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見間違い
『力』はもうどこにも感じられず、おれはジリを見下ろす位置に立っていた。
「何度も家を、・・・この陸を出て行こうって思ってたよ。でも、少しだけ、また、沼に行ったときみたいに、・・・心配するんじゃねえかって・・・」
沼から戻ったあの時。サーナとワッカが家に引き上げたら、ジリはいきなりおれの頭を抱えて頭突きをした。痛くて泣きそうになったけど、離れる一瞬にみえたジリの顔がそれを引っ込めさせた。
「あれも・・・、見間違いだ、な。あんたは、カエルからおれが、《テング》に助けられたって聞いて、それで、怒ってたんだ。それだけだ」
見下ろしたジリがにじんで、たまった水はそこへ落ちる。
「・・・フッタ・・」
そのかすれた声は本当に年寄りだった。
腕で顔をこすり、窓の下の荷物をつかむ。
「 ―― これを取りに来たんだ。サーナに言いには行かない。このままおれは出る」
袋を担ぐと足が止められた。




