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魔法使い

作者: 尾生 礼人

医術を極め、数多の人々を病苦から救った✕✕✕✕……。


彼は、次は魔法使いとしての修行を極め、人々の心を救おうと考えました。


「世の中には、

『千日の間、◯◯をすれば、△△の魔法が習得できる』

など、過酷な、または危険な修行法が山ほど あるが、私はそれらの修行法を一つ一つ完遂して、その どれが本当で どれが嘘か、我と我が身を用いて確かめてみせよう」


そう言うと、✕✕✕✕は長い年月をかけて全ての修行法を完遂しましたが、結局、その どれもが嘘っぱちである、と証明するだけに終わり、人々は大いに残念がりました。



厳しい修行の日々によるダメージは✕✕✕✕の体を着実に蝕んでいました。


ある日、彼は森の中で倒れ伏すと、瀕死となったのです。


幸い、村娘が彼を発見し手厚く看病したため、死なずに済みました。


その後、彼は、その村娘と恋仲になると、ついに夫婦となりました。


人々はウワサしました。


『彼は立派な人だと思っていたが、色欲に溺れるとは、とんだ見当違いだ。彼は偽りの修行者であったか……』


これは 世間で、

“色欲などを我慢することで、魔法が使える”

と思われてきた弊害でした。


そんなことで魔法が使えたりはしないのですが、ともかく当時はそう思われていたのです。

なんとなく、清らかな感じがするし、カッコいい!とか、スゴい!とか、思えますからね。


何かを我慢する、あるいは、あえて苦痛に耐える、と言った苦行は、元々は死にそうになった時に発揮される火事場の馬鹿力を、なんとか任意で発動できないか?という試みでした。

(もし出来たとしても、体の方が耐えきれずに壊れてしまう、と言われています)


また、それだけではなく……。

皆が出来ると思いたかったことを 実際には出来ないと証明してしまったせいで、✕✕✕✕は自らに期待を寄せていた人々から一転 憎まれるようになっていました。


そして それは魔法使いを自称する者たちにとって好都合……。


なぜなら、自称 魔法使いたちは、自分たちや その師匠が主張してきた、

『千日の間、◯◯をすれば、△△の魔法が習得できる』

といった修行法を、高名な✕✕✕✕が実践してみせたことで ことごとくウソがバレてしまい、大損害を(こうむ)っていたのです。


本来、出来もしないことを、

『私なら出来なくもない』

と人々に希望を持たせては、何かを巻き上げたり、人には言えないような いかがわしい要求を繰り返していたからです。


彼らは、世間の信望を失った✕✕✕✕を この機会に殺してしまおうと、沢山の刺客を放ちました。


しかし、そんな✕✕✕✕の窮地を救う者が現れます。


征服者として知られた大王です。 


彼は、他国に攻めこんでは土地を奪い、そこに住んでいた者たちを追い出していましたが、ある日、とうとう精神を病み、体調を崩して寝込んでしまったのでした。


配下である戦士たちも同様です。


「これは これまで殺してきた者たちの祟りに違いない……。我々は このまま死んで、地獄に堕ちるのだ……」


なにしろ、直接 殺しこそ しなかったものの、故郷を追われた者は大半が野垂れ死にです。恨まれる覚えは十分にあったのです。


しかし、そこへ✕✕✕✕が現れ、こう(さと)しました。

「残念だが、天国も地獄も存在しない。そして、さらに残念で、かつ、悲しいことだが、死んでしまったら おしまいで、死者が生者を呪い殺すことなど 出来はしないのだ……」


実は彼らは、心が病んだせいで免疫が低下し、ちょっとした病でも命が脅かされるほど悪化させてしまっていたのです。


✕✕✕✕は、彼らが気を取り直して免疫を向上させたのを確かめると、自らの極めた医術でサポートし、回復するまで付き添ったのでした。


大王と配下の戦士たちは、不思議に思いました。

なぜ、自分達のためにこうまでしてくれるのか?と……。


なぜなら彼ら戦士階級は、人を殺す(けが)れた存在として忌み嫌われ、差別を受けていたのです。

しかも、✕✕✕✕は、なんと大王たちに滅ぼされた国の元 王子……。

恨まれる覚えこそあれ、助けられる覚えはなかったのでした。


✕✕✕✕は、大王たちの ‘(おこな)い’ 自体は けっして ‘(ゆる)されない’ が、それは それとして、彼らを ‘(ゆる)した’ のです。


今こそ恩を返す時、と大王たちは恩人の元へ駆けつけました。


歴戦の強者たちがボディーガードになったのですから、並みの刺客など相手になりません。


逆に 刺客を差し向けた自称 魔法使いたちは、

『怪しげなペテン(※科学実験のような ちょっとした手品や、錯覚を利用した小細工)で世を惑わせた』

として、厳しく罰されたのでした。


おしまい。

……当世随一の医師であり科学者でもあった✕✕✕✕がオカルトを否定したことで 惑わされる者達が激減したものの、その死後、✕✕✕✕自身が神格化され……。


宗教家たちの手によって、✕✕✕✕の否定した偶像崇拝の対象となり、また、魔法を使えたことにされ、人々を惑わす道具として利用されたのでありました。


嗚呼(ああ)

(かな)しいかな

 (かな)しいかな

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