出せん
「フッタは『証人』だ。お前らに渡すわけにはいかない。早くジリも出せ。おれは『決まり』の番人として二人を《テングの王》に引き渡さなければならない」
カエルの落ち着いた声に皆がどよめく。
「じ、ジリは、出せん」
長老は体を起こし背を真っ直ぐに伸ばした。カエルよりも少し高い。
「おれたちヒトで、奴を守る」
ばちんと焚き火がはぜた。
「なるほど。 ―― おまえら、皆の《力》おさえていないと、ジリを守れないのか?」
そのカエルの言葉に長老は口を引き結び、まわりのヒトたちはうつむいた。
「どうだ?ジリは一人でテングの巣に行くと言って聞かないのだろう?」
知っているようなカエルの聞き方に誰も何も答えない。
「《おさえたまま》でいいから、出せ」
冷たいひと言に我慢できなかったように長老の顔が歪んで叫びだす。
「出せるか!そんなテングに差し出すような真似せぬわ。おれたちは覚悟しておる。テングと戦って」
「黙れ愚か者!きさまらまだわからんのか!『決まり』がなぜできたのか思い出さんか?いや、・・・もうきさまらには無理か・・・」
カエルが重く長い息をもらす。
「 ―― テングの王が、怒っている」
「ジリが撃ったテングが死んだか?」
長老の口から出たかすれたそれに、またおれの体の中身が飛び上がる。




