ヒトをさらう
「 で、でも 何もしないだろ? 別に空を飛ぶぐらい」
「飛んできて、ヒトをさらった」
吐き捨てるような言葉の意味が一瞬わからない。
「 な、に を?」
長老は上を見上げ、「ジリ、言うぞ」と告げた。
「フッタ、おまえには、ヒトの長老としてではなく、ジリの友達として話したいことがある。長なんて偉そうなことしてるが、ただ単に他の奴らよりも少し長く生きてるだけだ。だから、この年寄りヨクニの願いを聞いてくれ。 ―― フッタ、おまえはこの先もジリを助けてここで仲良く暮らせ。《テング》とはもう関わるな」
皺を動かすこともなくしゃべるこの男は、干からび始めているみたいなのに、目だけが別の生き物のように水を含み、その下の黒い穴からおれに向かって言葉がまだ出る。
「 女が子を産むときには十日ぐらい前から男と離れる。その後は生まれた知らせが産婆から来るまで、男は赤ん坊にもカミサンにも会えない」
「な、なんだよ、いきなり」
少しずつ前に出てくる長老のせいで後ろに下がる。距離を縮めたくない。
「ジリはあの日、子供が産まれそうだと聞いただけで狩から早く帰った。最初からそわそわして狩りどころじゃなかったし、あの頃のジリはワッカみたいにぷよぷよした体でとろくてな。 『力』も今ほどじゃあなくて、皆も頼りにしていなかった。まあ変わらずに無口だったが。皆がにやけて送り出したのに、その後ジリのカミサンの『キリ』についていた産婆が叫びながら持ってきたのは、・・・そりゃ、いい知らせなんかじゃなかった」
おれを捕らえていた目がいきなり横をにらみ、つられたおれもその黒く揺らめく水を見る。
落ち着かないその表面が、月明かりに撫でられている。
「テングが子供を、赤ん坊をさらいに来た」
もらいにきたぞ 赤ん坊を




