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再会

昨日と同じ耳鳴りがして、周りの音が消えた。


またあの黒髪の人がいるのかな?と思い、少し離れた校舎の二階に目を向けると、男子生徒が先生の少し後ろを歩いている。遠くて顔までわからないけれど、ふわふわとゆるい巻毛の茶色い髪が印象的だなと思ったとき、その生徒が私の方を見た。驚いたように目を見開いて立ち止まる。

私のいる方向に何かあるのかな?と思って周りを見てみたけれど、特に何も見つからなかったので目線を彼の方向に戻したときには彼の姿はなく、


「なんだったんだろう?」そう思いつつ、本に目を落として意識を集中しはじめたとき、本に影がさす。だれか来たのかと見上げると、


「…ミシェル?」さっき廊下にいた茶色いふわふわ髪の男子生徒が潤んだような茶色い瞳で私を見下ろしていた。


「は…はい」


「ミシェルだ!」と満面の笑顔で飛びつくように私を強く抱きしめ、勢い余って二人で寝転がってしまった。


「ななななっなに!?誰!?」


「俺だよ!ルークだよ!」


「ルーク?」


「覚えてない?小さい頃ずっと一緒にいたのに」


「…ルー?」


「そう!」


「え、ルーなの!?」


「そうだよ!ミシェルに会いたくてこの街に戻ってきたんだ」


「すごい!久しぶり。すっかり大人になってるからわからなかった。でもこのふわふわの茶色い髪の毛と目は変わらないね」


「ミシェルは想像以上に綺麗になってる」


「あ、ありがとう」まっすぐに褒められて嬉しくて頬が熱くなる。小さい頃もルークはまっすぐ褒めてくれたのを思い出した。でも待って、押し倒されたままでは困る。


「ルーク、起き上がりたいんだけど…」


「えー…やだ」


「やだってなに!?」


「ごめん、冗談だよ」笑いながら私を引っ張り起こしてくれた。


「さっきこの街に戻ってきたって言ってたけど、この学校に通うの?」


「うん!この後の精錬の授業から開始だよ」


「それ、私も受ける」


「やった、一緒に行こう」


二人で立ち上がって教室に向かい始めて気がついた。


「ルー、背が高くなったね」


「うん、ミシェルを抱き上げられるぐらいに筋肉もあるよ」


「私より小さかったのに。って、抱き上げてほしくないからね」笑いながら断っておいた。


「やだ、抱き上げる」


「断る」


「お願い」


「断固拒否」


 むう、と少し頬を膨らませる顔を懐かしく思いながら廊下を歩いていると、前方を歩く男性の後ろ姿が目に入る。


「あ」思わず足が止まる。きっと、昨日森で会った彼だ。


「どうしたの?ミシェル」


「…なんでもない」そう答えながら、自分の体を見下ろしてみる。昨日みたいに光に囲まれているのではないかと思ったけど、光はなくいつも通りだった。ほっとしたような残念なような気持ちで視線を前に戻したときには彼の姿はなく、不思議そうに見守るルークに「行こう」と声をかけ教室へ。


ルークの紹介が終わり、精錬の課題をこなす。今日は水に含まれる不純なものを全て取り除くのだ。すべてクリアにしてから、ハーブや光を足す。クリアにするのがなかなか難しく、試行錯誤。スムーズに取り除く自分なりのやり方が見つからず、また来週への課題となる。あと5分で授業も終わるという頃、教室のドアが開く音がした。なんとなくそちらを見ると、黒髪の男性が先生の方へ向かっていく。


「ラクレア君、ちょっと来てくれ」


「はい」びっくりしながらも先生のところへ行くと、


「こちらノア・ワイリー君、精錬の研究者でしばらくこの地方に滞在する予定なんだ。光について研究していて、君の課題の参考にもなるだろうし、卒業までの間補助に入ってほしいんだが頼めるかい?」


ノア、研究者、しばらく滞在、補助・・。言われていることは理解できているのに、うっかり彼の瞳を見たもんだからまた目が離せなくなってしまった。


「ラクレア君?」先生の戸惑ったような声が聞こえる。


「は、はい」吸い込まれそうな黒い瞳からバリバリと音がしそうなほど必死に目を引き剥がして、先生の声へと意識を戻す。


「引き受けてくれるかい?」


「はい」何をするのかもわからないまま、引き受けてしまった。


「詳しい説明はこの後ワイリー君がするからね。今日はもうこの教室を使う予定はないからここを使っていいよ」


「わかりました」そう答えて、自分が使っていた道具を片付けるため席に戻ろうとしたら、ルークがついてきた。


「ミシェル、一緒に帰ろう。いっぱい話したい」


「今日は一緒に帰るのは無理かな」


「えー・・一緒に帰れないの?」


「うん、ごめんね」


「じゃあ明日家に遊びに行ってもいい?」


「いいよ。お母さんも久しぶりにルーに会えたら喜ぶと思う」


「やった。じゃあまた明日ね」


「うん」最後にルークが教室から出ていくのを見送りつつ、ノア・ワイリーの元へ戻る。


「まずは説明するね。その前に、君のことはミシェルと呼んでいいかな?僕のことはノアと呼んで欲しい」


「はい」


「ノア・・と呼んでみてくれないか」ほとんど無表情で提案された。


「・・ノア・・?」さんとか様とかつけなくていいのか迷ったけれど、ミシェルさんと呼ばれるのもなんとなく嫌なので、ドキドキしながら名前を口にしてみる。


「うん、いいね」無表情から一気に笑顔で言われて、鼓動がドクンと大きく跳ねる。


「これからよろしくね、ミシェル」彼の口から出る自分の名前が特別なもののような気がしてきた。


「明日の午後からいくつか実験的なことをしてデータを集めたいんだ。君に手伝って欲しいことは、用具の準備や実験の補助で、放課後までには終わるつもりでいるけど、もし遅くなったときは僕が家まで送っていくよ」


