8.
行くと決めたけど……さ。
「なんでクローゼットの前に居るんだよオレらは?」
極限まで減らされたオレの荷物はハンカチとスマホと手土産、とほぼ手ぶらになった。
あと、この前持ってきた大量のお菓子もあったけど、それはイチゴくんの同居人のシフシさんが持って行くようだ。
なんか地名のような名前だな。
そして、玄関ではなく何故かクローゼットの前で、マットの上にスニーカーを履いた状態で立たされている。
「シフシ」
「はい」
イチゴくんが声を掛けるとシフシさんはクローゼットの扉を開けた。
「えっ……何だよコレ……?」
そこは物置きではなく、真っ白い空間があった。
「ここは先輩のいる世界と僕の住む世界を繋ぐ空間です」
「イチゴくんの……世界?」
「はいっ」
手を引かれて足を踏み入れる。
どこもかしこも真っ白な空間の床は雲のようにふわふわして不安定だ。
「わっ、わっ」
「ふふっ、僕にしっかり捕まって下さい」
思わずイチゴくんの腕に抱きついてしまい恥ずかしくて逃げようとしたが手をしっかり握られてしまう。
とはいえ、不安定な足場はイチゴくんに掴まっていないと真っ直ぐ歩けない。
仕方なく今回だけは素直に従うことにした。
フラフラしながらもシフシさんの後について行くとこれまた真っ白でとてつもなく大きな扉が現れた。
「………」
オレの口は開いたがもう言葉は出てこなかった。
「アワユキ様」
「うん」
シフシさんがイチゴくんの後ろに控える。
イチゴくんはオレを連れて扉の前まで進むと、右手を扉にかざす。
扉はポッポッとあちこちでカラフルに点滅し、数秒後ーー。
ウィーン
どこかで聞いたような機械音を立てて扉は左右に開いた。
「すげぇ。でもこの音って……なんか自動ドアみたいだな」
「はいっ、この扉には臨場感を出すため効果音が付いているんです」
満面の笑顔のイチゴくんに……オレはコケた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
気を取り直して扉の向こうに進むが真っ白い空間のままだ。
あれは演出だったのではと振り返ろうとした時、無風だった空間に突然風が吹いた。
「うわっ」
思わず目を瞑る。
強い風はほんの数秒で徐々に弱くなる。
風が止むとそれまで感じることがなかった草の匂いがした。
「先輩、目を開けて下さい」
耳元でイチゴくんが囁いた。
あまりにいい声でオレはブルリと震えてしまう。
それが気不味くて少しだけ体を離してからゆっくり目を開ける。
「ぇ……えっ……えっ……」
驚きすぎて目も口も大きく開く。
「歩夢先輩」
イチゴくんはオレの前に立ち満面の笑みを向ける。
真っ白だった空間は、緑に囲まれた街とその中心にあるお城が見える崖の上に変わっていた。
「ようこそストロベリー王国へ」
「な、な……なんじゃこりゃぁーーーー!」
オレの叫びは……コダマすることはなかった。