伝えにきた
サザナを見送り奥の森から出て、歩いていると、突然「おい!」と声を掛けられた。
しかも上から。
見上げたら、葉もまばらなその枝に白いテングが怒ったような顔で座っている。珍しい。
「なんだ?おまえ、ここはもう《ヒトの森》だそ。 早く奥の森へ帰れよ。見つかったら石でも・・・あれ?・・・お前」
その強張った白い顔はまだ幼さが残り、頬は桃色で、髪は肩から長く垂れているが、「エン?」
呼びかけにそいつが一瞬怯む。
「なんで、知って ・・お前まさか・・まあいい。 お前ヒトだろ?いいか、もうすぐ《カニ》がくるぞ」
エンにそっくりなそいつが枝に立ち上がった。葉が舞い落ちる。
「何言ってんだ?《カニ》は産卵の時にしか移動しないんだぜ。 沼から体を出すのだってめったになくて」
「違う。よく聞け。 いいか、あの沼はもう《カニ》でいっぱいなんだ。 お前ら《ヒト》が《ネズミ》を取りすぎて、幼虫の天敵が減った奴らは繁殖しすぎている。メスをめぐってオスの戦いは段々激しくなり群れを治めていたオスが、負けて食われる。勝ったオスが新しい住処と餌を求めて移動するぞ」
「はあ?そんなの・・・うそだろ?」
こいつ、エンの兄弟か?
確かにテングは皆どことなく似てはいるが、ここまで似るだろうか。
「信じなければ、ヒトは皆死ぬぞ」
笑った。
その顔は、ときどきエンがみせるものだ。
ここまで似ていても、・・・別人だよなあ・・・。
「おまえ、なんでそんなこと、『おれ』に言うんだよ?―― おれがみんなに何て思われてるかしってるだろ?」
木の上で鼻をならした奴は飛んだ。
「お前はヒトだろう?伝えたからな!」
舞い上がりながら叫び、一度振り返ってから木々の向こうへ飛び去った。
「 伝えたって・・・変なやつ」
今度エンに会ったら言ってやろう。ずいぶん生意気な兄弟・・・「・・・あいつら、卵だよなあ・・・」




