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@@@《滅びの王国と記憶の継承者》  作者: 米糠


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20/57

@20  王の書庫の扉



  ライルの剣が振り下ろされ、一人の帝国兵が衝撃で吹き飛ぶ。ミアは素早く魔法を詠唱し、霧のような幻影を発生させて視界を攪乱する。カイはその隙を突いて、敵の背後に回り込んで鋭い一撃を放った。


 だが、指揮官は動じず、鋭い視線をセリスに向けたまま、ゆっくりと剣を抜く。


「王家の末裔……お前を生かしておくわけにはいかない」


 冷たい声とともに、一瞬で間合いを詰めてくる。その剣速は尋常ではなかった。


「――!」


 セリスはとっさに身を翻すが、切っ先がかすめ、頬に一筋の傷が走る。


「セリス!」


 ライルが割って入ろうとするが、別の兵士に足止めされる。


 指揮官が鋭く剣を振るい、次の一撃を放とうとしたその時――


「……させない!」


 セリスの中で何かが弾けた。


 胸の奥から湧き上がるのは、記憶と共に呼び覚まされた力。王族に受け継がれる魔法の片鱗。


 彼女は無意識のうちに手を掲げ、魔力を解き放った。


「――!」


 黄金の光が弾け、指揮官の動きが一瞬止まる。


 その隙を逃さず、ライルが全力で剣を振るい、指揮官を後退させた。


「……今のは?」


 カイが驚いたように呟く。


 セリス自身も理解できていなかった。ただ、確かなことが一つある。


 ――私は、王家の使命を果たす。何があろうとも。


 強く握りしめた書物の感触が、その決意を確かなものにしていた。


「下がれ、全員!」


 指揮官が鋭く叫ぶと、帝国兵たちは即座に後退した。


 ライルは剣を構えたまま、その動きを警戒する。カイも素早く距離を取り、ミアは新たな魔法の詠唱を始めていた。


 しかし、指揮官はすぐに次の攻撃を仕掛けようとはせず、セリスをじっと見つめていた。


「……やはり、お前は王の血を引く者か」


 低く抑えた声だったが、その奥には明確な敵意と警戒が滲んでいた。


 セリスは胸の奥にまだ残る魔力の余韻を感じながら、書物を抱え直す。


「だったら何? あなたたちはどうせ、私を殺そうとしているんでしょう?」


 指揮官は微かに目を細め、わずかに息を吐いた。


「いや……今すぐお前を討つつもりはない」


「……何?」


 意外な言葉に、セリスは一瞬、警戒しつつも困惑する。


「その書物――王の書庫に眠っていた記録。それを持っている限り、お前はいずれ帝国にとって最も危険な存在になる」


 彼は剣を収め、ゆっくりと後退しながら続けた。


「だが、今はまだ……その時ではない」


 セリスは眉をひそめた。敵意を剥き出しにしながらも、なぜかすぐには襲ってこない。その意図が読めなかった。


「逃がしてくれるとでも?」ライルが低い声で問いかける。


「勘違いするな。我々はすぐにでも追う。……だが、今はこの場で決着をつけるのが最善とは限らない」


 それだけ言い残し、指揮官は手を上げると、帝国兵たちは一斉に撤退を始めた。


 セリスたちは警戒しつつも、深追いはせず、その場に留まる。


「……どういうこと?」ミアが訝しげに呟く。


「奴らがあえて退いた理由は分からないが……長居は無用だ。今のうちにここを離れるぞ」ライルが言う。


「そうね。どうせあいつらはまた追ってくる。なら、今はこっちが先に動くべきだわ」


 カイが軽く肩をすくめながら言うと、セリスは書物を抱え直し、強く頷いた。


「……行きましょう。まだ、やるべきことがある」


 彼女の瞳には、確かな決意が宿っていた。


 ライルは周囲を警戒しながら、セリスの隣に歩み寄った。


「……お前の記憶が戻ったのはいいことだが、今はそれよりも状況を確認しないといけないな」


 彼の視線は、王の書庫の扉へと向けられていた。戦いの余韻が残る静寂の中で、セリスは胸の奥に残る父王の言葉を反芻する。王家の使命——それを果たすために、次に何をすべきか。


「まずは、ここをどう脱するか考えないとね」

 カイが苦笑しながら壁に寄りかかる。


「確かに。帝国の追っ手が完全に引いたとは思えないわ」

 ミアも慎重に辺りを見渡し、魔力の感知を試みる。


 セリスは深く息を吸い、仲間たちの顔を見渡した。


 カイが壁際を慎重に調べながら、指先で表面をなぞる。


「……ここだな」


 彼が立ち止まり、壁の一部を軽く叩くと、鈍い音が響いた。ほかの部分とは明らかに異なる音色——その下に何かが隠されている証拠だった。


「やっぱりな。こういう場所には、たいてい逃げ道が用意されてるもんだ」

 カイは口元に笑みを浮かべ、素早く道具を取り出した。


「隠し扉か?」

 ライルが剣を握り直しながら問いかける。


「ああ、間違いない。……ただし、何か仕掛けが施されてるな。普通に開くってわけじゃなさそうだ」


 カイが慎重に細工を施しながら言うと、ミアが一歩前に出た。


「封印魔法ね。王族の記録が残されている場所なら、それくらいあって当然……。任せて」


 彼女は杖を構え、静かに呪文を詠唱し始める。薄紫の光が杖の先に灯り、やがて壁の一部に広がっていった。すると、淡く光る紋章が浮かび上がる。


「……結構、複雑な封印ね。でも、時間をかければ解けるわ」


「急げよ。帝国の連中がまた戻ってくるかもしれない」

 ライルが警戒を強めながら、通路の入り口側に立つ。


 セリスは封印の紋章を見つめながら、心の中で父王の声を思い出していた。王の使命——それを果たすために、この場から確実に脱出しなければならない。


 ミアの魔法が完全に紋章を覆うと、次第に光が揺らぎ、封印が解け始めた。


「……開くわ!」


 ミアがそう告げた瞬間、壁が静かにずれ動き、暗い通路が姿を現した。


「よし、行くぞ!」


 カイが先頭に立ち、隠し通路の奥へと進む。セリスたちもそれに続いた。


 背後で封印の光が消え、王の書庫の扉が静寂に包まれる。彼らは新たな決意とともに、暗闇の中へと足を踏み入れた——。


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