誤解をまねく
この話が聞こえているのかどうか、ジリは全く動かない。
「だがどうだ?ジリはああ言うがいったいどんな理由だ?こんなに待ってるのにテングは何もよこさない。カエルも口を閉じたままだ。ヒトだって、もうジリの子供の話はしないが、なぜかわかるか?フッタ、おまえが来たからだ。ジリの所に、テングに連れ去られた子の代わりみたいに」
でもおれは、ジリの子供の《代わり》にはなれなかった。
ジリが突然こっちを見たので声にはならない。
「 おまえが来てからあいつは変わったよ。狩の腕がどんどん上がって一番獲物を捕るようになった。なぜかわかるか?食わせたいからだ。サーナの乳をもらったのに、おまえはワッカみたいになかなか大きくならない。ジリは心配だったんだ。フッタ、おまえが」
いらついた声に責められて、さらに後ろに下がる。
「そんな 」こと、言われても ―― 。
「笑えるがなあ、おれとジリはそんなに変わらないほど生きてるのに、おれはもう《狩》はできない。もう、体が追いつかぬ。『力』だってだんだん弱くなるし、あんな億劫なことは早く若い奴にまかせばいい。なのに、あいつはおまえが狩をしないからそうはいかない。いいか、早く狩りを覚えて楽をさせてやれ」
にやりとして黄色くやけた歯をみせわらいかける。だがそれもすぐにしまわれて、はなしはつづく。
「 ただでさえジリは無口でぶっきらぼうで、他のヒトと接するのが下手だから、おれたちはずっと心配してた。サーナは母親代わりだからなおさらだ。おまえは、思ったとおりジリを誤解している」
「 ―― もういい、やめてくれ 」
突然、弓を握ったジリが言葉を残して窓から身をひき、家の中に消えた。
「そうはいくか!おまえのそういう態度が誤解をまねくんだ!」
ヨクニは叫んだが何も返ってこなかった。そして向き直る。
「ああいうところがジリはいけない。 でもな、テングと仲がいいのを見てジリがどう思っていたか考えてみろ。おれたちは何度もこのことをおまえに言おうとしたが、そのたびに奴が『言うな』といった。誤解を解きたかったサーナにもだ」
『それにあの事も』