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@@@《滅びの王国と記憶の継承者》  作者: 米糠


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@17 《黒鷹の酒場》への訪問


 @《黒鷹の酒場》への訪問


 オルディアの活気あふれる通りを抜け、細い裏路地へと足を踏み入れると、空気が一変した。


 賑やかな市場とは違い、ここは静かで、人の姿もまばらだ。建物の壁には古びた掲示板があり、手配書や闇取引の情報が雑然と貼られている。


「……ここが、オルディアの裏の顔ってわけね」セリスは周囲を警戒しながら呟いた。


「そう。商人や旅人が表のオルディアを動かすなら、裏を動かしているのは情報屋と盗賊たちよ」ミアが低い声で応じる。「カイも、その一人ってわけ」


「信用できるのか?」ライルが慎重な表情で問うた。


 ミアは少し考えたあと、「……少なくとも、帝国の犬ではないわ」と答えた。


 やがて、路地の奥に一軒の酒場が見えてきた。


 《黒鷹の酒場》


 扉の上には黒い鷹を象った鉄製の看板が掲げられている。外観は一見すると普通の酒場だが、内部ではあらゆる裏取引が行われるという噂がある。


「……行こう」セリスが決意を込めて扉を押し開けた。



 酒場の中は薄暗く、空気には酒と煙草の香りが漂っていた。客のほとんどはフードを被った男たちや、武器を隠し持っている傭兵風の者ばかり。


 カウンターの奥で、酒場の主人と思われる壮年の男がグラスを拭いていた。


 ミアは辺りを見回し、小さく笑った。


「いたわ……カイ」


 セリスとライルが視線を向けると、酒場の隅の席で、一人の男がグラスを片手にくつろいでいた。


 黒髪に金の瞳、軽薄な笑みを浮かべながら、何かを賭け事でもしていたのか、向かいの男とコインをやり取りしている。


「やれやれ、今日は運がないな……さて、次はどうする?」


 彼はそう言って手札を伏せた瞬間、ふとこちらの視線に気づいたようだった。


「……おや、ミア?」


 カイが軽く眉を上げる。


「久しぶりね、カイ」


 ミアが軽く手を上げながら歩み寄る。セリスとライルもそれに続いた。


「まさか、こんなところで再会するとはね。さては、俺に何か頼みごとか?」


 カイは興味深げにセリスを一瞥すると、にやりと笑った。


「見慣れない顔だな……あんたが、例のエルセリアの姫君か?」


 その言葉に、セリスは驚きつつも、動揺を見せずに静かに彼を見返した。


「そうよ。あなたに聞きたいことがある」


「ふむ……まずは、合言葉は?」


「……沈まぬ月は夜を照らす」


 セリスがミアから聞いた合言葉を口にすると、カイは満足そうに微笑み、テーブルを軽く叩いた。


「よし、話を聞こうか。さあ、席に座りな」


 彼の前に腰を下ろし、セリスたちは《王の書庫》への手がかりと、帝国の動向について語り始めた——。


 カイはグラスを回しながら、セリスの話を黙って聞いていた。


「……なるほど。つまり、あんたは《王の書庫》の在り処を探してるわけだ」


 セリスが静かに頷くと、カイは軽く息を吐いた。


「確かに、その名前は聞いたことがある。だが、詳しい情報は少ないな。なにせエルセリア王国が滅びたのは十年前の話だ。今さら書庫の存在を気にする奴なんて、そういない」


「それでも、何か知っていることがあるなら教えて」


 セリスの真剣な眼差しに、カイは少し目を細めた。


「……帝国も、それを探してるんだろ?」


 ライルが鋭く問いかけると、カイは苦笑した。


「さすが、察しがいいな。その通りだ。最近、帝国の動きが妙に活発になってる。《王の書庫》とやらが理由かは分からんが、遺跡や古い文献を漁ってるのは間違いない」


「それって……帝国の連中が、もう《王の書庫》に近づいてるってこと?」ミアが表情を険しくする。


「可能性はあるな。俺が得た情報だと、帝国の調査隊が《霧の森》を越えた先にある《封印の大聖堂》を探っているらしい」


「《封印の大聖堂》……?」


 セリスが思わず問い返すと、ミアが小さく息をのんだ。


「確か、それはエルセリア王国時代に建てられた施設よ。王家に関わる重要な儀式が行われていた場所……もし帝国がそこを調査しているのなら、何か手がかりがあるのかも」


「だろうな。まあ、帝国が手を出してる以上、そう簡単には近づけないが」


 カイは肩をすくめ、グラスを置いた。


「情報はこんなもんだ。どうする?」


 セリスはしばし考えた後、強く頷いた。


「《封印の大聖堂》へ向かうわ」


「そう言うと思ったよ」カイはくすっと笑い、「じゃあ、案内料をもらおうか」と軽く手を差し出した。


 セリスが思わず眉をひそめると、カイは片目をつぶってみせる。


「冗談さ。俺も少し気になるし、ついでに帝国の動きも探りたい。手を貸してやるよ」


「……助かるわ」


 こうして、情報屋カイ・ヴァーグナーが新たな仲間として加わった。


 セリスたちは《封印の大聖堂》へ向かうべく、再び旅路へと歩みを進めるのだった——。



10―――



 ***《封印の大聖堂》


 灰色の峠を越えた先、視界が開けると同時に、セリスたちの前に広がったのは一面の荒野だった。乾いた大地に点在する黒ずんだ岩、ところどころに立ち枯れた木々が風に揺れている。その向こうには、まるで時間に取り残されたかのような巨大な建築物がそびえていた。


「……あれが《封印の大聖堂》?」


 セリスが呟く。


「間違いねぇな。思ったよりも荒れてるが」カイが目を細める。


「帝国が手をつける前に、私たちが先に入らないと」


 ライルが静かに頷いた。


 大聖堂はかつて、エルセリア王国の時代に築かれたもので、王家の記録によれば、そこには古代の封印術が施された部屋があるという。もし《王の書庫》に関する情報が残されているなら、そこに手がかりがあるはずだった。


「でも……帝国が既に調査しているなら、罠が仕掛けられているかも」ミアが慎重に言った。


「用心しながら進もう」ライルが剣の柄に手をかける。


 セリスたちは慎重に足を踏み出し、《封印の大聖堂》へと近づいていった——。





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