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※※※ 連れ去るテング
目の前の男はこれから先、あの状況に耐えてゆかねばならない。
「本当にあの通りにやるつもりか?」
ジリが不安そうにきく。
「そうだ。《テング》が連れ去ったのだと産婆に言わせなければならない」
ドアを開くとすぐに悲鳴が上がり、かまわずに入ってゆくと、まだ何も言わないうちに産婆は下の出入り口から飛び出した。
「キリ?」
床に横たわり苦しそうな息継ぎをしているのは、それは、あまりにも懐かしい顔で、こちらにどうにか微笑もうとしていて、わたしは身体の中の何かがつかまれ、一瞬止まる。
「さ・・」
キリはわたしの名も呼べなかったが、包まれて隣に置かれた赤ん坊を指しているのがわかる。
そういえば、さっきの泣き声はどこにいったのだ?そっと近付いて覗いた赤い布から見えるのは、驚くほど小さな生き物だ。
「キリ」ジリがキリの頭のよこに膝をつき、その手を取った。
どうにか微笑もうとするキリの唇が白く、ひび割れ、絶え間なくくるしげな息を出す。そこに口づけしたジリは、赤い布を抱える。
「おお、キリ、これがおれたちの子か」




