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@@@《滅びの王国と記憶の継承者》  作者: 米糠


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@31  交易都市の激闘

 

 @ 交易都市の激闘


 狭い路地裏に鋭い剣戟の音が響き渡る。


 ライルは先頭に立ち、帝国兵の剣を弾き返した。その反動で生まれた隙を突き、セリスが踏み込む。


「はっ!」


 素早い剣の一閃が帝国兵の腕をかすめ、相手は苦悶の声を上げた。しかし、すぐに別の兵士が彼女の側面に回り込み、攻撃を仕掛けてくる。


「甘いな」


 その一撃は、横から割り込んだカイの短剣によって阻まれた。彼はにやりと笑い、相手の剣を巧みに絡め取ると、逆手に取った短剣で兵士の足元を払った。


「っと、倒れてもらおうか!」


 兵士は無様に転倒し、ミアの魔法がその体を縛りつける。


「動かないでよ。じっとしてれば痛い目に遭わずに済むんだから」


 ミアの指先が紫色に輝き、さらにもう一人の兵士の足元に幻影を走らせる。その兵士は錯覚にとらわれ、一瞬の隙を見せた。そこへライルが剣を叩きつけ、完全に戦闘不能にする。


「……なるほど、なかなかやるじゃないか」


 フードの男——エーリヒは、興味深そうに目を細めた。


「だが、そろそろ潮時じゃないかな?」


 そう言って彼が懐から小さな水晶を取り出す。すると、空間がわずかに歪み、帝国兵の増援が姿を現した。


「転移魔法……!」


 セリスは歯を食いしばる。先ほど倒した兵士たちの穴を埋めるように、新たな兵士たちが周囲を取り囲んでいた。


「さあ、どうする?  そろそろ逃げ道はなくなってきたぞ?」


 エーリヒの声には余裕がある。しかし、セリスたちの目に諦めの色はなかった。


「カイ、隠し通路は?」


 ライルが短く問う。


「へへっ、ちゃんと確保してるぜ」


 カイが不敵に笑い、足元の石畳を軽く蹴る。その瞬間、カタリと鈍い音を立てて、地面に小さな穴が開いた。


「ここから地下水路に抜けられる。ただし——」


「ごちゃごちゃ言ってる暇はない! 早く行くわよ!」


 ミアが言葉を遮りながら、先に飛び込んだ。


「チッ、仕方ねえな!」


 カイも続き、ライルとセリスもその後を追う。


「逃がすな!」


 エーリヒの命令により、兵士たちが追撃しようとする。しかし、ミアが最後に放った幻影魔法が周囲を混乱させ、兵士たちは一瞬動きを鈍らせた。


「……チッ、やるな」


 エーリヒは舌打ちし、手元の水晶を強く握った。


「まあいい。どうせ奴らの行き先はわかっている……次は、確実に仕留めるさ」


 冷たい笑みを浮かべながら、彼は闇に消えた。



 ***


 冷たい水の匂いが鼻をつく。地下水路は思った以上に広く、古い石造りの壁が不気味に反響する。


「……とりあえず、振り切れたか」


 カイが後ろを振り返りながら、ほっと息をついた。彼らが飛び込んできた入口はすでに閉ざされており、上からの追手はすぐには来られないはずだった。


「でも、このままここにいるわけにもいかないよね」


 ミアが小声で言いながら、灯した魔法の光を少し前にかざす。淡い光が、足元の水を照らし、奥へと続く道を浮かび上がらせた。


「地下水路がどこにつながっているのか分からないが……帝国兵が降りてくる前に移動しよう」


 ライルが短く指示を出し、一行は慎重に足を進めた。


 水路の両脇には狭い通路があり、壁にはかつて都市の排水管理をしていた名残の古い印が刻まれている。


「カイ、こっちのルートで合ってる?」


 セリスが問うと、カイは少し考え込んでから答えた。


「こいつは……古い都市の構造と合ってるな。もし間違ってなけりゃ、この先でいくつかの出口に分かれてるはずだ」


「問題は、帝国がどれだけこの場所を把握しているか、ね……」


 ミアがため息混じりに呟く。彼女の手元の魔法光が揺れ、微かに壁の影を伸ばした。


 ——そのとき。


「……待て」


 ライルが鋭く囁いた。その直後、セリスも感じた。


 足元の水が、かすかに波立っている。


「何か、いる……!」


 ミアが魔法を構えると同時に、水面が大きく弾けた。


「——ッ!?」


 水の中から飛び出してきたのは、巨大な爪を持つ異形の魔獣だった。長い体躯はまるで蛇のようにうねり、水路の暗がりへと溶け込んでいく。


「こいつ……この水路に棲みついてるのか!」


 カイが素早く短剣を構えながら後退する。ライルが前に出て剣を抜き、セリスもその隣に並んだ。


「ここで立ち止まってる余裕はない。早く仕留めるぞ!」


 魔獣の咆哮が地下水路に響き渡る。

 水面が激しく波立ち、その中から黒い影が跳ね上がった。


「来るぞ!」


 ライルが鋭く叫び、剣を構える。

 魔獣は蛇のような長い胴をくねらせながら、鋭い爪を振り下ろしてきた。


 ガキィン!


 ライルの大剣が爪を受け止め、火花が散る。

 しかし、魔獣はすぐさま胴を巻きつけるように動き、セリスたちを取り囲もうとした。


「まずい、囲まれる!」


 カイが素早く後ろへ跳びながら、短剣を投げる。

 刃は魔獣の鱗をかすめたが、大きなダメージにはならない。


「なら——魔法で!」


 ミアが杖を振り、青白い光が魔獣を包む。

「フリーズ・バインド!」


 魔獣の体の一部が凍りつき、水路の壁に張り付いた。


「今のうちに仕留める!」


 セリスは剣を強く握り、凍った魔獣に向かって一気に踏み込んだ。

 流れるような動きで剣を振るい、その刃が魔獣の首筋に食い込む。


 ザシュッ!


 魔獣は苦しげにのたうち回り、水飛沫をまき散らす。


「……まだ終わってない!」


 ライルが駆け寄り、大剣を両手で振り下ろした。

 重い一撃が魔獣の頭を叩き割り、その場に沈める。


 やがて、水面は静けさを取り戻した。


「……終わった?」


 カイが慎重に確認しながら、水面を覗き込む。

 魔獣はもう動かない。


「ふぅ……なんとか倒せたわね」


 ミアが肩で息をしながら、魔法の光を強める。


「……急ごう。いつ帝国の連中が追ってくるか分からない」


 ライルの言葉に皆がうなずき、一行は再び水路の奥へと歩き出した。


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