※※ そろそろだ
「よけなければお前も魚の腹の中だ」
わたしは自分の怒った声を聞いた。
「代わりに髪を食いちぎられたのか。まったくお前は」
「髪などかまわない!わたしはあのヒトを助けたかった!」
叫んで顔を覆った。
「・・・エン、早く濡れた服を替えろ。湯もある。ゆっくり浸かれ。お前がヒトなら多分今泣いているだろう」
カエルが珍しく表情のあるやさしい声を出した。
エンはゆっくりと立ち上がると「カエルはあれが誰か知っているのか?」と聞いた。
「 ―― 知っているが、おれも助けられなかった」
エンはその答えを聞いても何の反応もみせずに下を見たままで、カエルに支えられていった。
戻ったカエルの息で机の上の炎が揺れる。
「あの男は、ジリの幼馴染だ。ジリの唯一の理解者といってもいい。幼い頃から他の陸に行きたいと言っていたらしいが、ここにきて、良い陸で子供を育てたいと度々俺の所にも来ていてな。つい先日も出るのはどの方向が良いかと聞かれて困った。俺は答えなかったが」
「子が、産まれるのか?」
思わずわたしの口が動く。
「おれと、ジリでせめて子供が大きくなるまで待つよう止めたのに、全く聞いていなかったようだな。エンが見たことは、ジリには伝えないぞ」
椅子にぐったりと掛け「愚かだ」つぶやいたが馬鹿にした響きはない。
「 ・・・もう、限界に近づいている」
「何がだ?」
「ここに留まっていることがだ。狩は船で海に出るまでになり、肝心の動物も生態系がかなり変わってしまった。カニが沼に溢れる日も近いだろう」
「では・・・そろそろか?」
目玉がぎこちなくこちらを向く。
「そうだな。そろそろだ」
わたしはこの表情を映さない眼にそれを読み取った。
「カエルよ、お前、本当は少し怒っているのだろう?」
金色の中の黒い目がろうそくを見つめ、すうっと細くなった。
「そうとも。 自分にな」
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