@51 聖なる泉の神殿
@ 聖なる泉の神殿
霧の谷を抜け、一行はついに目的地へと辿り着いた。
聖なる泉の神殿——かつてエルセリア王家が守護していた場所。だが今、その神殿は帝国の手に落ちている。
「……ここが、聖なる泉」
セリスは目の前に広がる光景に息をのんだ。
神殿の奥、蒼く輝く泉が神秘的な光を放っている。水面はまるで鏡のように滑らかで、触れれば過去の記憶が蘇ると言われている場所——まさに、彼女が『記憶の継承』を完成させるために必要な場所だった。
しかし、その泉の前に立つ黒い影があった。
「……来たか」
重厚な鎧に身を包み、巨大な剣を携えた男——ヴァルドリッヒ・カインツ。
帝国最強の将軍が、彼女たちの前に立ちはだかる。
「王家の継承者よ」ヴァルドリッヒが低く告げた。「お前がここへ来ることは、最初からわかっていた」
セリスは剣を握りしめ、一歩前へ出た。
「なら、話は早いわね」
静かな声。しかし、その瞳には決意が宿っていた。
「私は、王の記憶を継ぐ。そして、この帝国の支配を終わらせる」
ヴァルドリッヒの表情に、わずかに影が差した。
「そうか……ならば、力を示せ」
彼は剣を構える。
「お前が王の剣を継ぐにふさわしい者かどうか……私が見極める!」
刃と刃がぶつかり合う音が、神殿に響き渡る。
「くっ……!」
ヴァルドリッヒの一撃は重い。セリスはその剛剣を受け流しながら、隙を狙う。
「これが……帝国最強の剣士……!」
ライルやレオンも援護しようとするが、ヴァルドリッヒの気迫に圧倒され、迂闊に近づけない。
「セリス、やれるか……?」カイが歯を食いしばる。
「……やるしかない!」
セリスは深く息を吸い、王の剣を掲げた。
——王家の記憶が、彼女の中で呼応する。
(今なら……!)
彼女は泉に向かって跳躍し、剣を水面へと突き立てた。
「《記憶の継承——解放》!」
光があふれ出す。
その瞬間、過去の王たちの声が彼女の意識を包み込んだ——。
「我らの記憶を受け継ぎし者よ——」
「真の王の力を、お前に託す——!」
セリスの体から、金色の光が解き放たれた。
銀髪が黄金に輝き、瞳が深き青から澄んだ碧へと変わる。
——エルセリア王家、覚醒の証。
「……これが……!」
ヴァルドリッヒの瞳に、一瞬の驚きがよぎった。
「ならば——全力でこい!」
セリスは剣を構え、王の力を持って彼に挑む。
金色の光が聖なる泉の神殿を満たす。
セリスの身体は、王の記憶を完全に継承したことで新たな力に目覚めていた。
「——行くわよ!」
彼女が踏み込む。
ヴァルドリッヒの剛剣が振り下ろされる。
凄まじい衝撃波が周囲の石柱を砕くが——
「遅い!」
セリスは、刹那の瞬間に身を捻り、ヴァルドリッヒの攻撃をかわす。
そして——王の剣を逆手に握り、一閃。
刃が、黄金の軌跡を描いた。
「……!」
ヴァルドリッヒは間一髪で防御するが、その腕に深い傷を負う。
「……なるほど」
彼は息を整えながら、口元を歪めた。
「それが、王の剣の力か」
セリスの手にある剣は、先ほどまでのものとは異なっていた。
「王の剣——解放形態」
かつて王家の継承者のみが扱えた、真の姿。
刃の表面には王家の紋章が浮かび上がり、聖なる光を放っている。
「……まだ終わりじゃないわ」
セリスは剣を構え直す。
「王家の名のもとに、あなたを——倒す!」
ヴァルドリッヒは、その言葉を聞いて一瞬、目を閉じた。
「……そうか」
静かに呟き——再び剣を振り上げた。
「ならば、見せてもらおう——お前の覚悟を!」
激突。
衝撃が神殿全体に響き渡る。
セリスは王の剣の力を駆使し、ヴァルドリッヒの猛攻を凌ぎながら反撃する。
その戦いは、まるで歴史に刻まれた王と将軍の一騎討ちのようだった。
ヴァルドリッヒが最後の一撃を放とうとした瞬間——
「……終わりよ!」
セリスの剣が、彼の剛剣を打ち砕いた。
砕け散る刃。
「……見事だ」
彼は苦笑しながら、敗北を認めた。
セリスは剣を下ろし、静かに言った。
「あなたは……まだ戦うの?」
ヴァルドリッヒは少しだけ沈黙した後、ゆっくりと立ち上がる。
「……いや」
彼は剣を捨て、後ろを振り返った。
「お前が王の力を取り戻した以上、私にここを守る理由はない」
そう言うと、ヴァルドリッヒはゆっくりと神殿の出口へと向かっていく。
セリスは彼の背中を見つめながら——確信した。
(私は……王家の継承者として、進む)
そして、彼女は泉へと歩み寄る。
「……今こそ」
泉に手をかざし、記憶の継承を完成させる。
光が溢れ——彼女の意識が、過去の王たちの記憶へと沈んでいった——。




