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7 『かわいい』というより『子供っぽい』




(う~む……、さすがに痛いなぁ……)


 目的地に到着したが場所は室内。空間が狭くなったことにより、道すがらにも感じたチクチクがより一層突き刺さる。


(そりゃあ片手両足のない車いす少女なんてその場にいたら、自然と目配りしちゃうよなぁ……。ただ連れ添ってるだけの俺でも息が詰まるのに、四条さんはどれだけ辛いんだろうか……)


 同情をするしか仕様のない俺は言葉が出ない。そんな俺を置き去りに、彼女は何故か先ほどとは打って変わった様子で震えていた。


「……ん? どうかしましたか?」


 様子が気になり顔をうかがう。すると彼女は指を突き刺し、目を輝かさせながら問いかけてきた。

 これが数分ぶりの会話である。


「あっ……! あの!! あれっ!! あのポスターのハンバーグ、注文してもよろしいですか!!!」


(…………)


 前言撤回。彼女は強い。


「もちろんいいですよ。ちょっと早いですけど、昼食にしますか」

「ほ、本当ですかっ!! へ、えへへ……」


(いや、強いっていうか、たぶん天然すぎて周りの目に気付いてないだけだな)

 彼女に対する同情は、どんなものであれ形だけになってしまうことをこの時察した。



 日曜だったが予約済みのためスムーズに入店ができた。慣れない小路を右に左にくぐり抜け、テーブル席へとたどり着く。


「これって、車いすのまま机に近づけたらいいんですかね?」

「あ……、えーと………………」


(……?)

 何やら考え込んでいる様子。数秒の末、彼女は少し照れくさそうな表情で吠える。


「席にっ!! 車いすは畳んで、席にっ! 着席してもよろしいですか!!」


「は、はぁ。別にいいですけど。えーと、自分はどうす……」


 バッッ!!


 っと、俺が台詞を言い切る前に片腕と片二の腕、そしてキラキラした瞳をこちらに向けてくる。この奇行により、自分がしなければならない行動を瞬時に理解した。


 引きつった表情で生唾を飲みこむが、彼女の期待のまなざしには自然と逆らえない。

「じ、じゃあ、失礼しまして……」


 ふにぃ


「ん……」


 脇腹に両手をかけ踏ん張るが、片手両足がない分想像よりも軽々と持ち上がった。


「…………」


 抱きかかえながら、体を密着させ見つめ合う。と、言葉にするとラブコメ的な印章を与えるのだが、現時点での俺の感情はあらぬ方向へと飛んでいっている。


(うん……、なんか……、何だろう、この感じ……)


 この身長、そしてこの抱きかかえ方には覚えがあった。正月、姪っ子の『ありすちゃん』の面倒がてら戯れたのは記憶に新しい。完全にたかいたかいだ。


(…………子供……)


 例の失礼な思考が再度頭をよぎるが隅に追いやり、そのままスッとソファ席に座らせる。


 一見ただあやしているようにしか見えなかったが、彼女が勝ち誇った表情をしていたので俺も満足しておくことにした。


「じゃあ、僕も失礼しまして……」


 車いすを畳み正面の席に着席しようとすると、目の前の彼女に笑顔で手招きをされた。後、自身の横の席をぽんぽんとたたく。


「…………あぁ、はいはい。わかりましたよ」


 苦笑とともに腰を上げ、彼女の隣へと座り直す。すると、座った途端にすすすとパーソナルスペースが埋められてしまった。


「……っ」


 赤面をしながら唇を尖らせるように突き出し、横目にこちらの顔色を伺ってきている。


「…………」


 ちらっ、ちらっ。


「…………………………」


 本日二度目の沈黙タイム。しかしこっちはなじみ深い。



 彼女の必死な様を見ているとなんだかこちらも胸騒ぎを覚えてしまうのだが、その胸騒ぎには27歳なりの嫌悪感があった。


(ま、まぁ、四条さんの子供っぽさは通話段階で気付いていたが……。今の彼女に向ける俺からの好意はこれが正しいのか……? これで大丈夫なのか……?)


 背丈も相まり、彼女の年不相応な言動にある種の少女趣味が芽生えていく不快感。それと同時になにか内側から満たされているかのような、確かな快感も得ていた。重症。


「よ、四条さんっ! なんか……、今日は気合い入ってますねっ! いつもよりテンション高い気がしますけど、そんなに楽しみでしたか!?」


 俺は内なる邪悪を滅せようと話題の方向転換を図るが、言論は聞いての通りあまりにも配慮に欠けていた。


「……っ!!?」


 彼女は飛び上がり、即座に謝罪する。


「も、申し訳ございません!! 馴れ馴れしく、不快にさせてしまったようでっ!!」


「……あっ! いやっ、そういうわけじゃなくて……! なんだか楽しそうで、デートに来たかい甲斐があったなと思いまして! す、すいません、言葉足らずで……」


「で、デート…………」


 互いにその場を取り繕おうとハチャメチャになってしまう。そこで、彼女は立て直さんとばかりにコホンと咳払いをして話を戻した。


「申し訳ございません。私が舞い上がっていたのは事実です」


 そう前置き、頬を赤らめながら続ける。


「最後に外出ができましたのも1年ほど前でしたので、久しぶりにと興が乗ってしまいました。それと、玉山さんとは今まで通話をさせていただいていたこともあり、初めてお会いしたとは思えずこんな醜態を……」


 毅然と言葉を乗せてはいるが、先ほどの狼狽を思い出すとお高くには到底見えない。


「あ、あはは……」


(……………………………………)


「…………え?」

「……あっ」


 恐らく失言であろうその一言に気が付いたのは同タイミングであった。双方相異なる理由でこわばる。


「今……、外出ができたのは1年前って……」


 彼女の反応を見るに、遠出をしたのが1年前という意味ではないのであろう。


(体のことがあれ、実家から1歩も外に出てないというのは……、さすがに……)


「…………」

「………………」


 人間、求めていたものが自分の想像とかけ離れていた場合、それに拒否反応を示すというのはよくある話だ。俺は顔をしかめてしまう。


「い……、いったん注文して粘りましょうか。話はそのあとでも……」


「…………玉山さんっ!!」


「は、はい!」


 彼女は少し涙を浮かべて言う。


「お話しさせてください。今まで……、何があったのかを……」


「……っ」


 この「何らかの事情」の詳細について、今となっては想像に足りる部分がある。今日はそれを問いただすための会談のはずなのだが、彼女の口から真実を聞きたくない。


 俺は彼女が話を始める直前になって、身震いが収まらなくなっていた。




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