようか」


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