@32 地下水路の出口
@ 地下水路の出口
暗い水路を進み続けた先に、かすかに外の光が差し込んでいる場所があった。
セリスは慎重に足を進め、壁際に手を当てる。苔が生い茂り、湿気が強いが、確かにそこには人工的な扉が存在していた。
「……ここが出口?」
カイが周囲を見回しながら言う。
「いや……これはただの扉じゃない。封印されている」
ミアがじっと扉を見つめ、杖をかざした。
扉には微細な魔力の流れがあり、それがまるで鍵のように扉を固定している。
「どうにかできるか?」
ライルが問うと、ミアは小さく息をついて頷いた。
「大丈夫。でも、少し時間が必要よ。解除には慎重に魔力を扱わないと……」
「なら、その間、俺たちが警戒にあたる」
セリスは剣を握り直し、後方を見据える。
帝国の追手がいつ現れてもおかしくない。
「ふぅ……よし、始めるわ」
ミアは杖を扉に向け、静かに呪文を唱え始めた。
——「セント・ディスパージョン」
淡い光が杖の先から扉へと流れ込み、封印の魔力を少しずつ解きほぐしていく。
すると、扉の表面に浮かび上がる古い文字。
「……これは、王家の紋章?」
セリスは思わず声を上げた。
確かに、その紋章はエルセリア王家のものだった。
「この扉……もしかして、王族のために作られたもの?」
「だとすれば、セリスが触れれば開く可能性があるな」
ライルの言葉に、セリスは静かに手を伸ばした。
指先が扉に触れると、途端に光が揺らめき——
カチリ。
封印が完全に解かれた音が響く。
「やった! 開いたわ!」
ミアが喜びの声を上げると、扉がゆっくりと横にスライドし、外の空気が流れ込んできた。
「行こう。ここを抜ければ、もう帝国軍も追ってこれないはずだ」
一行は素早く出口へと向かった。
そして、地下水路を抜けた先には——広大な森が広がっていた。
*** ゼルヴァニアの森
地下水路の出口を抜けると、目の前には広大な森が広がっていた。
木々が生い茂り、昼間であるにもかかわらず森の奥は薄暗い。鳥のさえずりや小川のせせらぎが聞こえ、ひんやりとした空気が漂っている。
「ここは……?」
セリスが周囲を見渡しながら尋ねると、カイが地面を調べながら答えた。
「ゼルヴァニア王国の国境付近だろうな。帝国の影響が少ない地域だが……油断はできねぇ」
「それにしても……驚いたな」
ライルが振り返る。
「まさか、王家の紋章が封印を解除する鍵になっていたとは。あの水路は、本来王族が逃げるためのものだったのかもしれないな」
「ええ。でも、今はそんなことを考えている余裕はないわ」
ミアが疲れた表情で肩をすくめる。
「とりあえず、安全な場所を探して休みましょう。追手の気配は感じないけど、ここで油断していたらすぐに見つかるわ」
「そうだな。少し森の奥に入れば、隠れられそうな場所があるかもしれない」
ライルが前方を見据えながら言う。
セリスは改めて剣を握り直し、小さく息を吐いた。
「……行こう。この戦いは、まだ終わっていないから」
仲間たちはそれぞれ頷き、慎重に森の奥へと進んでいく。
森の奥へと足を進めながら、セリスたちは慎重に周囲を警戒していた。
「追手の気配は?」
セリスの問いに、レオンが鼻をひくつかせる。獣人の鋭敏な嗅覚は、周囲の異変を敏感に察知する。
「まだ大丈夫だが、油断はするな。風の流れが妙に乱れている……誰かがこちらを探しているかもしれん」
「……帝国軍ね」
ミアが低く呟く。
「おそらく、水路の出口を知られていたわけじゃないけど、奴らもこの森を封鎖するつもりなのかも。戦闘は避けられないかもしれないわね」
カイが軽く舌打ちする。
「チッ、まったくしつこい連中だな。さて、どうする? 戦うか、それとも森を利用して巻くか……」
ライルが剣の柄に手をかけたまま、セリスに視線を向けた。
「セリス、決めてくれ。奴らと正面から戦うか、それとも別の方法で切り抜けるか」
セリスは僅かに目を閉じ、考える。
そして、セリスは素早く決断した。
「ここで戦うのは得策じゃない。レオン、あなたの知識を借りたい。この森の地形を利用して、奴らを撒く方法はある?」
レオンは一瞬考え、すぐに頷く。
「この先に、昔から獣人たちが使っていた狩猟道がある。普通の人間にはわかりにくい道だが、俺についてこられるか?」
「やるしかないわね」ミアが頷く。
「俺たちを信用しろよ。こういうのは得意だ」カイがニヤリと笑う。
「では、急ごう」ライルが促すと、全員がレオンの後に続き、森の奥へと足を踏み入れた。
レオンは迷いなく森の中を駆けた。セリスたちは彼の背を追いながら、なるべく音を立てないように動く。
「この道は、獣人の間でしか知られていないの?」セリスが小声で尋ねる。
「そうだ。昔、ゼルヴァニアの獣人たちはこの森を拠点にしていた。帝国の侵攻後、多くの者が散り散りになったが、この道はまだ生きている」
「だったら、帝国の連中は知らないはずね」ミアが安堵の息をつく。
しかし、背後から聞こえてくる足音が、それが楽観的な考えであることを示していた。
「クソッ、やつらしつこいな!」カイが舌打ちする。
「レオン、まだ撒けるか?」ライルが低く問う。
レオンは一瞬立ち止まり、風の流れを読むように耳を澄ませた。
「……この先に谷がある。そこには獣人たちが作った隠れ道があるが、人間には危険な道だ。そこを越えれば、奴らも追ってこられない」
「やるしかないわね」セリスが決意を固めた。
「ついてこい。足元に気をつけろよ!」
レオンを先頭に、一行はさらに深く森の奥へと駆けていった。




