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選択するのも愛

 帰り道、昨日行ったお店の話や美味しかった料理の話をして、そういえばと「部屋にあったジオラマってノアが作ったんですか?」と尋ねたら、そうだと言うので、どこかの土地を再現したのかと尋ねると「違う」と言われた。


「初めて出逢った泉に似ていた」と伝えたら、顎に手を当てて考えた後「確かに」と頷いて


「あのジオラマは光が集まりやすい地形を再現しようとしたもので、これまでに行った場所を再現したりなんだけど・・あの泉のような部分はふと思いついて作ったはずなんだ」と首を傾げながら説明してくれた。


「ずっと探していた場所のような気もするけど、あちこち巡るうちに作った泉に近い場所を探すことも忘れてたよ」


「じゃあ、私が初めてノアと出会った泉に似てると意識してしまっただけかもしれませんね」


 それが恥ずかしいわけではなくノアと出会えた場所は私にとって特別だから、ノアにとってもそうであって欲しいと無意識に願望を込めて見れば、似ていると思ってしまうこともあるだろうと、自分を微笑ましく思いつつ言う。

 なんとなく隣を歩くノアの顔を見上げたら、ほんのり耳が赤かった。

 翌日ノアに「今度の週末は空いてるかな?」と訊かれ、「土日どちらも空いてます!」と元気よく答えると、土曜日に会うことを約束した。



 金曜日、ソフィアとレオとルークと私でお昼ごはんを食べていると、ルークがじろじろと私を見てくる。


「何?」


「ミシェル、なんか変わったね」少し寂しそうに言う。変わったって言われてもどう変わったのかわからず、ソフィアに目を向けると


「うんうん、さらに綺麗になったよね」と褒めてくれた。そういう意味でルークが言ったのかわからず、ルークを見る。


「なんか大人っぽくなっちゃって・・なにかあったの?」と子犬のような目で見つめてくる。


うう、子犬可愛い!と内心悶絶しつつ、ノアを好きになった気持ちを伝えるのが愛なのか、今ここでそれを言うのが愛なのか考える。


「好きな人とデートしたから」ソフィアがしれっと答えてしまった。


「う、うそだ・・」ルークが嫌だ嫌だと首を振る。


「ソフィア」レオがたしなめるようにソフィアを睨んだ。


「後で知ろうが、今知ろうが、一緒だと思うのよね」肩をすくめてレオにソフィアが答える。

傷つけないなんて無理。だって気持ちに応えられないのだから。それなら、応えられないのをきちんと伝えるのも愛だと覚悟を決めた。


「その人を好きだという気持ちが嬉しくて、大切にしたいと思ってる」


「・・・」


「ルークのことも弟みたいに好きだよ。でも恋人みたいな愛は返せない」


「・・・」潤んだ瞳で私を見つめるルークに伝わるように私も見つめ返す。

これ以上言葉を重ねるのも違う気がして黙り込む。


「諦めるよ・・なんて言えない。ずーっとミシェルが好きだったんだ。ミシェルに会いたくてこの街に帰ってきたんだ・・」


「うん」


「まだ、ミシェルを好きでいたい」


「うん」


「どうして僕じゃダメなんだろう」


何も答えられなかった。


 心が少し重いまま、研究室に行き、ノアを待つ。うっすら記憶が残る地球と違い、身分の違いで悲恋になったり、嫉妬に狂って事件を起こしたりということがないこの世界。誰かを妬んで自分や誰かを傷つけたりしない世界。


 ただ、恋愛だけは特別で「好きな人を誰にも渡したくない」という気持ちぐらいは存在する。


 自分の想いが通じないとき、ただそれを受け入れる。それがわかっていても、私がルークを落ち込ませるのは心が重い。想いを受け入れられないのに、心が重いと感じるのは傲慢なのかな・・。