「わかりました。でも家は近いので送ってもらわなくても大丈夫です」


「できれば僕の心の安全のためだと思って送らせてほしい」


「・・わかりました」断固とした意思を感じて、ここで逆らうより受け入れたほうが良い気がした。


「補助については以上。それで、・・昨日のことなんだけど」


「はい」


「昨日、君の周りに集まっていた光は君が森から出る少し前にすっと消えた」


「そうですか」光がどこまでついてきていたのか確認することなんて忘れていたけど、ノアのことで頭がいっぱいだったなんて言えなくて。


「君が嫌じゃなければ、今から昨日の森の奥に一緒に行ってみてくれないか?」


「今から・・はい、わかりました」今日やらなきゃいけないことはなかったはず。何よりノアと話してみたかった。森まで二人で歩くことになり、ゆっくり校門へ向かう。


 ノアは私より4歳年上の22歳で学校を卒業後、さらに研究をするための学院に進み、論文をまとめるために各地方の光の特性を調べて回っていて、この街が最後の地だということ、学院が提供している研究者用の宿舎に滞在していて、昨日この街に到着したばかりで散策してたところ私と遭遇したらしい。


 森に入ると、葉っぱが風で揺れる音や小鳥の鳴き声が聞こえてきた。

「ここは懐かしい感じがするんだ」柔らかい笑顔でゆったりと言うノアを見て、私の心臓がまたトクンと跳ねる。この人の笑顔をもっと見つめていたい。なんて思いながら


「前に来たことはないんですよね?」と尋ねた。


「昨日が初めてだよ」ゆっくりと泉のそばに進んだとき、どこからともなく光が集まってきた。


「え」


無数の丸いポワポワした光が私を取り囲む。上下に楽しそうに弾んで、頭から爪先までなぜだか心地よくて、なのにどこか痺れたような感覚に包まれながらノアを見た。その瞬間、光が一斉に私の体の中に飛び込んできた。


私の周りから光が消えたとき、


「彼だよ」


心の芯に直接響くメッセージ。彼だよ、やっと会えたよと私の全ての細胞が喜びに舞い上がるような感覚に震える。


・・・。


いやまて。


細胞が喜ぶってなんだ。彼だよ、やっと会えたよってメルヘンすぎない?ノアが素敵なのはわかる、今わたしはきっと恋に落ちる瞬間、桟橋なら海に落ちそうな端っこで片足立ちでバランス崩してる状態なのたと思う。


だからって、ここからどうしろというのか。


「彼だよ」


そうなのね!と喜びに目をうるうるさせつつノアに向かって「あなたなのね!」なんて言ったら相当怖い。


光が集まったからって何かお得なの?むしろ、光を一斉に取り込む未確認生物みたいに見えてない?


いっそ「おいしい」なんて光を食べてるみたいにおどけてみせたいとすら思う。やらないけど。ウズウズするけど。 


だから…スルーすることにした。ナニゴトモオキテナイ。


「一緒に森に来ました」ここからどうすればいいの?と無邪気を装ってノアを見つめてみた。さあ、どうでる、ノア?


「来たね」ちょっと目元が赤いのは気のせい?


「あー・・・じゃあ帰りますか」とにっこり言ってみる。


「・・・」ん?さすがにスルーはしない?期待まじりでワクワクしながら見つめると


「送っていくよ」


スルー。そうですか。清々しいです。今スルーしたらもうたぶん後日この件に触れにくくなるのでは?いろんな思いで私の脳内がだいぶ騒がしくなってきたので、くるっと踵を返してスタスタと出口に向かう。


無言でついてくるノア。


おかしい。さっきまではもっとこう・・しっとりと恋愛モードな感じだったのに、光が入ってきて以降、自分とノアへの突っ込みがとまらない。頭と心が騒がしい。これは一旦仕切り直そう、うん。とりあえずなかったことにしよう、うん。そう思いながらスタスタ歩いて家を目指す。


「えーっと、ここ私の家です。ではまた」ぺこりと頭を下げてすぐに家に入ろうとドアノブを掴んで体は半分ぐらいドアへ向ける。


「あ、うん」頬を引きつらせながらノアが頷く。


「・・・」今ここでドアを開けて家に入ったらさすがに失礼だろうか、なんて考えてたら背を向けて立ち去ってくれた。


「ふーーーー」家に入ってドアにもたれかかったまま、ズルズルとしゃがみ込む。完全に変人だと認定された気がする。ここから恋愛しっとりモードに戻れない気がする。


ここにしゃがみ込んでも家族に心配させるだけなので、自分の部屋に入る。もともとあれこれ悩むのは性に合わないので、とりあえずご飯食べてお風呂に入ってぐっすり寝て、起きてから考えることにしよう。寝たらこの突っ込みモードは直ってるかもしれないし。

いつもより1時間早く布団に入ると、疲れていたのかすぐに寝た。


『結構集まって戻ったけど、記憶戻らないみたいだね』


『むしろなんか色々下がってない?これ』


『もう少し光を戻したら彼のことぐらいは思い出すんじゃない?』



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