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3 掌の上でLet's dancing!!!




 それから一月、俺たちは毎晩決まった時間にメッセージを交わすようになっていた。

 とはいえそんな毎日話す内容もないので、近況の報告をして解散するだけではあるのだが。


『以前おっしゃていた映画、拝見させていただきました。最後の詰めのシーンが手に汗握って、私、泣いてしまって。』


『それはお勧めしたかいがあります。ああいう作品でしたら、これもマイナーではありますが────』


(この丁寧言葉にもさすがに慣れてきたな)


 互いが自分の内側を曝け出し始めた頃合い。しかし俺は一つ、彼女との付き合いにある疑問を感じていた。

「…………」


 普通であれば早くても一週間、遅くても二週間程で実際に会うデートの約束を取り付けるのがベターだ。少々急ぎすぎているようにも感じるが、先延ばしにしすぎると会話に中だるみが生じ、自然消滅なんてこともあるらしい。


 俺は大して急いでいるわけでもないので気にはしていないが、彼女からはここ一か月、会おうという素振りが全くないのだ。


(会話内容を見るに嫌悪感があって会いたくないなんてことはないはずだ。嫌々やり取りをしているとも考えにくいし……)


 そもそも会いたくないのであればこんなアプリに手は出さないであろう。一応こういう誘いは男からするべきかとも思い、話を振ったことはあるが、結局の所うやむやにされてしまうだけだった。


 なら、なにか理由があるに違いない。そう睨んだ俺はその夜勝負に出た。


『四条さん。もう一月になりますし、そろそろ実際にお会いしたいのですがどうでしょうか。場所は希望があればできる限り善処します。

僕も急いでいるわけではないので、あくまで提案ということで。』


 そんな俺の渾身で最大限に気を使った文章を送信した。勝負はここからだ。

 それから数分ほど返事はなく、少し焦りが出始めた頃に通知が鳴った。


『申し訳ございません。このような年齢でお恥ずかしいのですが、家の方針であまり遠くには外出できなくて。

それと、そういったアプリであることは重々承知なのですが、私自身まだ心の準備ができておらず、どうすればいいかもよくわかっていなくて。』


(う~ん……)


 ただ会話をしたいだけなのであればチャットアプリでも使えばいいわけだし、彼女自身パートナーを見つけるためにこのアプリを使っていることは理解できる。恐らく言っていることも本当なのであろう。


 できれば彼女の言い分を尊重したい気持ちはあるが、ここが攻め時であるということには変わらない。


(今、この会話の主導権を握っているのは間違いなく俺だ。いい安パイを探し出せ。ここで攻めずとして何になる)


『これもあくまで提案なのですが、よければ明日は直接通話をしませんか?メッセージ以外で言葉を交わせば緊張もほぐれていきますでしょうし。

ラインなどのIDを教えてもらうことにはなりますが。』


(さあ……、初日にあんたが使った個人情報攻撃だ。かなり危ない提案だと思うが、どうだ……、どう出る……)

 すると、このメッセージにはすぐさま返信が返ってきた。


『そのようなご提案をしていただき本当に宜しいのでしょうか。ありがたく受けさせていただきます。 携帯電話番号:080 01──』


「いや、まてまてまてまて」

(いきなり携帯番号っ!? 提案しといてなんだが、ネットリテラシーがあったもんじゃねぇっ!)


 信頼してくれている証拠なのだろうが、嬉しさよりも危なっかしさによる不安の方が勝ってしまう。


(これって俺も番号を打ち込まないといけないのか? くそっ、自分から裸になることで相手も裸にならざるを得なくするカウンター攻撃ってことか。


 携帯番号なんてすぐに用意することができないってのに……!! ていうか、ラインとかディスコ―ドでする流れだっただろっ! 普通なら! 畜生っ!!!)


 一気に形勢が傾き彼女に軍配が上がろうとする。俺は慌てふためくことしかできなかった。

 しかし、その時……、勝利を目前にした彼女のメッセージが突如として消えた。


「……!?」


『申し訳ございません。直接お話ができると思うとつい舞い上がってしまいました。玉山さんはラインやディスコ―ドはされておられますでしょうか。』


(………………………)

 突如のことで顔が渋くなるが、俺にできる返答は一つだけだった。


『わかりました。ならラインの交換で。明日はこれで通話しましょうか。』


 というところでその日の会話は難なく終了した。だが、俺の眉間にはシワが寄る。


 この一月で彼女を完璧に理解できたわけではないが、その場の流れで携帯番号を入力してしまうような人だ。この一瞬でネットリテラシーに目覚めたとは考えにくい。


(今の時間は夜8時、友人などを家に招いていてもおかしくない時間だな。となれば彼女にセコンドがついていてもおかしくない)


「……いや」

(二人とも『彼女』の可能性の方が大きいか)


 相手が二人いるとなると、嘘や立ち回りの知識を合わせ、もっと周到に相手を嵌めることができるようになる。


 勿論それだけなら別に構わないのだが、問題は二人で一人を演じてくる場合。これをしてくる奴は大体がDQNの馴れ合い、要は冷やかしなのである。


 考えすぎかもしれないが、そうせざるを得ない経験の元での話だ。事実、10連敗と言ってはいるが、メッセージのやり取りだけで切った相手を含めるとさらにかさばる。その中には馴れ合いだって多くいた。


 今までの会話が本当に俺たち二人だけのものだったのか。ただ男を釣って冷やかしているだけなのではないか。会えない理由はそれが原因なのかも。さっきとは別の不安が駆け巡る。


「これは……、ハズレか……? いや、考えすぎな気も……」

 舞い上がっていたのは俺の方なのかもしれない。そんな遺恨の残る形で明日は直接の通話をすることになった。




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