目は覚めてるか?
「 ―― じょ、冗談だろ?」
どう見てもふざけてるように見えないのに聞かずにいられない。
長老はそれを無視した。
「サーナを見てくる」
階段を下り始める年寄りの足音はしない。
「 ―― おまえが、今日あの『石』を持ってゆくだろうとジリがおれに教えに来た。父親がいない本当の理由をワッカに教えたくなかったのはサーナだ。 サーナはあの男に自分と子供が捨てられたみたいに感じた。まあ、それも仕方あるまい。でも、『石』が、出てきた。いつかは来ると思ったが、真実を見る時がきた。・・・もう、落ち着く頃かと思って様子を見に行く途中だったのだが、月に照らされて違うものが見えたのでな・・・」
その体が半分まで下りて行ったとき思いだした。
「・・・おれが落ちてるのを止めてくれたのって、あんたか?」
ヨクニは首をのばし、割れて飛び散った板を見て笑った。
「落ちてるヒトを止める『力』など誰も持たん。 おれなどこの階段の上り下りだけで精一杯だ。ジリにも、とても無理だろう。そんな気がしただけだ。命があることだけは、テングに感謝してもいいぞ」
その声が消えてしまうと、もう何も残っていなかった。
肩の痛みも怒りも焦燥も、長老の苛立った声と一気に押し寄せた『目の覚める話』に全て押しつぶされていた。
月はまだ空にいて、床に張られた板がうっすらと照り返し、黒い穴の下から虫たちの声が届く。
ジリの気配も長老の跡もサーナの叫びも聞こえない。
おれは起きているのか?目は覚めたのか?これは、本当のことなのか?どこまで?
おれはまだ、動けない。




