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@@@《滅びの王国と記憶の継承者》  作者: 米糠


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34/57

@34   サーシャの話

 


  @ サーシャの話


「記憶を封じる魔法にはいくつかの種類があるわ。けれど、あなたが探しているのは……」


 サーシャはページをめくり、古い記述を指さした。


 『王家の記憶継承――その封印と解放について』


 セリスは思わず息をのむ。


「これ……」


「これはエルセリア王国の王族に伝わる特殊な封印魔法に関する記録よ。あなたが王家の血を引いているのなら、きっと関係があるわね」


 サーシャは本の内容を説明しながら、続けた。


「この封印は、強力な魔法陣によって記憶を分割し、特定の条件を満たしたときにのみ解放されるという仕組みになっているみたいね。条件のひとつは、王家ゆかりの場所や遺物に触れること。もうひとつは……特定の魔力の解放」


「特定の魔力?」ミアが尋ねる。


「ええ。エルセリア王家の血に宿る、記憶を紡ぐ力。その力をより強く引き出せば、封印を解く手がかりになるはずよ」


 サーシャは一息ついて、セリスをじっと見つめた。


「ただし……この封印には“意図的に施されたもの”もあるみたいね。誰かが、あなたの記憶の一部を意図的に封じた可能性があるわ」


 セリスははっと息をのむ。


「……誰かが、私の記憶を封じた?」


 サーシャは慎重に言葉を選びながら続けた。


「普通の封印なら、王家の力だけで解けるはず。でも、あなたの記憶はそう簡単に戻らない。つまり、何者かが意図的に“より強固な封印”を施した可能性が高い」


 セリスの手が無意識に震える。


「そんな……それは、誰が?」


「それを知るためには、もっと多くの記憶を取り戻さないとね」サーシャは静かに言った。「あなたが進むべき道は、おそらくエルセリア王国の遺産の中にあるわ」


 ミアは考え込んだ様子で呟いた。


「つまり……次に目指すべきは、エルセリア王国の遺跡、あるいは王家に関連する何か……」


 カイが腕を組み、ぽつりと口を開いた。


「そういや、交易都市の情報屋から聞いたんだが……この近くの砂漠地帯にエルセリア王家の遺跡があるって話があったな」


 ライルが目を細める。


「……それは偶然か?」


 セリスの心の中で、何かが引っかかった。


 (この遺跡に、“意図的に封じられた記憶”の答えがあるのかもしれない……)


 砂漠の遺跡にエルセリア王家の遺産を探しに行くとして、その前に、遺跡の情報を集めないとね……。



 セリスたちは魔術師ギルドを後にし、交易都市の賑やかな通りへと足を踏み出した。ここはオルディア連邦の中でも特に活気のある場所であり、各地から集まった商人や旅人が行き交い、珍しい品々が並ぶ市場が広がっている。


「さて……遺跡の情報を集めるには、どこを当たるのがいいかしら?」ミアが周囲を見回しながら言った。


 カイがニヤリと笑い、親指で自分を指さす。


「こういうのは俺の専門だ。裏市場の情報屋に心当たりがある。ちょっと怪しい連中だが、金さえ払えば確かな情報をくれるぜ」


 ライルが腕を組み、慎重に言葉を挟んだ。


「……本当に信用できるのか?」


「少なくとも、帝国の連中よりはマシさ」カイは肩をすくめる。「それに、遺跡に関する情報を持ってるのは、公式な商人よりも遺跡荒らしや密輸業者のほうが多いだろうぜ」


 セリスは小さく頷いた。


「……じゃあ、カイのツテを頼ってみましょう。慎重に動くわよ」


 交易都市の表通りを抜け、カイに案内されたのは、裏市場と呼ばれる場所だった。表向きには存在しない市場であり、建物の間を縫うように狭い路地が続き、隠された店や露店が並んでいる。


 売られているものは貴重な魔道具、禁制品、異国の珍しい品々など、普通の市場ではお目にかかれないものばかりだ。


「よし、着いたぜ。お前らは余計なことを喋るなよ、特にお嬢ちゃん」カイがセリスに軽く目配せをする。「この辺の連中は、よそ者を警戒するからな」


「……わかってるわ」


 カイは慣れた足取りで狭い路地を進み、ひとつの小さな店に入った。店内は薄暗く、奥のカウンターには初老の男が座っている。


「おい、バルザス。元気にしてたか?」


 カイが気軽に話しかけると、男――バルザスは目を細めてカイを見た。


「ほう……しばらく見ねえと思ったら、今度は仲間を連れてきたのか。何の用だ?」


「ちょっと情報が欲しくてな。エルセリア王家の遺跡について、何か知ってるか?」


 バルザスはしばらくカイをじっと見つめ、それから低く笑った。


「ほう……お前がそんなものに興味を持つとはな。だが、ただで教えるわけにはいかねえぞ」


 カイは小さく舌打ちしながらも、事前に用意していた金貨の小袋をカウンターに置く。


「これでどうだ?」


 バルザスは袋の重さを確かめると、満足げに頷いた。


「いいだろう。……お前ら、**“灼熱の迷宮”**ってのを聞いたことはあるか?」


 セリスたちは顔を見合わせる。


「……いいえ」


 バルザスはニヤリと笑い、指を一本立てた。


「オルディア連邦の砂漠地帯にある遺跡のひとつだ。だが、ただの遺跡じゃねえ。内部が迷宮のようになっていて、炎の魔法が至るところに仕掛けられているって話だ」


「炎の魔法……?」ミアが小さく呟く。


「そうだ。帝国の連中も何度か調査に入ったらしいが、ことごとく撤退してるらしいぜ。中に何があるのかは知らねえが、帝国がわざわざ手を出してるってことは、よほどの秘宝が眠ってるんだろうよ」


「それが、エルセリア王家の遺産……?」セリスが呟く。


「さあな。ただ、お前らが本気でそこに行くつもりなら、気をつけろよ。迷宮に足を踏み入れたら、戻ってこられないって噂もあるからな」


 バルザスはそう言いながら、もうひとつ忠告をした。


「あともうひとつ、変な噂を聞いた。最近、帝国の“特別部隊”が動いてるらしい」


「特別部隊……?」ライルが険しい表情になる。


「帝国軍の精鋭どもだよ。普通の兵士とは比べ物にならねえ。何を狙ってるのかは知らねえが、もしお前らの目的とかち合うなら……かなり厄介なことになるぜ」


 緊張が走る。


 セリスは深く息を吸い、仲間たちを見渡した。


「……どうやら、迷っている時間はなさそうね」


 ライルが小さく頷く。


「帝国が本格的に動いてるなら、先手を打たなければならないな」


「さて、お姫さん。決めるのはあんた次第だ」カイがニヤリと笑う。「“灼熱の迷宮”に突っ込むか、それとも別の策を考えるか?」




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