ノアが入ってきたので考え事をやめて気持ちを切り替える。


「明日はどこか行きたいところはある?」

帰る頃には気持ちもかなり回復していて、明日何をするかの相談に心が弾む。


「ノアはどこか行きたいところがあるの?」


「今回は無い。ただ君と一緒に過ごしたいだけだ」

 まっすぐな言葉に横目でちらっと見上げると、ふわっと目元が笑みをまとっていて、胸の奥がドクンとなる。


「じゃあ、サンドイッチでも作るので泉でピクニックでもしま・・す?」


「・・・」


「あっ・・べ、別にどうしてもじゃないし、サンドイッチもそんなに美味しくないかもだし、他のプランがあればそれでっ」返事がないので慌てて言い訳を重ねていると


「ピクニックがいい」ポツリと呟くような声だった。


「・・はい」サンドイッチの中身は何にしようかなと考え始める。


「ノアは食べられないものとかありますか?」


「特に無い」それなら自分が作れる範囲で色々用意してみよう、たくさん作っても家族が食べてくれるだろう。


 君と一緒にいたいだけ。そのまっすぐな言葉は口下手なノアから発せられる極上の愛の言葉のような気がして、それだけで充分だと思った。


「じゃあ明日は泉で待ちあわせしますか?」


「・・いや、良ければ家まで迎えに行きたい」


 泉と家は近いから、一人で行っても何も問題はないけれど、家まで迎えに来てくれるのがなぜか嬉しくて。


「はい」とつい緩んだ顔で返事した。


 帰宅してすぐサンドイッチの材料を確認し、足りないものを買いに行く。ピクニックシートに、寒くなってきたから二人分のブランケットも用意して、話すこともなくなったら本でも読もうと本も2冊入れたら結構な荷物になった。


 早起きしてサンドイッチを作る。ライ麦パンやベーグルを使って、クリームチーズとジャムを挟んだり、チキンとレタスとトマトを挟んだり、4種類ほど作って、見栄えの良い出来のものをバスケットに詰め込んでいく。家族以外に料理を振る舞うのは初めてでドキドキする。温かいスープを保温容器に入れて、ハーブティも水筒に入れて準備万端。


 時間になるとノアがやってきた。今日もまたお母さんに挨拶をして、私が抱えた荷物の量を見てびっくりしながら手を差し出して持ってくれた。秋の森の空気を味わいながらゆっくり進んで、泉の側に到着したけれど


「実は秘密の場所があるの」と泉を回り込んで裏側へ進んでいく。木々や岩で見えないけれど、裏側にも小さい泉がある。柔らかい草の上にシートを広げて座ると、柔らかい陽射しを反射する2つの泉を見られる場所だ。少し寛いでから、持ってきたお昼ごはんを広げる。


「自信はないけど、どうぞ」うう、照れるし緊張する。


 サンドイッチを手にとって、ノアがパクっと食べたのを見て、私もひとつかじってから恐る恐るノアを見ると「旨い」と言ってくれた。お世辞かなと思ったら、次から次へと食べてくれたので、不味くはなかったと安心する。


 食べ終わってしばらく経つと、ノアがごろんと横になった。私も少し眠いし隣で寝転ぶ。木漏れ日が降り注ぎ、かすかな水音や小鳥の鳴き声に耳を澄ましていると、スーっと規則的な寝息が聞こえてきた。

 少し体を起こしてノアを覗き込む。ものすごく綺麗な寝顔をここぞとばかりに観察する。長い睫毛、高い鼻梁、ほんの少しだけ薄めの唇。ひとつひとつをじっくり見つめて。さっきより頭だけ距離を詰めてから私もまた寝転んで。ノアの寝息を聞きながら私もまどろむ。


 気がつけば、ノアの寝息は止んでいて。そろりと目を開けてノアの方を見ると黒い瞳が私を見つめていた。ノアの大きな手の平が私の頬を撫でる。優しい眼差しと温かい手の感触にうっとりしていると、親指が唇をそっとかすめ、思わず震える。

 ノアの目に熱がこもった気がしたけれど「冷えてきたから、戻ろうか」と目をそらされた。


 荷物をまとめてから、家に戻る。このまま離れるのが寂しくて、でも家に誘うのもなんだか恥ずかしくて迷っていると、お母さんが出てきて「お茶でも飲んでいって」とノアを誘った。

 もし私の部屋に入ることになったら・・と、急いで自室に一人で入り、さっと片付ける。普段から割と片付ける性格なので、少し出しっぱなしになっていた物をしまうだけで整う。

 リビングに戻ると、ノアの顔を楽しそうに見ているお母さんが目に入る。


「ミシェル、ノアってかっこいいね!」と私にキラキラした目で言う母は、普段からあっけらかんとした性格で楽しいことや嬉しいことはすぐこうやって言葉にするのだ。


「うん、すごくかっこいいと思う」こういう母に育てられた私も良いことはすぐ言葉にする。


ノアを見ると、少し恥ずかしそうに眉毛を下げながら笑っていた。


□  □  □


月曜日、ソフィアと二人きりのランチ。


「ソフィアは今、好きな人いるの?」美人でユーモアがあって優しいソフィアは常にモテている。だけど、ソフィアが誰かを好きだという話は聞いたことがない。

私に比べてデートは数多くこなしているようだけど、誰かと付き合っているわけではないらしい。


「うん、いるよ」


「え」


「ずーっと好きなんだけどね。なにも進展がないの」と少し困ったように笑う。


「だ、誰?私の知ってる人?」


「レオだよ」



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